9.定時で上がらなくては
「ラベル見ろラベル。あー、食いたいって言ってたの生姜焼きだったよな?一応どっちでも作れるから最悪外しても大丈夫だぞ」
『それを早く言ってください。私の心労は何だったのですか』
必殺技の流れ弾が飛んできたので、さっとかわしておく。
「ちゃんと相談できるようになったのはえらいぞ。でもな、今俺が仕事中だってこと忘れてない?」
『忘れてませんよ。その程度の輩に手傷を負うような貴方ではないでしょう?』
「そりゃそうだけどさ……」
信号機から黒い光の粒が抜け、元の姿を取り戻したことを確認する。よし、今日も無事負けたな。
「そうだガナッシュー!ちょっといーい?」
踵を返そうとしたところで、乙女に引き止められた。
「ねえねえ『#アイサイベントーの変』って知ってる?」
知ってる。そして原因の半分は俺にある。
「アラザンって奥さんいたんだね!?どんなひとなの!?」
目をきらきらさせてやがる。恋バナ好きな思春期共め……。
「というか、タイムセールとか言ってたよね?帝国にもそんなのあるの?」
「さっきスマホ使ってたよね!?誰と話してたの!?」
ま、まずい。これは非常にまずい。
派遣員四人の中で、俺は一番頭が悪い。この状況を口八丁で切り抜ける器用さなどない。
「あー急用を思い出したぜ!あばよお嬢さん方!」
「あっ、こらー!答えなさいよガナッシュー!」
だから、とりあえず逃げることにする。
帰りが遅くなったら、きっと腹ペコの同居人がふてくされてしまうから。