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お見合い

 お見合い当日。私はサクフォン領へ来ていた。彼が1からやり直した領地が気になったのもあるが、城で見合いなど気詰まりだった。ピクニックのついでに見合いに来たと思えばいい‥‥‥。そう思った。


 馬車で半日かけて来た領地は、思ったより栄えていて歓迎ムードだった。サクフォン伯爵が出迎えてくれて‥‥‥。馬車から降りる際もエスコートしてくれたが、慣れない私は戸惑ってしまった。


 領地に着いたら行こうと思っていた救済院にも訪れ、重篤患者を中心に病気の患者を治癒していった。全ての患者を診ていたら、薬師の仕事を奪ってしまう‥‥‥。私は適当なところで切り上げ、馬車へ戻った。


 「陛下‥‥‥。この後のご予定は?」


 「ないわ」


 「お昼はまだでしたよね? 何処かで食べていかれますか?」


 「結構よ‥‥‥。サクフォン伯爵、今日は『陛下呼び』は止めていただけると、助かるのですが‥‥‥」


 「ああっ‥‥‥。すみません。気がつきませんでした。では、リリア様とお呼びしても?」


 「街では、目立たぬようにリリアと‥‥‥。それ以外の場所では、今ので構いません」


 「昼食は少し遅くなってしまいますが、私の屋敷でも構わないでしょうか?」


 「構いません。お願いします。」


 彼は馬車の扉を閉め、御者に合図を送っていた。しばらくすると馬車は動き始め、20分くらいすると屋敷へ着いたのだった。



*****



 昼食は部屋で食べたが、夕飯は屋敷の応接室で軽めの食事が出てきて、それを二人で食べていた。昼食が遅かったせいか、量も少なめに盛られていて、伯爵家料理人の気遣いに感謝した。


 「お飲みになられますか?」


 サクフォン伯爵は、ワインを片手に聞いてきたので、私は首を横に振った。


 「いえ、結構です。すみません、ワインは苦くて飲めませんので‥‥‥」


 「そうでしたか。次は違うものを用意させますね」


次と言われても困るのだが、サクフォン伯爵は気にせず、自分のグラスにワインを注いでいた。


 「あの‥‥‥」


 「何か?」


 「どうして、お見合いをしようと思ったのですか?」


 「それは、私も気になっていました。リリア様は何故、領地まで来てお見合いしようと思ったのです? リリア様がお見合いをされた事の方が驚きですが‥‥‥。いや、みんな驚いているんですよ」


 「みんなって‥‥‥。街の人達?」


 「ええ。ここに来たときは、畑以外何もなくて‥‥‥。みんなで力を合わせて、やっとここまで来たんです」


 「えーと‥‥‥。伯爵は何故、結婚しなかったの?」


 「言い訳になるのですが、ただ仕事が忙しかった‥‥‥。それだけですね。後は、王都へ戻るのを諦めたくは無かった」


 「それが、例え政略結婚でも?」


 「王族や貴族に生まれたら、好きな人と結ばれる可能性はゼロに近いと思っています。物語のような事が起きればいいなと‥‥‥。昔はそんな風に思った事もありましたが、現実はそんなに甘くはありません」


 「‥‥‥そうですか」


 こんなに、アッサリ話してくれるとは思わなかったので、何だか拍子抜けだ。



*****



 「リリア様は? なぜ、お見合いを受けようと思ったのです?」


 「私も正直に言うわ‥‥‥。自分の気持ちにケリをつけたかったのよ。ハッキリ言うけど、貴方のことは好きじゃない‥‥‥。どっちかっていうと、嫌いよ」


 私がそう言うと、彼は顔に手を当てて笑っていた。


 「お見合いで、お見合い相手に『キライ』と言った人を初めて見ましたよ」


 「私も普段は、こんな事を言わないわ。貴方が、『王都へ戻るために必要だった』と言ったから、私も正直に言ったまでよ」


 「ふふっ‥‥‥。そうですか。いいですね。私達、似た者同士かもしれません」


 「似た者同士? 一緒にしないで欲しいわ」


 「一緒ですよ‥‥‥。好きでもない相手と見合いをしている。違いますか?」


 「違わない‥‥‥。合ってるわ」


 「なら契約しませんか?」


 「契約?」


 「仮面夫婦になるんです。私は貴方に指一本触れない‥‥‥。その代わり、貴方の夫役を立派にこなしてみせましょう。私は王都での地位を得て政治に参加する‥‥‥。どうです?」


 私はそれが、悪魔の囁きに聞こえた。愛のない夫婦なんて、幸せになんかなれないだろう。そのうちバレてしまうだろうし、それなら1人でいた方がマシだ。釣書は、たくさん届いてしまうだろうが‥‥‥。それは仕方ない。


 「生憎(あいにく)、愛のない結婚はしないと決めてるの。私は、1人の人生を送るわ」


 「そうですか‥‥‥。残念です」


 サクフォン伯爵は、ワインを(あお)ると私を見ていった。


 「リリア様は美しい‥‥‥。本当のことを言うと、一目惚れだったんですよ。だから‥‥‥。ストラウド様を好きなままでいいから、貴方と一緒になりたかった。これが正直な気持ちです。自分でも驚いているんです‥‥‥。リリア様を好きになってしまったことに」


 「さっき、好きでもないと‥‥‥。あ!!」


 「どうしました?」


 「好きでもないって言った方が、演技だったの?」


 「‥‥‥はい。普通、好きでも何でもない人と見合いをしようなどと思ったりしません。貴方は違ったようですが」


 私は額に手を当てると、テーブルに肘をつき俯いた。


 「‥‥‥そうですね」


 「一度、ストラウド様と正直に話してみたらいかがです? それで、ダメだったら私と結婚しましょう。愛がある結婚でも、愛がない結婚でも、どちらでもいいですよ。決めるのは、あなたです」


 まるで、ストラウドと結婚しないのなら、私と結婚するのは決定です。みたいな言い方に腹が立ったが、それも一つの選択肢にしてもいいかな。と思えるほど、彼の話し方は穏やかで聞いていて心地よかった。


(これも、ストーリー補正なのだろうか?)


 その後は仕事の話になり、ストラウドの話が出てくることはなかった。




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