番外編~聖女リリアとストラウド~
「では婚約して‥‥‥。折を見て、こちらから婚約破棄でも構いませんね?」
私の言葉に、彼はその場で固まっていた。
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1ヶ月前。私は成人の儀を控え、社交パーティーの準備に明け暮れていた。
魔王ステファンが、ソンソムニア王国の国王を倒してから早くも13年が経とうとしている。
ソンソムニア王国は、国王陛下が亡くなる前に粛正があったせいで貴族が少なくなっており‥‥‥。政務が行える状況では全くなかったが、そこはストラウドが全力でカバーしてくれていた。
「どうせ、10年ちょっとだろ? それくらいなら、いてやるよ」
そんな事を言っていた彼が2週間くらいで、音を上げる位には、ソンソムニア王国の国政は荒れていた。いや、あれは‥‥‥。荒れていたというレベルでは無い。崩壊しかかっていたのである。
彼は私の後見、国政はおろか私の『聖なる力』を求めてやってくる変な人達の抑制まで、やってくれていた。
小さな頃は、単純に『この人と結婚したい』と思っていたが、これ以上彼をソンソムニア王国の犠牲にしては、いけないとも感じていた。だって彼は、手伝いに来てくれた魔王領の『魔族』であり、他国の王族なんだかもの‥‥‥。
彼が魔族だと知っているのは、重臣の一部だけだ。それでも、私の近くに置くのは『危険』だとして、危険視している人もいる。魔力が暴走したら、どうするのかと‥‥‥。
(もう、解放してあげよう)
彼を見ていて、ここ数年はそう考えるようになっていた。いつまでも、縛りつけておける様な人ではない‥‥‥。それに、彼はスザンヌの事が‥‥‥。
そこまで考えて頭を振った‥‥‥。これ以上、考えるのはよそう。婿は必要があれば、他国から受け入れればいいし、無理やり結婚させられそうになったら、『神からお告げがあった』と言って、一生独身でいよう。確か聖職者は基本的には清らかでなくてはいけないハズだったし‥‥‥。
そこまで考えて、自分は執務室から出て自分の部屋へ戻ってきているのに気がついた。
「陛下、今日はお疲れのようですから、もうお休みください。明日の朝、起こしに参りますので‥‥‥」
「分かったわ。ありがとうレベッカ」
レベッカは、私専属のメイドだ。昔、孤児院に治療と称して『聖女信仰』を深める目的で通っていた頃、年の近い彼女と出会い、仲良くなって城へ見習いメイドとして来てもらったのだ。
はじめは一緒に遊ぶことも多かったが、見習いメイドの仕事内容は、なかなかハードだったらしく、国王の専属メイドになるには試験を最低5回は受けねばならず、私の側にいるために大変な努力を重ねたと他の侍従から話を聞いている。
彼女に声を掛けて良かったのだろうか‥‥‥。孤児院で、私が声を掛けなければ、彼女はもっと幸せな人生を送っていたのだろうか‥‥‥。
ベットに入った私は、いつもは考えないような事まで考え始めてしまい、なかなか寝つけなかった。




