その後
崩壊した謁見の間に現れたのは、ストラウドとアースと聖女リリア、それから妖精王だった。
「あれっ、スザンヌ生きてる?」
さっき別れたばかりのリリアが、素っ頓狂な声を出してこちらへやって来た。
「何とか、生きてるわよ」
「ごめん‥‥‥。間に合わなかったよな」
「ううん。ストラウド、ありがとう。リリア、それに妖精王までも‥‥‥。駆けつけてくださって、ありがとうございます」
今までの人生で味方らしき味方はいなかったのに、私の窮地にクレオさんやステファン様、それ以外に3人も駆けつけてくれたことに、心の中で感謝した。友に心配されてこんなに嬉しかったのは、生まれてはじめてかもしれない。
「自国へ戻ったら門前払いをくらってね‥‥‥。母上や父上の墓の場所も教えてもらえずに、ウロついていたのをアースが呼びに来たんだ」
「久しぶりに仕事した気分にゃ」
アースは、ストラウドの肩に乗っていたが私が手を出すと、頬ずりしながら、私の肩の上に移ってきた。
「‥‥‥ありがとう、アース」
「やっぱり、助けは必要なかったな」
「そんなことないわ‥‥‥。何というか、これから必要になると思うの」
『「「「これから?!」」」』
私は半壊してしまった謁見の間を眺めながら言った。
「まず、魔の力に取り憑かれた国王陛下を倒したのは、聖女リリアだということにして欲しいの」
『「「「‥‥‥」」」』
*****
私は消えてしまった宰相や、書記官を呼びつけると、これからどうするべきかを話し合った。
「倒したのは、スザンヌと魔王ステファンでしょ? スザンヌではダメなの?」
「私は、この国の王子に婚約破棄されている上に、魔王ステファンの婚約者なのよ? 外聞が悪すぎるわ。何か企みがあってやったとか、根も葉もない噂をされてしまうかもしれないし‥‥‥。私はいいけど、魔族の国の人を悪く言われてしまうのは、ちょっとね」
「‥‥‥すっかり、魔王の妃ね」
「いや、そうじゃないってば」
「またまた~」
『ごちそうさまです』
違うのに‥‥‥。と思いながらステファン様を見ると、顔を赤くしながら視線を逸らしていた。
(いや、そういう態度は余計に誤解を招くから!!)
私がステファン様に目線で伝えようとしたが、逆に微笑まれてしまっていた。
「私も、しばらくの間は城に滞在してお父様と一緒にサポートするつもりだし、出来ればストラウドにも協力して欲しいの」
「俺?!」
「‥‥‥無理かな?」
「いや、いいけど‥‥‥」
「待て、スザンヌ。この城に寝泊まりするなんて話、聞いてないんだが‥‥‥」
ステファン様は、かなり怒っているのか赤い目を光らせて、威嚇するように近くへ来て睨みつけていた。
「今、決めました‥‥‥。というか、転移できるんだから、日帰りでもいいんだけどね」
「‥‥‥俺の婚約者だという自覚はあるのか?? 許さん!!」
(いや、昭和のお父さんが言うような、「結婚は許さん」みたいな調子で言われてもね‥‥‥)
「分かりました‥‥‥。日帰りにするから、そんなに睨まないで」
「‥‥‥いや。分かれば、いいんだ」
「もし寂しいんだったら、兄上がこっちの城に泊まりに来ればいいんじゃないか?」
「なっ‥‥‥。俺は別に、魔王城のことがあるからにして‥‥‥」
「ステファン様、私はちゃんと帰りますから」
「‥‥‥うむ」
家に帰るみたいな言い方になってしまって、私も微妙に恥ずかしかった。
「それで、何だったか‥‥‥。この国を立て直すのを手伝って欲しい‥‥‥。だったか? それで、どうするんだ?」
「えっと、その‥‥‥。出来れば、聖女リリアには、この国の国王になって欲しいと思っています」
「はぁ?」
「何だって?」
「嘘だろ。5才児だぞ?」
「だから、しばらくの間は、ストラウドに後見人になって欲しいのよ」
「‥‥‥私は、婿でもいいけどね」
リリアは何に納得したのか、頷くと両手を組んでふんぞり返っていた。嫌がられると思ったけど、国王になるのは構わないらしい。
『私は、落ち着いたら森に帰らせてもらいます。森の管理がありますから‥‥‥』
妖精王ルテラは、何故か聖女リリアのお守り役みたいになってしまっているが、聖女リリアの中身は前世の記憶と合わせて40才だ。問題ないだろう。
「もちろんです、妖精王ルテラ様」
私が妖精王と話していると、ストラウドとリリアは「婿にはならない」とか何とか、2人で言い争っていた。私は話を進めるために手を叩き、騒ぎが収まったところで言った。
「いい? 国王陛下は闇の力に囚われていたことにするの‥‥‥。実際、そうだったしね。それで、闇の力が復活する前に聖女リリアが400年の眠りから目覚め、闇の力に取り憑かれた前国王を退治した‥‥‥。そういうことにしましょう」
「闇の力か‥‥‥。上手いこというな、スザンヌ」
「だって、魔の力が‥‥‥。とかいうと、魔族の事を知らない人達は、きっと魔族の仕業だって思うでしょう?」
実際に使われたのは魔力だったかもしれない。ただ、人族のほとんどの人達は魔力を使えないし、恐れていると思う。魔力に対する恐怖や不安を、不用意に煽ってはいけないと思った。
「倒すところ以外は、だいたい合ってると思うし、それでいいんじゃないのか?」
「でも、国民は納得するのか‥‥‥。悪政を敷いていた訳ではないのだろう?」
ストラウドとステファン様の指摘に、私は前もって考えていたことを話した。小説の内容とは違うが、以前、チート系の小説で読んだことのあるストーリーに、こんな話があったのを、思い出していたのだ。
「そこで‥‥‥。ちょっと汚いかもしれないんだけど、救済院や孤児院で聖女リリアの『聖なる力』を使って、病のある人をリリアに治してもらうんです。『聖なる力』は本物だと民に信じてもらい、噂を広めてもらえれば、わりと上手くいくんじゃないかな───と思うんです」
救済院は、前世でいう病院だ。主に薬を取り扱う薬局みたいな場所なので、治癒師みたいなチートな存在が現れたら、救済院の人達は驚くだろう。
「そんなに上手く行くのか?」
「やってみないと、分かりません‥‥‥。だから、臣下や国民で前国王を慕っていた人達が、もし反対運動や反逆を起こそうとしたら、その時はストラウド‥‥‥。あなたに盾になってもらいたいの」
「盾? まあ、それくらいなら‥‥‥。10年くらいだろう? 大人になるまでだったら、ついててやるよ」
「ストラウド、大好き」
「うわっ‥‥‥。やめろ、抱きつくなよ」
「それで、救済院に行く日はいつにする?」
「戴冠式は‥‥‥」
その後、話し合いは続き‥‥‥。私達が魔王城へ帰ったのは真夜中を過ぎた頃だった。




