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暗闇の向こう側

 転移した先は薄暗くてよく分からなかったが、目が慣れてくると、そこがソンソムニア王国の王城の中にある、謁見の間であることが分かった。


「あなたは‥‥‥。イリヤ陛下」


「久しぶりだな‥‥‥。スザンヌ。息災であったか?」


(本当に私を殺そうと思っていないみたいな口ぶりね。穏やかな分、恐ろしいわ)


 この人が、魔王領に向けて刺客を放ち、多くの人を犠牲にし、スウェン王子を操って私を殺そうとしていたんだと思ったら‥‥‥。腹の底から憎しみが湧き上がってきた。


「ええ‥‥‥。ステファン様が、おりましたので」


「君には失望したよ。魔王の婚約者になったと聞いて、魔王を倒す(コマ)にするつもりが、力も返してしまっているとは」


「もともとステファン様の一部だった()()を返したまでです。そんな言い方は可笑しいと思いますよ、陛下」


「‥‥‥いっちょ前の口をきくようになったな、スザンヌ」


「イリヤ陛下こそ‥‥‥。いつから、その箱の傀儡(かいらい)になったのです?」


 私は陛下が手にしている美しい彫りが入った木箱を指差した。小さなオルゴール位の大きさで魔力を込められるように鍵穴の下に魔石が埋め込まれていた‥‥‥。思い違いでなければ、私が昔、家宝の間で開けてしまった小箱だろう。


「この箱か? 家宝の間で見つけたのだ。綺麗であろう?」


「ええ‥‥‥。あなたは、その箱に取り込まれてしまったのですね。箱の中に残った魔の力の残影を覗き込み、何かを見てしまった」


「何を言っているのだ? スザンヌ」


「深淵の縁を覗き込んで、闇に落ちてしまう人はたくさんいると思います。誰にだって『美しい心』と『そうでない心』を持ち合わせている‥‥‥。私は両親から、そう教わりました。ただ、国王が闇の声に耳を傾けては、いけませんわ」


「もうよい‥‥‥。そなたには失望した。スザンヌ、君は魔王の婚約者になったことで魔族の一部を受け入れてしまった半人族だ。魔力を自在に操れる魔族は悪だ。得てして、物語では悪者は退治されるものだよ」


 国王陛下は薄汚い笑いを浮かべると、手のひらを私へ向けて言った。


「消滅せよ、ディサトレサチュア!!」


 まばゆい光りが目の前に溢れ‥‥‥。光を見つめながら、私はここで死ぬんだな‥‥‥。ただ漠然とそう感じていた。


 だから目の前に、ステファン様が現れた時は焦ったし、ステファン様だけは、死なせてはいけないと思った。


「クレアウォール!!」


 地面が盛り上がり私達の目の前に現れると、床の大理石が防壁となって、私とステファン様を包み込むように、球体の城壁が出来上がった。


 ステファン様は、力を使いすぎたのか膝をついて倒れそうになりながら、結界を張り続け‥‥‥。攻撃が止むとその場に倒れ伏した。


「ステファン様!!」


 壁となっていた大理石が崩れ落ち、砂埃が舞い上がり視界が悪くなる中、私はステファン様に駆け寄った。


「大丈夫だ‥‥‥。魔力を使い果たしただけだ。」


「それなら私の魔力を‥‥‥」


「いや、逃げるんだ。あいつの狙いは、スザンヌ、君だ‥‥‥。今すぐ転移して魔王城へ逃げるんだ。部屋には、それなりの結界を張っ‥‥‥」


 私は何かを考えるより先に、ステファン様へ口づけていた。閉じた口を開くようにキスをすると、魔力を補充する事を意識してキスを続けた。


 ステファン様は、目を見開き驚いていたが、やがて観念したのか、キスを受け入れていた。


「小癪な!!」


 部屋を舞っていた砂埃が収まり、視界が開けてくると、国王陛下が再び攻撃を仕掛けようとしているのが見えた。


 ウォン──────


 音が聞こえたような気がした。気づくと、ステファン様は国王陛下の後ろに立っており、指先を喉元へ当てていた。国王陛下の後ろに立っていた宰相らしき男は、いつの間にか逃げ出している。


「ひっ‥‥‥」


「お前を殺すのは簡単だ‥‥‥。このまま拘束されて牢屋にいくか、この場で処刑されるか‥‥‥。どちらか選べ」


「ステファン様‥‥‥」


「お、お助けを‥‥‥」


「地下牢へ連れて行け」


 何処からかクレオさんが現れると‥‥‥。実体化したのか、国王陛下に手枷をして、牢屋へ連行していった。ステファン様への連絡も、きっとクレオさんがしてくれたに違いない。今度、お礼を言わなきゃ。


 ステファン様は、落ちていた小箱を拾うと中を確認してから閉じた。私はステファン様が小箱を見ている間、小箱に取り憑かれやしないかと不安になったが、どうやら杞憂だったようだ。


「スザンヌ‥‥‥。魔力が枯渇してるんだ」


 目を細めて笑いながら言うステファン様の様子に、私は開き直って答えた。


「私は、転移魔法が使えるようになったんですよ? ステファン様一人ぐらい、後で私がお送りいたします」


「‥‥‥そうか」


 私はステファン様に抱きつくと、ステファン様の匂いに安心感を覚えながら言った。


「ステファン様が無事で良かった」




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