魔の森
私が転移した先は、薄暗いジメジメとした森だった。以前、外交使節団との会食で「魔王城の中で、無断で転移した者は魔の森へ飛ばされる」と魔王ステファンに言われていた事を思い出す。
「何だか気味が悪いわね‥‥‥」
森の出口を探して、もうかれこれ1時間近く歩いている気がする。もうダメかもしれない‥‥‥。そう思った時、目の前にある草が揺れた。
「誰?」
草むらの中から出てきたのは小さなウサギだった。キョロキョロしていてたが、赤い瞳をこちらへ向けると首を傾げていた。
「まさか‥‥‥。魔獣?」
気づいた時には遅かった。うさぎ魔獣は、牙を剥き出しにすると、私に襲いかかってきた。
「?!」
人影が現れると間一髪のところで、うさぎ魔獣に向かって何かを投げつけ、煙が立ち込める。
「走って!!」
フードを目深に被った青年は、私の手を掴むと反対方向に走り出した。
「えっ‥‥‥。ちょと?!」
草原まで辿り着くと、青年は振り返りフードを外した。
「ストラウド?!」
ピンク髪の彼は、日の光に照らされながら笑っていた。
「スザンヌが城を飛び出したって聞いてさ‥‥‥。転移魔術で追いかけてきたんだ。間に合って良かったよ」
「‥‥‥なんで?」
「なんでって、リリアを探すんだろ?」
「‥‥‥うん」
私は溢れ出てくる涙を堪えながら頷いた。ストラウドは見ないふりをして、私の頭を優しく撫でていた。
「聞かないの? なんでリリアを探してるのかってこと」
「言いたくないんだろ?」
「うん。でも‥‥‥。リリアは手掛かりになると思って」
「刺客の原因?」
「それもあるけど‥‥‥」
「分かった‥‥‥。一緒に探すよ。見つけられるかどうかは分からないけれど」
「ありがとう。ストラウド」
「いや‥‥‥」
「それにしても、どうして私のいる場所が分かったの?」
「それは‥‥‥」
「あるじ~!!」
「「アース!!」」
「あなた、見かけないと思ったらずっとバッグの中にいたのね」
「アース、全くお前は‥‥‥。俺の使い魔だろ? でも、そのお陰で今回は、役に立ったんだけどさ」
「もしかして?」
「そう‥‥‥。アースが、俺に居場所を教えてくれたんだよ」
「スザンヌ~お腹すいたにゃ!!」
「アース、ありがとう」
アースは瞳をクリクリさせながら、尻尾を揺らして笑っていた。私はマジックバッグの中からクッキーを1枚取り出すと、アースに手渡した。
「こちらこそ、ありがとなのにゃ~」
小さなクッキーを回転させながら食べる姿は、リスみたいに可愛かった。
「それ?」
「あら、ストラウドも食べる? ソンソムニア公爵家の料理人が作ったから、美味しいわよ‥‥‥。時を止める『次元収納』タイプのマジックバッグに入ってたから大丈夫。腐ってないわ」
「ありがとう‥‥‥。今度もらうよ。それより移動しよう。日が暮れそうだ」
「分かったわ」
私はアースを肩に乗せると、鞄を反対側の肩に掛け直し、ストラウドの後に続いた。




