契約違反?
「「「!!」」」
「俺に嘘は通用しないぞ、スウェン王子」
「ステファン様、何故このようなところに?」
「お前たちが、なかなか帰ってこないからだ‥‥‥。洗脳されてないか心配になってな」
「そんな‥‥‥。さすがに、また騙されたりなんてしませんよ」
「毒を盛られて、そのまま気がつかずに飲んだのは誰だ?」
「あーもう、すいませんってば‥‥‥。ステファン様は、何をそんなに怒ってるんです?」
「怒ってる‥‥‥。そう見えるか?」
「え、ええ‥‥‥」
ステファン様は顔に手を当てて視線を逸らし、ストラウドとスウェン殿下は目を見合わせて驚いているような顔をしていた。
「部屋に戻るぞ」
「えっ‥‥‥。ちょっと!!」
ステファン様は、黒い渦を出現させると私の手首を掴み、いつの間にか執務室へと戻って来ていた。
「スザンヌ‥‥‥。何を聞いていたんだ?」
「ええと、その‥‥‥」
身体の中に薄く張っていた結界が破られるような感覚があった。靄が晴れてくように心が吸い込まれていく。
「ファミリア国についてか?」
「‥‥‥心を読みましたね?」
「リリアというのは誰だ?」
「‥‥‥答えられません」
「そうか」
「契約違反です。私が心の鍵‥‥‥。結界を張れるようになるまでは、心の中を覗かないで欲しいと、言っていたではありませんか」
「結界は張れていたではないか?」
「屁理屈です‥‥‥。私は城を出て、リリアを探しに行こうと思います」
このまま魔王城に籠もっていても問題は解決しないだろう‥‥‥。刺客は怖いが、私のせいで周りが巻き込まれてしまうことの方がもっと怖かった。
「待て‥‥‥。それは、許さん」
「許していただかなくて結構です。私達は、本当の婚約者ではありませんよね?もともとは、ステファン様は私に『利用価値』があると思ったから、私に近づき契約をした。違いますか?」
「‥‥‥」
「利用価値がないなら、ステファン様が私を匿う必要は無いはずです‥‥‥。婚約破棄していただいて結構です」
「いや、婚約破棄には千日草が‥‥‥」
「なかなか手に入らないんですよね? それも探してきます」
私は空中に手を翳し、見よう見まねで黒い靄を出現させると、渦の中へ入っていった。
「待て!!スザンヌ、俺は‥‥‥」
ステファン様は何かを言っていたが、既に森の中にいた私は聞き返すことが出来なかった。




