面会
「知らないな‥‥‥」
翌週になって、スウェン殿下との面会が許可された。地下牢に入ると、鉄格子の中でスウェン殿下は石畳に蹲るように座っていた。
パンとスープを差し入れすると、顔を上げて話を聞いてくれたが、その答えは「知らない」との事だった。
「知らない?!」
「リリアという名の王女だろう? 聞いたことないな‥‥‥。ファミリア国で合っているのか?」
「ええ」
「私の情報が正しければ、ファミリア国の王族に王女はいないと記憶している‥‥‥。昔、学園に通っていた頃、ファミリア国の留学生が来る予定だったのだが、全て王子だったハズだ。『いくらなんでも、遠すぎないか?』みたいな理由で話が立ち消えになったみたいだったが?」
「本当に?」
「もし、王女がいることをファミリア国が隠していたのであれば、分からないだろう」
「‥‥‥そう」
私は何かを、完全に見誤ってしまったのだろうか‥‥‥。小説と話が違いすぎる。他に何を聞いたらいいのか、分からなくなってしまっていた。
「スザンヌ‥‥‥。そいつは洗脳されていたんだ。あまり信用しない方が、いいかもしれない」
地下牢まで案内してくれたストラウドが、後ろで話を聞いていたのか忠告してきた。
「あの、スウェン殿下? 誰に洗脳されていたのか、ご自分で分かりますか?」
「おそらく‥‥‥。父上ではないかと思う」
「国王陛下が?! スウェン殿下、そんな事、言っても大丈夫なんですか? 下手したら戦争ですよ」
「‥‥‥私は捨て駒にされたんだ。それも、スザンヌ、君を暗殺するために‥‥‥。正直に全て話した方がいいだろう」
「魔王の婚約者に手を出すなんて、正気の沙汰とは思えないな‥‥‥。国王も洗脳されていた可能性はないのか?」
「残念ながら、それは無いと思います。実は、父には特殊能力がありまして‥‥‥。どんな暗示や催眠術、毒や魔術さえも効かないんです。その能力があるからこそ、父上が兄弟の中で国王に選ばれたと記憶しております」
「マジか‥‥‥」
「国王陛下が私を殺そうとしているなんて、信じられません‥‥‥。そんなに嫌われていたようには思えないのですが」
「私も、そこは疑問でした‥‥‥。父上は、スザンヌを娘のように可愛がっていたと思います。まるで、魔王の嫁になるのが反対で命を狙っているような気さえします」
「嫁反対で? でも、私を国外へ追放したのは、そのとき洗脳されていたスウェン殿下ですよね? それに、アシュタイト国で襲われたことにも、説明がつきませんし‥‥‥」
「スザンヌ‥‥‥。謝って済まされる事ではないが、すまなかった」
スウェン殿下は、いきなり頭を下げると石畳の上に頭を擦りつけるようにして謝っていた。
「それは‥‥‥。許せませんが、洗脳されていたのですし、お互い水に流しましょう。そう言えば、婚約者のナターシャ様は、何処にいらっしゃるのでしょうか?」
「‥‥‥国へ帰りました」
「え?」
「無関係ということが証明されて、次の日に馬車で帰りましたよ」
「‥‥‥スウェン殿下、裁判にかけられるのですよね? それでも帰ったんですか?」
「それで良かったと思います。いつまでもウロウロしていたら、何か言われていたかもしれませんし‥‥‥」
「それは、我々魔族に‥‥‥。という事か?」
気づけば魔王ステファンが、私たちの後ろに立っていた。




