ファミリア国への地図
「‥‥‥へ?」
パイプ椅子に座って足を組みながら、名簿を見ていた彼は、私の登場に驚くと振り向きざまに、ひっくり返ってしまっていた。
「‥‥‥いってぇ」
「大丈夫? ストラウド?」
「大丈夫じゃない‥‥‥。よく兄上のところから、ここまで来れたね」
「普通に来たけれど?」
「そう‥‥‥。何かご用ですか?」
ストラウドは両手を広げると、今は仕事中だということをアピールしていた。
「分かってるわよ‥‥‥。仕事中に申し訳なかったわ。少し、ストラウドに聞きたいことがあったの」
「聞きたいこと?」
「リリアって人、知らないかしら?」
「リリア? 誰なんだ?」
「私も分からないの。たぶん、ファミリア国の第三王女だと思うのだけれど‥‥‥」
「ファミリア国? さぁ。どっかで名前くらいは聞いたかもしれないけど」
「‥‥‥どっかで?」
「分からない。俺が王族として城で暮らしていた時は、外交が盛んで‥‥‥。いろんな人と挨拶したし、リリアなんて名前、珍しくもなかったからな」
「そう‥‥‥」
「その、リリアが何かあるのか?」
「いいえ、何も‥‥‥。あっ、そうだわ。ファミリア国が載っている地図ってストラウドは持ってるかしら?」
「持ってるが‥‥‥。まさか、行くつもりなのか?」
「地図を見るだけよ‥‥‥。ありがとうストラウド」
私はストラウドが持っていた地図を借りると、部屋を出て行こうとした。
「スザンヌ」
「何?」
「いや、スザンヌの元婚約者、スウェン殿下だが‥‥‥」
そこまで言うと、ストラウドは黙ってしまった。何か言いづらそうにしている。
「何? 私は大丈夫だから、正直に言って」
「今度、別の場所に移送されるんだ‥‥‥。こちらで裁判にかけられることになって‥‥‥。会えなくなる前に、会っておくか?」
「‥‥‥」
私はストラウドの言葉に絶句してしまった。気を遣われのにも驚いたが、王族であるストラウドがそんなことを言っても、いいのだろうか‥‥‥。そう思った。
「私は会わなくても大丈夫よ‥‥‥。そんな関係じゃなかったもの。政治的な理由で婚約しただけだったし‥‥‥。彼は他の女性といることの方が多かったもの。むしろ、婚約解消することが出来て、せいせいしているくらい。周りは、そう思っていなかったみたいなんだけれど」
「そうか‥‥‥。それを聞いて安心したよ。実は、スウェン王子は誰かに操られていた事が判明してね‥‥‥。誰かは分からないが、本当は『毒を盛ろう』何てことは、考えていなかったと思われている。不確かなことは言えないが、たぶん極刑にはならないだろう」
「そう‥‥‥。殺されずに済んでよかったわ。あっ、そうだ。やっぱりスウェン殿下に会えないかしら?」
「え?」
「リリアの事を聞いてみたいのよ」
確か小説では、リリアはスウェン王子と恋に落ちていた。既に出会っている可能性は高い。
「リリア‥‥‥。なんで? 知り合いじゃないんだろ?」
「急に思い出したのよ‥‥‥。スウェン殿下が、ファミリア国の話をしている時に、留学生の話をしていたことを」
「それがリリア?」
「分からないわ‥‥‥。でも聞いてみたいの」
「分かった。今度、話せるか聞いてみるよ」
「ステファン様に? 分かったわ。今度でいいわよ、また今度ね」
「?」
「いろいろ、ありがとうストラウド」
「ああ‥‥‥。また何かあったら、聞いてくれ」
私はションリさんに挨拶を済ませると、自分の部屋へ戻ったのだった。




