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人事部へ

 扉の前に強制的に送られた私は、床に突っ伏す様に倒れていた。自力で立ち上ると、辺りを見渡した。左を見ると廊下が続いており、目の前の扉には『人事部』と書かれたプレートがぶら下がっていた‥‥‥。そして、扉の前には見覚えのある人物が立っている。


「ストラウド!! 無事だったのね。」


「ああ‥‥‥。あんときの、スザ‥‥‥」


「しぃっ!! ここでは私、セシルって事になってるから」


 ストラウドの口に手を当てて塞ぐと、モゴモゴ言いながら、何故か驚いた顔をしていた。


「そうか‥‥‥。アースから何か聞いたのか? 本当の名前を言うのは危険だって‥‥‥」


「そうよ。ストラウドは何故ここに?」


「こっちに戻ってきた時に、兄上に言われて人事部へ来たんだけど‥‥‥。本当は師匠が帰って来てさ、セシルを連れ帰ってこいって五月蠅いんだよ。何でも公爵との約束を果たさなければ大変なことになるって‥‥‥。今更だよな」


「そう‥‥‥」


「ご主人様~」


「アース、元気そうだな」


 アースは私のバッグから飛び出すと、私の肩の上に乗り、尻尾を振っていた。小粒な瞳をキラキラと輝かせて、私達を交互に見ている。


「魔王城のソファーは、モフモフ快適にゃ~」


「良かったな」


「でも、魔王の所有物になったんなら安全だろうし、元気そうでよかったよ」


「‥‥‥そう見える?」


「ああ。何だがえげつない結界が張ってあるな‥‥‥。兄上のか?」


「ええ‥‥‥。貴方の兄、ステファンが張ったモノよ。それが、どうしたの?」


「いや‥‥‥。兄の所有物になったんだな」


 そう言うと、何故かストラウドは顔を赤くしながら視線を逸らしていた。


「そのっ‥‥‥。所有物って、婚約者みたいなものだって聞いたけど、本当なの?」


「え? 知らないで所有物になったのか?」


「なったって言うか‥‥‥。なし崩し的な感じで? 確か『魔王城に見合う働きをするなら1年は匿ってやる』って、言ってたわ」


「‥‥‥ふうん。そういうことか。所有物は、人間界で言う『妾』みたいなもんだよ」


「妾?!」


「正確には違うけど、お互いパートナーとして理解した上で契約をして、所有された者は魔王が、望むものを望むままに差し出す‥‥‥。って、ところかな?」


「さ、差し出す?」


「たぶん、兄上のはそういう意味じゃないから安心して? 仕事上の、契約だと思えばいいよ」


「でも、キスされたのよっ‥‥‥」


「だって、人間は魔力持ってないから結界を維持するのに、必要じゃないか」


「‥‥‥」


(待って、待って。さっきステファンは「1ヶ月は保つだろう」って言ってたけど、もしかしてもしかしなくても、最低でも11回は、あの行為をしなくちゃならないワケ?!)


 私は、まさかの可能性を考えて青ざめた。あれは‥‥‥。キスは恋人同士がするものである。間違っても、雇用主とするものではない。


「他に方法はないの?」


「あるにはあるけど、今の方法の方が、俺はいいと思うよ。その‥‥‥」


 ストラウドは言い淀むと、再び視線を逸らし、顔を赤くしていた。


「分かったわ‥‥‥。キスが1番まともな方法なのね?」


「あっ‥‥‥。でも兄上には、まだ婚約者とか他に所有物とかいないから、魔力の奪い合いとかならないと思うし、大丈夫だと思うよ」


「奪い合い‥‥‥」


 私はストラウドの言葉に前世の『大奥』を思い出し、思わず半眼になってしまっていた。


「そんなに嫌なら、俺が魔力譲渡してあげてもいいんだけど、魔王の所有物に手を出したら、たぶん所有物にも罰が下るからなぁ」


「罰?!」


 一気に得た情報量の多さに、私の脳ミソは処理が追いつかず、キャパオーバーになってしまった。働く前から疲れてしまった私に、ストラウドが扉の前で振り返りながら言った。


「とりあえず、部屋に入ろっか」


 私が頷くとストラウドは扉をノックし、声を掛けてから、私達は部屋の中へと入った。




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