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プロローグ

 


 ガタッ、ガタッ、ガタガタンッ‥‥‥



 乗合馬車に乗っていたスザンヌ・ボルティモアは、馬車が揺れた瞬間、座席から10cmほど浮き上がった。乗合馬車に乗るのが初めてだった彼女は為す術もなく、馬車の揺れに合わせて座席の近くに置いてあった木箱に、そのまま頭から突っ込んだ。


「いったぁ‥‥‥」


 痛くて蹲っていると、急に走馬灯の様なものが見えてきた。目の前で星がチカチカしている光景に、私はもう死ぬんだと思った。


「おいおい、大丈夫か? 嬢ちゃん」


「んぐ‥‥‥」


 涙が出そうになるのをこらえながら、歯を食いしばった。その時、私は唐突に思い出していた。自分が小説の中に出てくる悪役令嬢『スザンヌ・ボルティモア』だということに‥‥‥。


「おーい‥‥‥」


 呆けている私に、しきりに向かいの席から手を振っているオジサンがいる。


「‥‥‥すみません、大丈夫です」


「そうか。気ぃつけなよ。そこに、取ってがあるだろ? そこを掴むといい」


「あ、ありがとうございます」


(馬車の側面に取ってが付いているなんて、前に振り落とされた人でもいたのかしら‥‥‥)


 私は馬車の隅にある木箱にお尻をぶつけながらも、その『取って』にしがみついた。


「嬢ちゃん、荒れた道はまだまだ続くよ。覚悟しときな」


「‥‥‥」



*****



 かくして隣国のアシュタイト国に着いたのは日が暮れる寸前だった。


 事前に用意していた身分証を検問所で提示すると門番の兵士は敬礼した。


「ソンソムニア王国の貴族の方ですねっ、お疲れ様です。宿へご案内致しましょうか?」


「ありがとう。結構よ」


 私は城門をくぐると、ため息をついた。


(やっと、隣国まで来れたのね)


 私、スザンヌ・ボルティモアは、ソンソムニア国にある公爵家の公爵令嬢で、つい先日まで王太子の婚約者だったが、身に覚えのない罪で断罪され、国外追放になっていた。


 追い立てられるように国外追放された私は、父の「ほとぼりが冷めるまで国外へいなさい」という言葉を受けて、アシュタイト国へ身を寄せることになったのだ。


 婚約者の王太子は、私と婚約破棄をして男爵令嬢と婚約すると言っていた。つまり今回の罪をでっち上げたのは間違いなく王太子派の人間に違いなかった。


 王太子の行動に、私は怒りを通り越して呆れかえってしまっていた。そんな理由で国外追放されなければいけないなんて、バカバカしいにも程がある──なんて稚拙で愚かなのだろう。正直に言ってくれれば、婚約破棄でも何でもしてあげたのに‥‥‥。本当に仕方のない人だ。


 私は済んだことは仕方がないと気持ちを切り替えて、この国の目的地へと向かったのだった。




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