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第七話 【突然サバイバルが始まった件について-1】

「えぇ……。い、行ってらっしゃい」

「うむ、では行ってくるぞ」


 僕は僕の誘拐犯が誇らしげに立ち去るのを、何て身勝手なのだろうと呆れ果てた顔で見送っていた。

 信じられないよー。


 ここの周りは少し見回ったけど、基本的には森しかない。水が流れる川は割と近くにあるからそれは助かった。


 けどそれしかないじゃん!!

 果物、獣、森、川!!


 ヤバイよヤバイよ!!!

 こんなの僕、あっという間に死んじゃうよ!!


「うーん、何だろ。まずは何からだろ……」


 風がヒューっと吹き抜けた。

 寒い、取り敢えず寒い。


 そう言えば寝る時はパトちゃんがギューってしてくるから、割と何とも思わなかったけどさ。

 ここってそんなに温かくは無いよね。

 そもそもパトちゃんが居るだけであったかいんだよね。

 何でだろ。


 うーん、待てよ。

 寒いかコレ。


 もしかして寒いか?


 パトちゃんのアジトは風通しの良いステキなアジトで。

 屋根も無ければ壁もない。


 というかもはやアジトですらない。


 うん、これまずいな?


「よし、ご飯と寒さ対策だ」


 パトちゃんが何日で帰ってくるかは分からないけど、明日明後日の話って訳でもないだろう。

 流石にそこまで長くは離れないと信じたいけど。

 ぶっちゃけやりかねない気はしてる。


 だったら最低限で考えるに、まずは食料。

 それから防寒対策だ。

 うんうん、それでいこう。


「眠る場所、作らないとなぁ」


 改めてパトちゃんのアジトを眺める。


 うん、本当に終わってる。

 これをアジトだと言い張るパトちゃんが信じられない。


 本当に何にも無い。

 ゴミ山みたいな収集物の塊と二枚の石壁と枯草しかない。

 アジトというか、ただのお気に入りスポットじゃない?

 仮にアジトだとするなら間違いなく【アジトLv0】だ。

【1】ですらない。


「良い感じの木とか枝を集めるかなぁ」


 ひとまず木を集めよう。

 薪になる分と、寝床に使えそうな分と。

 そこを覆える大きめの葉っぱと。


 そしてある程度集めて、思った。

 と言うより、改めて気が付いた感じかな。


「運ぶのが意外と楽だったなぁ。僕、力が付いてるんだ」


 今まで感じた事の無い、不思議な感覚だ。

 こういう作業が不向きで今までずっと薬草拾いとかに専念してきただけに、凄く新鮮で奇妙な感じがする。


 太い木をヒョイと持ち上げて肩に担ぐ。

 としてノシノシと歩いてアジトへ持ち帰る。


 うーん、我ながら手早い。

 まるで僕じゃないみたいだ。

 体力もついているみたいで中々疲れたりもしない。

 本当に不思議だ。


 持って帰って来た木々を組み合わせて、簡易な風凌ぎの場所を形成する。

 縦横2メートルくらいだろうか。

 僕専用ハウス。


 ……初めての自分の家!?

 何かそう考えたらテンション上がって来た!!


「壁を葉っぱで覆う事で、少しでも風が通り難くなる様にして……出来た!」


 バーン。

 初めての僕の家(自作)!!

 おぉー全然カッコ良くない、ボサボサの塊の様な家。

 うん、すぐ壊れそう。

 魔物でももうちょっと良い家作れそうだよね。

 僕って本当にセンスないや。

 けど良いんだ、何たって僕の初めてのマイハウス!


 家の中に枯草を敷き詰め、僕はそこに飛び込んだ。

 わーい!

 僕の家だー……って、あれ?

 く、崩れ……?

 いやいやちょっとちょっと待って待ってよー!!


「ギャァァァァァァ!!!」


 飛び込んだ衝撃でいきなり崩れたァァァァ!!


 ……ぐすん。

 初めてのマイハウス、崩壊した。



 ━━━━━━



「ふぅ、やっと出来たー」


 さっきの失敗を踏まえて、今度は崩れ難い様に組み上げた!

 これなら多少の衝撃なら大丈夫な筈!


 よーし、ここで寝れば取り敢えず大丈夫そうだなと、安心していた時期が僕にもありました。

 えぇ、今日の夕方までは。


「さささささ寒いィィィィィィ……」


 身体はガタガタ震えて歯はカチカチと当たり続けている。

 身体の何処を触っても冷たくて、温もりを求めて逃げる先がない。

 詰んだ。


「と、取り敢えず……火をおこそうかな」


 昼間に集めた薪に火を付けて暖をとって見る事に。

 ほぇぇぇあったかい……。

 焚き火最高じゃん……。


 焚き火の存在に何とかギリギリ癒されつつ、凍傷なりかけ寸前で何とか夜を切り抜けた。

 朝がこんなに遠いなんて初めての経験だったよ。


 やっぱりアレだね。

 雨と、風と、地面の冷たさ。

 せめてもこの三つは何とかしなきゃなぁ。


 ぼっち生活、過酷すぎて泣けてきた。

 ぐすん。




 ━━━━━




 さて、今日は暖をとる方法を考え直さなければならない。

 このままだとあと二、三日で凍え死ぬ。

 少なくとも身体は今晩にも壊死する。

 ヤバ過ぎて笑えない。


 何か無いかなと、木々を集めて、草を集める。

 取り敢えずそれしか思い付かない。

 ヤバイよヤバイよ!!


 お、良い木がある。

 骨組みに使えそう!


「よーし、これを……うぇぇぇ!?!?」


 何か木の裏に引っ付いてんだけど!!

 何だコイツ!!


「い、イモムシ?」

「にゅ」


 え、イモムシ?

 大きくない?

 僕の半分くらいあるんだけど。

 それは言い過ぎか?

 でも三分の一は確実にあるよコイツ。


「……」

「にゅ」


 敵意は無い……のかな?

 ん?


「お前、一人なの?」

「にゅ」


 何だか……可愛く見えて来たんだけど。

 寂し過ぎておかしくなっちゃった?

 うーん、それにしてもなんだか……、


「く、来る?」

「にゅ!」


 ━━━━━━━━━━

【テイムされました】


 ・シルキーワーム

 スキル【製糸】

 ━━━━━━━━━━


 え!? 何?

 どういう事!?


「………ァァァアアアアダダダ!!!」

「うわぁぁぁなになになに!!??」


 何なの!?

 どう言う事なのさ!!


「忘れ物をしてしもうた!!」

「このタイミングでパトちゃん!?」

「いやー実に危なかったのじゃ、セーフ」

「急に出てこないでよ!」


 僕と僕の肩にのるイモムシの二人で目を丸くしてパトちゃんの登場に驚いた。

 出てくる時はいつも急に空からだもんね。

 困っちゃうよまったく!


 そんな人騒がせなパトちゃんは僕に一瞥もなく、ゴミ山みたいな収集物を漁っている。

 何か忘れ物って言ってたけど、何だろ?


「ここでもない、ここでもない……あ! あったのじゃ!」

「見つかったの?」

「うむ、首尾は上々である。では妾はこれにて……ん?」

「どうしたの?」


 パトちゃんがドラゴンの姿のままズガンズガン近寄ってくる。

 今以てひたすらに怖い。

 その格好で顔を寄せるのやめて。

 鼻息だけで地平線の彼方まで吹き飛びそう。


「なんじゃその魔物は?」

「ん? このイモムシ?」

「そうじゃ。敵意は無さそうじゃが」

「何かテイムしたって」

「……は?」

「僕もよく分からなくてさ。何なのかなこれ?」

「にゅ」

「……成る程のぅ。ふむふむ」


 パトちゃんはそこから一人でぶつぶつ言い始めた。

 そして。


「良し、許す!」

「にゅ!」

「何が?」

「ではさらばじゃ、わっはっはっはっガォー!!」

「何言ってんのパトちゃん」


 何が何やらわからないや。

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