第四話 【ドラゴンに拉致された件について-4】
【パトリ】
「こ、ここは何処ですか?」
「妾の巣じゃな。今日からここで暮らすからよろしく頼むぞ」
暫く飛翔し、漸く我が家に帰還する。とは言え、妾の様な恵体に小細工など無用。故にこの地には殆ど寝に帰っているだけであり、ここはただの安全地帯じゃ。巣と称すくらいが丁度良いじゃろうて。
「えっと、そ、それって本当なんですか?」
「本当じゃな」
「本当なんだ……」
まだ疑っておったのか? 此奴、妾の如き強者が眷属を持つ事の稀さが分からんと? 本来ならば泣いて誇るべき事である事が分かっとらんようじゃな。
「あの、ご飯作る場所は?」
「無いが?」
ふん、そんな物ある訳なかろうて。
「え? じゃ、じゃあお風呂とかは?」
「無いが?」
無い無い、水浴びなど近くの池にドボンで終いじゃ。
「せ、せめて水は?」
「川が向こうに流れておる」
水などそこいらに無限にあるじゃろうが。
面倒なわっぱじゃの。
「え? じゃ、じゃあ寝る場所は?」
「ここじゃが?」
「え?」
ここに丸まって寝ていれば、外敵に脅かされる事も無く穏やかに眠れるからの。素晴らしい寝床じゃろうて。
「えっと、せめて僕が使える様に整えても良いですか?」
「構わんが、今日はダメじゃ」
ま、人の身であれば色々と苦労はあるじゃろう。細かい事はわっぱに任せるとして。とかく、今日はダメじゃがな。
ばふんと、人型の姿へと再び戻る妾。こうなると何処と無くヨソヨソしくなるアランが可愛くて仕方ないわ。
「妾はパトリじゃ。好きに呼ぶが良い」
「パトちゃん」
「……えぇじゃろう」
二言を言っては沽券に関わる、我が事ながら言葉を間違ったわい。くっ、パトちゃんか……まぁ良い。所詮数十年そこいらの話、此奴らの寿命など一瞬よ。
「ねーパトちゃん、なんで今日はダメなの?」
「これからまぐわうからじゃ」
「まぐわう?」
そりゃあな、ダメじゃろ。うんうん、ダメじゃ。今日はもうまぐわうと決めておったからな。妾は寝床の奥に冬場の敷物に使っていた枯れ葉の溜まる場所へとアランを誘導する。
「ほれ、こっちにこいこい」
半信半疑で近寄って来たアランの服をスポーンと剥ぎ取り、その上で怯えながら己が身を守る様に小さく構えるアランにのしかかった。
男の子がギャアギャア喚くでないわ。
まったく、やれやれ。
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「ぐすん、怖いのに気持ち良いの複雑だったよぉ……」
「えぇい! いつまでウジウジしとるんじゃ! 今日から毎夜の事となるのじゃぞ、シャキッとせんかシャキッと」
「うぅぅ……ん? え? 毎夜?」
うーん、ハァ! 伸びが気持ちいいのぉー! 久方ぶりに欲求を発散したから気分が頗る良い感じじゃ! こりゃもうアレじゃな、ひとっ飛び行ってくるか!
「ガアアアアァァァァ!!!」
「ギャァァァァァァアアアアアアアア!!!」
妾より大声で叫ぶでないわタワケが。竜化するくらいの事で驚いておったらそのうち驚きの感情だけで死んでしまいかねんのぉ。先が思いやられるわい。
ふむ、翼が絶好調じゃ!
「どわっ!?」
地面を強く踏み締め、高高度な跳躍をキメると同時に翼を広げ、青空へと飛び出して行く。どこまでも広がる青空。昨日までは鬱蒼としていた視界とは打って変わって、今は晴れやかで実に気持ちが良い!
「ガアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」
ひゃっほーい! どこまで行こうと妾の勝手! 果てなき青空を縦横無尽に駆け回り、勢いのままに雲を蹴散らす。
最高じゃ!
こんな気分久方ぶりじゃのー!
なんじゃそういう事じゃったか。妾の生活に足らんかったのはスパイスだったのじゃ。贅沢な素材だけでは飽きが来る。故にスパイスを工夫する事で変化を齎す。
寧ろスパイス自身が工夫すれば一挙両得じゃ!
やがて満足する程に蒼天を飛翔した妾はアジトへと帰還した。くはー腹が減ったわい、飯じゃ、飯じゃー!
「あ、ご飯出来てるよパトちゃーん!」
何じゃ用意出来ておるとはそこなスパイスは中々に有能ではないか!
「やるのぉ! どうやって捕まえたんじゃ?」
夕食と思しきその並べられた肉は、先日食べたそれと遜色ない雰囲気をしており、なんならその時以上の良い匂いを醸し出しながら食べられるその時を待っている。パクリと、口に含んだ。
「うんま」
何故たかが肉がこれ程までに美味いのか。
最高じゃ。
「えへへ、そうでしょ? 上手く捕まえられたんですよ!」
「だからどう捕まえたのじゃ?」
「どう? んんー、手で?」
そりゃ手は使うじゃろて。
手段を言わんかアホたれが!
その非力さでどう捕まえたのか聞いとるというに!
「もうええわい、美味い故に手段は問わん」
「ん?」
んんー!! 話すのも面倒になる程に美味い! たかが肉じゃぞ? ほんの少し手を加えるだけでこの様な美味な食事になろうとは驚きも驚きじゃ! これだけでもわっぱを持ち帰った価値があったという物、拾い物じゃったなぁ。
「ふぅ、満足じゃぁ」
「良かったー。さ、片付けてっと」
「何じゃ、オヌシの分は無いのか?」
「え? あ、この後少しだけ頂きます」
ん? まさか妾に遠慮して? 水臭いのぉ。
「明日から共に食事を取る事、命令じゃ」
「え?」
「分かったな?」
「はい!」
従順な下僕たるは良い事じゃが。
どうも良い子過ぎるのもやり辛いのぉ。
ま、涙目で喜んどるしえぇかの。
さて、食後の運動じゃ!
服を脱がすか!