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第二話 【ドラゴンに拉致された件について-2】

【パトリ視点】


 ハァー退屈じゃ。


 こうして空から地上を見下ろす事数百年。何の鮮度も無い飽き飽きした景色。変わり映えせんのぉ。やる事も無いし、ちょっと小腹も空いてきた事じゃし、取り敢えず魚でも捕るか。


 魚を捕ると言っても、釣りだの網だのは必要ない。妾のレベルに至ればただ川に着水すればそれだけで二、三匹は勝手に失神して浮いてきおる。イージーキルでオーバーキル。つまらん、実につまらん。水面に浮かぶ魚を爪先で摘んで口へと放り投げる、パクリと一口。


 食った感想は美味くも不味くもない、普通の味。何処を見渡しても変わり映えの無い景色、何処を彷徨いても変化の無い日常。ドラゴンの身に産まれ、何一つ不自由のない生活が招いた自由過ぎるが故の閉塞感。持たざるも問題じゃが、待ち過ぎるも問題じゃろうて。ハァー何かこう、楽しめる事など起こらんかのぉ。


 奴と子を為すか? んや、今はそんな気分ではない。もっとこう、気軽にぐわーっと発散せんと、とてもそんな気分にはなれん。しかして、種の存続だとかで奴から催促されとるしのぉ。むぅ……いやっ、面倒じゃ! 行かん行かん!


 ならば街でも破壊するか? んや、徒党を組んだ人間に追われるのは、それはそれで面倒じゃ。それに場合に寄っては妾とて死にかねんしな。やめやめ、リスクとリターンが合っておらん。


 大地へ足を下し、隣を見やれば気絶した獣。捕獲する必要もなく、妾の覇気のみで飯は手に入る。木の塊にブレスを吐けば焚き火が完成し、後はその火に肉を晒すのみ。生肉はトコトン飽きたのじゃ。せめて焼いて食わねばいよいよ以って興が乗らぬ。


 焼けるまでしばし時間もかかる事じゃし、果物でも食べるかと翼を広げる。そしてバサリと飛びたてば、僅かな移動で果物の溢れる妾の秘密のスポットが。ここの果物はどれも美味なのじゃ。それらを口に運んではバリボリと食し、そろそろ肉が焼けたかと思うタイミングで先程の場所へと帰還する。


 ん? なんじゃ、妾の肉に群がる不逞の輩が……面白い。誰の獲物に手を出したのか、後悔させてやろう。敢えて真上から太陽と重なる様に降下し、更に恐怖心を煽り立てる。じゃが気絶はせん様に覇気は抑えて……ふふふ、さぞ驚いておる事じゃろうて。


「と、鳥? いや、大きいな……ってイヤイヤ待って待ってこっちに来てるぅぅぅ!!」


 鳥な訳があるかタワけが。やれやれ、なんじゃ人間のわっぱではないか。つまらんのぉ。


「ヒィ!!」


 こいつを食ったとて美味くも無いじゃろうし、場合によっては無用な諍いを起こしかねん。やれやれ、どうしたものか。


「うわぁぁぁぁぁドラゴンだぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ハァー、やかましいわい」

「ぁぁぁぁああああぁぁぁぁああああ!!!」

「やかましい!!」

「ぁぁぁぁ……ぁ?」

「大人しくせい、取って食ったりせんわ」

「……へ?」


 んん? 怯えたまま顔を隠して丸くなりおった。どこまでも弱々しい奴じゃ、この神々しき我が姿がコヤツを威圧してしまっておるのか? 実に面倒な。じゃがまぁ、ならば一時の話し相手として利用するが、せめてもの余興か。


「えっと、その……」

「あー、ちょっと待っとれ」


 ばふんと、煙に包まれた妾は、その大いなる姿を人に模した姿へと納め、見事に美しき女子へと大変身! どうじゃ喜べわっぱ、これならば顔も上げられるじゃろう。


 恐る恐る顔を上げたわっぱが、歓喜のあまり目を見開いてー


「いや服ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「え? あ、そうじゃった」


 そんな文化もあったな。

 やれやれ、人は面倒じゃのぉ。




 ━━━━━




「で、お主はこの場にて何をしておった?」

「えっと、その……」


 魔力によって衣服をサラりと生成し、これで文句も無いじゃろうと胸を張ってやったが、何故か股間を抑えながらモジモジしとる。ふむ、露出が過ぎたか? まぁ局部は隠せておるしえぇじゃろうて。


「お腹が空いてて……その、つい……」

「食べたのか?」

「いえ、味付けを……」

「味付け?」


 は? なんじゃこのわっぱ。妾の飯を勝手に食った訳ではなく、勝手に調理していたと? クンクン、ふむ。中々に胃袋を擽る匂いがしとる! どれ、味の方はー


「ガブリ」

「うぅ、美味しそう……」

「うんんんんんま!!」


 何じゃこれは!! 何でそこいらの獣肉がこんなに美味くなっとるんじゃ!! まるで魔法ではないか!! どういう事じゃ、妾の魔法では大地ごとケシ炭にしてしまう事しか出来んというのに、これは誠素晴らしいのぉ!


「そこなわっぱ、オヌシなかなかやりおるな」

「あ、ありがとうございます」

「分かっておる。一口やるから食うがよい」

「良いんですか!?」


 嬉しそうに妾の手から施しを分け与えられるわっぱは宛ら子犬の様な雰囲気をしており、何というか支配欲が沸いてゾクゾクしてきおる。


 はむはむと肉を頬張り、おいしいおいしいとニコニコしながら大切に大切に食べるその様子を見ていると、つい甘やかしたくなってきてしまい、


「ほれ、これも食うがよい」

「えー嬉しい!! ありがとうございます!!」


 心の底から喜んでいる様で、むしゃむしゃぱくぱくと骨をしゃぶり尽くす勢いで肉を食べたわっぱ。


 ふむ、なんじゃこのわっぱ、なかなか良いではないか。


「オヌシ、名は何という?」

「僕ですか? アランです」

「よし、アランよ。肉は美味かったか?」

「はい!」

「ならば対価は十分じゃな。よし、妾の物になれ」

「はい! ……え?」

「えー、ここか? うむ、核はここじゃな。我が名、パトリ・ドラゴンロードの名に置いて、そこなわっぱ、アランを我が下僕と認めよう」

「……へ?」


 退屈しておった事じゃしな。これは丁度良いおもちゃを見つけたわい。魔力を送り込んで……ふむ、隷属化の証である腕の紋様も無事に出現した。これで此奴は我が物となった。


「あの、こ、この痣みたいなのは?」

「我が配下となった証じゃな」

「え? こ、これって消えますか?」

「消えんな、一生」

「えええええ!?」


 よく見れば整った顔立ちに擦れた金髪、細っこい身体付きが妾の加虐心をゾクゾクと刺激しよる。つぶらな瞳は小動物を思わせ、またその瑞々しい唇は今すぐしゃぶり尽くしてやりたい程の艶やかさを誇っておる。


 それに見てみるがよい、この控えめな雰囲気を。

 もう無茶苦茶にやってくれと全身が叫んどる様じゃ。


 うむ、暇な折にちょっど欲しかった暇つぶし、可愛らしい配下を手に入れられた。今日はツイとるわい。


「ガアアアアァァァァ!!!」

「うぇぇええ!?!?!?」


 再び竜化し、アランをガシリと脚で捕まえる。


「う、嘘ですよね? まさかこれ」


 そして妾は青空へと羽ばたいた。


「嘘ですよねぇぇぇええええ!!!」


 中々に愛らしいわっぱじゃ。巣に帰ったらさっそくまずは愛でてやろうぞ。妾のあの様な姿如きで慌てふためくわっぱが、宵闇の我が姿にどの様な反応をしおるか、今から楽しみでならんわ。


 じっくりとねぶってやらんとな。

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