第十九話 【突然サバイバルが始まった件について-13】
発見はしたが、いきなり飛び込むなんて事は出来ない。
ローヌの身に起こった事態は深刻。
その話に寄れば、凄惨な様が想像出来てしまう。
二の舞いになるのだけは避けなければ。
「どう?」
「大丈夫……だと思うのら」
「にゅ」
「よし、退路を確保しながら進もう。頼むよイモモ」
「にゅっ!」
イモモが僕らの通るであろう帰り道以外の場所に、着々と罠を仕掛けくれている為、僕らはこの道を戻ればそれだけで退路は確保出来ている。
とららがここの匂いを記憶してくれていて、この道以外から通るならイモモの罠に掛かるという寸法。
少しやり過ぎの様にも思えるけど、正直命の危機まであると考えているからね。
やり過ぎくらいで丁度良い筈。
そして、たどり着いたオーガの里は。
「うっ、酷い臭いだ……」
「死臭なのら……」
ここまでくれば、僕の鼻にもキツい臭いが感じられた。
本当に、凄惨な有様で。
建物はその悉くが破壊されていて、家の中の僅かな隙間さえも逃さずに獲物を漁っている感じだ。
ぐるっと回ってみるに、武器や衣服、或いは金属の様な物は比較的その場に残されていて、当時の壮絶さを物語っている。
けれど、その一方で死体は一つも残されておらず、その場にある食料らしき食料も何一つ残されていない。
ここから発せられている死臭は、飛び散った血液が、ぬかるんだ地面で腐敗して発生させている様だ。
もっと死体が散見していると予想していたから、正直な所、精神面ではかなり楽ではあるけれど。
「何も……ないね」
「全部食べられているのら」
そう、恐らくこの襲撃の目的は【食料】だ。
けれど、そこにある異常性を一言で表すなら【全ての生き物すら食料と捉えている】という事。
ここが里として機能していないのであれば、せめて遺留品は回収して上手く使いたい所ではあるけど、ローヌの気持ちを無視出来ないし、何よりまだ謎の【脅威】という問題が未解決だ。
そっちを何とかしてからじゃないと、……ん?
何だ、今そこで何か動いた様な……。
「……とらら?」
「とららも気になるのら。でも同じ臭いだと難しいのら」
流石のとららでも、これだけ異臭の漂う空間の中で、そこに紛れ込める【当事者】を判別しろってのは無茶だよね。
それならー
「イモモ、待機しててね」
「にゅ」
場所を特定する。
恐らくあの民家の中だ。
まだ残党が?
もしくは生存者?
どちらにせよ僕は侵入者と見做される。
ならここは一旦撤退か?
「にゅー」
「どうしたの?」
「にゅっ!」
んんーイモモのこの感じだと、多分『大丈夫だから行け』って感じかな?
「とらら?」
「……とららも大丈夫そうに思うのら」
この二人が警戒を解きつつあるのなら、少しでも情報は欲しい身の上としては、虎穴に入らずんばってね。
「よ、よし。行くよ?」
「わかったのら」
「にゅ」
恐る恐る、民間へと近付く。
扉は……!
「にゅ」
「ありがとね」
イモモが遠距離から粘着糸で扉を開けてくれた。
「ヒッ」
中からまた声がした。
心なしか、怯えている様な声に思える。
少なくとも何かは居るね。
何だ?
「お、お邪魔します……。誰か居ますか?」
「ヒィィィィ!!」
「君は……」
「お願い殺さないでぇぇぇ!!」
そこに居たのは。
「お母さんー! お父さんー! みんなー! うぇーん……」
小さく蹲り、誰も居なくなったこの里でただ一人。
怯えて泣いているオーガの子供だった。
━━━━━
「とらら、非常食だして。イモモは服を作れる?」
「取ってくるのら!」
「にゅ!」
蹲り、一人泣き続けるオーガの女の子。
「近付かないで! 人間なんか、私の……わ、私の……」
「ダメだよ無理に動いちゃ!」
「近付かないでって言ってるでしょ!」
外敵が強者ではなく人間で、しかも僕だったから態度が一変。
けれど振り払うその腕に力は無く、細くやつれたその身体は、この地に一切の食料が残されていない事を物語っている様だった。
「分かった、近付かないからさ。一つだけお願いを聞いてくれる?」
「嫌よ、消えなさい!!」
「お願いを聞いてくれたら消えるから、ね?」
「嫌なのに……、もう、何なのよ」
「ここに干し肉を置いていくから、食べて欲しいんだ」
「……」
「お願いだよ?」
「うぅ……」
「えっ!?」
「うぇーん……」
また泣き始めちゃった!!
ヤバいよヤバいよ!!
どうしたらいいのこれ!!
「た、食べて良いの? もう何も食べられないって……」
「あ!! そうか、ダメかも!!」
「えっ!? だ、ダメ……!!?」
オーガ娘ちゃんが凄く絶望したような驚いた顔でこっち見てる! 勘違いさせちゃったかな?
「何日も食べて無かったのなら、干し肉はお腹に良くないよ。少し待ってて、何か作るから。確か塩を少し……あった。ちょっと待ってて!」
「えっ」
「とららァァァ!!」
「とららなのら!!」
「何か肉捕まえてきてぇぇぇ!!」
「分かったのら!!」
「超速で!!」
「分かったのら!!!!」
「イモモォォォ!!」
「にゅ!!」
「食べられそうな葉物を探して来てぇぇぇ!!」
「にゅ!!」
「爆速で!!」
「にゅ!!!!」
こんな状態で干し肉渡そうとするなんてどうかしてたよ!
急いで何か作らなきゃ!
━━━━━
「ふぅ、こんなものかな。ありがとね、とららにイモモ」
「えへー、褒められたのら!」
「にゅ」
アレからものの数分でとららが『ウサギが居たのら!』って帰って来て、遅れる事数秒でイモモが『にゅ!』って柔らかそうな葉っぱを取って来てくれた。
その間僕は家の中でまだ使えそうなキッチンを稼働させて火を起こし、水を沸かしながら待っていた。
素早くウサギを捌き、野菜とウサギの骨と塩を入れて、旨味が十分に引き出された所で骨だけ取り出しつつ火を止めて、冷えた大鍋に移して軽く冷ましておく。
今回は肉も柔らかい部分だけを使って、しかもよく煮ておいた。
これなら味も栄養も身体にも良い筈。
無事な料理道具がある程度あったのが助かった。
「こんなのしか作れないけど、これならお腹にも優しい筈だよ。お肉も細かくしてクタクタに煮てるからさ」
「……じゅる。こ、こんなの目の前に待たされたら、私、わ、私」
「食べて良いんだよ? 全部君のなんだから」
「ー!?」
「ゆっくり食べてね?」
オーガ娘ちゃんはそこから、僕が作ったうさぎのスープをガツガツと食べ始めた。
「おいひぃ、おいひぃよぉ……うぇーん……」
時折涙を流しながら、けれど手を止める事なく。細くやつれてしまった腕を必死に動かしながら、スープを食べ進めていた。
「食べ終わったら、お水を浴びておいで。良かったらこの服使ってね?」
「……ぱくぱく」
「ふふ、じゃあ僕は外に出てるね?」
「ー!?」
「大丈夫、まだここに用が残ってるから」
「……ぱくぱく、ぐすん、ぱくぱく」
服は殆どボロボロで、血や泥で汚れた物ばかりだったから、イモモ特製の服を置いておいた。
イモモったらすっかり裁縫上手でさ。
服が普通に服で、既に売れるレベル。
実は僕がイモモの師匠なんだよね、えへへ。
何だか嬉しいね!
「さて、もう少し調査しちゃおうか」
「わかったのらー!」
「にゅ!」
という訳で、あの子も一旦大丈夫そうだし、僕はこの里の調査を再開する事にした。




