第十五話 【突然サバイバルが始まった件について-9】
探索範囲を広げる為、とららによる対岸への跳躍チャレンジは見事に成功した。
唯一失敗した点があるとすれば、驚き過ぎた僕が着地後数秒で嘔吐してしまった事くらいかな。
まだ目がぐるぐるするんだけど……。
「これ、帰れる?」
「あっちから飛べて、こっちからも飛べる所で飛んだのら!」
「ナイス過ぎるけど、次の時は絶対に【今から飛ぶよ】みたいな声掛けよろしく」
「分かったのら!」
悪気は本当に無いし、実際に重要な一歩を踏み出せた事も確かだから、責めるってのは全く無しなんだけど。
本当に怖いから急な加速は勘弁して欲しい。
ビュンってなって、お腹がヒュッってなって。
胃の中の物がグッときて。
ウエーってなるんだよね、つら。
何だか僕の周りには突然思いもよらない動きや変化をする子ばかりで驚きっぱなしだ。
えっと、それは良いとしてと。
目の前にはさっき見えていた草原が、そしてそれはつまり森の終わりだ!
「うわー、森を抜けたの久しぶりだー」
「気持ち良いのらー」
「にゅ?」
西に向かって森を抜けた先には平原が広がっていて、少しこのまま川沿いに南下していこうと思う。
さっきの位置取りでは川に阻まれて進めなかったけど、ここだともう少し下流を目指せそうだね。
「うぅぅ、ご主人さまー」
「ん? どうしたの?」
さっきまで一緒にのびのびしてたのに。
何だかとららが嫌そうな顔をしている様な……。
何かあったのかな?
「この先に、海の匂いがするのら」
「え、海?」
川じゃなくて海?
海なんて聞いた事はあっても、実際に見た事無かったよ。
なんか無限にある水の塊だって話だから、ちょっと怖いよね。
「その海の匂いに、血の臭い混ざってるのら」
「えっ」
待て待て待て待て待て。
待って、落ち着いて。
んん?
「ち、血の臭い?」
「多分、人では無いのら」
「人ではない、とすると?」
「魔物なのら。ゴブリンか、オークか……いや、もっと嫌な臭いがするのら」
「嫌な臭い……か」
「なのら」
「距離は?」
「高さがあるから見えないだけで、多分近いのら」
「えっ」
待て待て待て待て無いぃぃぃ無理ぃぃぃ!!
どうしよ、帰る?
帰るべきか?
少なくともその魔物と、そいつをヤッた奴。
それとそれらの仲間。
最小で1体、多ければ4体以上か。
「……他に臭いは?」
「そいつだけなのら。不思議なのら」
血を纏った魔物が一体だけ、か。
それなら寧ろ様子を見た方が良いのかな?
うーん、分からない。
けど、い、一応……念の為。
確認だけしに行こう。
「行こうと思う」
「分かったのら」
「にゅ」
僕らは静かに足を進め始めた。
━━━━━
居た。
魔物が波打ち際に一体。
横たわっているというか、倒れているというか。
「どう?」
「あいつしか居ないのら」
「ふむ」
ここまで近付いても、他に何かが居る様子は見受けられない。
争った形跡もない。
ならどう言う事なんだろうか。
「死んでると思う?」
「確実に生きてるのら」
「そうなんだ……」
生きてる、のか。
このままにするか、もしくは死んでいたら情報を得られる可能性を考慮して死体漁りをしようかとも思ったけど。
生きてる上にアイツはー
「オーガ、だよね」
「なのら」
魔物の中でも上位種だ。
群れで行動する上に能力値もかなり高かった筈。
孤児院にいた頃だと【見つかったらそこで死ね】って教わっていたくらいだ。
見つかった後、下手に逃げて跡を着けられでもしたら二次災害や三次災害を招きかねないというのが理由らしい。
逃げた先まで追跡されて、街や村ごと滅んだなんて話もあるみたいだから、そんな事言うのも仕方ないみたいなんだよね。
そのオーガが、重傷で倒れている。
しかも群れからはぐれた状態で、だ。
倒せばツノ、牙、爪、骨、全てを金に換金出来る程に価値があり、そこに目が眩んだ奴から死んでいくってのが良く聞く話なんだよね。
けど、さ。
「う、うぅ……」
苦しそうな声を漏らしている。
痛いのかな……。
どうしよう、何だか可哀想になってきちゃったよ。
い、行くだけ行ってみる?
ちょっとだけ、試しにね?
ちょっとだけ。
とららに乗ったまま、オーガへと近寄った。
大きいなぁ。
凄い筋肉だし。
でも身体中がボロボロだ。
傷だらけな上に出血も酷い。
「うっ、……だ、誰だ?」
「え!? は、話せるの?」
話せるんだ!?
「ふ、わ、私もここまでという訳か」
「何があったの?」
「……貴様は?」
「僕? ここの近くに住んでる人? かな?」
「……そんな奴が居たとはな。知らなかった」
「最近連れて来られた新参者なので」
「……そうか」
あれ?
何だか普通に話せるんだけど。
「何があったの?」
「わ、分からない……けど。里が何かに襲撃された、くらいしか私には分からない」
「どう言う事?」
「ね、眠っていたんだ。そしたらな、突然この有様で。く、暗闇の中なんとか応戦しようと奮起したが、足を滑らせ崖から落ちてしまって、今という訳だ。情けない」
襲われた?
オーガの里が?
怖すぎ!!
どんな魔物だったらそんな所襲っちゃうっていうの!?
オーガを襲う魔物とか怖すぎるんだけど。
「さぁ、殺せ。どうせ私はバラバラにされて売られるんだろ?」
「え?」
「一族の中で、私は体躯の小柄な弱卒と蔑まれ、異性に恵まれず、ただ雑用を重ねて生きる他なかった」
「そ、そうなの?」
何の話?
何か始まった?
「腕は磨けども、異性とみなされず。もう良いんだ。こんなボロボロの身体で、里に戻ろうとも思わない。もう殺せ」
「あ、あの……」
「このままにしておけば、どの道やがて死ぬ。せめて、今殺してくれ。オーガとして、事故で死んだなどという不名誉は嫌なんだ。頼む、後生の頼みだ」
「えぇ……どうしよう」
む、無理だよ。
可哀想過ぎる。
いくら魔物だからって言ったって、こんなに頑張って、最後がこんな場所で一人でだなんて。
あんまりだよ。
「何とかならないかな? とらら」
「うーん、とららに心当たりがあるのら」
「どんな心当たり!?」
「よっと」
突然人型に戻ったとらら。
騎乗用の鞍が良い感じに衣服になっている。
これはもうイモモのファインプレーとしか言えない。
ナイス過ぎた。
「グサッと斬るのら」
「ヒィッ!? ななな何してるの!?」
とららが自分の腕を自分の爪で切り裂いた!?
そんな事したら血が……。
「飲むのら」
「……何の、つもりだ?」
ボタボタと結構な勢いで流れ落ちるとららの血液。
そしてそれをオーガの口の中へと流し込む。
え?
何してるのとらら?
「む、ま、まさか……」
「あれ? オーガさんの身体が?」
何だか薄く光っている?
傷口が徐々に塞がって……えぇ!?
なんで!?
「上手くいったのらー」
どう言う事?
と言うかとららの腕の傷、もう塞がってるんだけど?
回復早すぎない?
「な、何なのだ貴様ら……」
「え? 何が起こってるの?」
「とららの血で傷を治してみたのらー」
「そんな事出来たの!?」
初耳なんだけど!?
いつの間にそんな技を?
「とらら魔法とか使えないから、これくらいしか出来ないのら」
「……成る程」
凄いやとらら!
魔法なんて使えなくても、こんな方法で何とかしちゃうなんて!
ふぅ、良かった。
これでオーガさんも大丈夫だね。
……ん?
「貴様ら、覚悟は出来ているんだろうな?」
むくりと起き上がったオーガさんが。
手の骨をポキポキならしながら仁王立ちで僕らの進路を塞いでいた。
え、あれ?
んん?
えええぇぇぇぇぇ何でぇぇぇぇぇ?!?!!??




