第一話 【ドラゴンに拉致された件について-1】
今作ではほのぼの(?)島開拓に挑戦です。
よろしくお願いします。
【アラン視点】
「さっさと摘んできな! この能無しが!」
「ご、ごめんなさい。すぐに行ってきます」
今日もおばさんに怒られて、街の外れから出る道に沿って山へと向かう。おばさんは怖いけど、それも仕方がないんだ。力仕事も出来ず、魔法もからっきし。こんな僕に出来る事と言えば、薪を拾ったり、薬草を摘みに行ったり、そんな単純な事ばかりだから。魔石の発掘に行ったり、魚を捕ったり、雨の日は編み物をしたり、本当に些細な事しか出来やしない。
僕と言う存在はとにかくお金にならない。だから僕は僕なりに、生活周りで役に立てそうなちょっとした事を頑張るしかないんだ。
自分の産まれは知らない。それどころかお父さんの顔も、お母さんの顔も、兄弟の存在や故郷に至るまで、何にも知らない。物心付いた時から孤児院に居て、その日暮しを続けている。
ここでは厳しいルールがあって、5歳を周れば自分の食い扶持は自分で作らなければならない。そういう意味では、僕のやっている事は5歳の子たちのそれと、それ程遜色ないかもしれない。
周りの人達は剣が扱えたり、魔法が扱えたり、薬草をより高度な物へと調合出来たり。お金になる事が出来る人ばかりで、みんな自身の能力で孤児院に貢献し、やがて卒業する。
今年で14歳になる僕だけど、僕はまだ卒業出来そうにない。それどころか、今日も今日の分を集める事に精一杯で、院へ貢献する事なんて殆ど何も出来ていない。酷い事を言われても、院のお荷物になっている自覚もあるから何も言い返せない。
才能も無ければ、特技もない。秀でた所なんて何もない僕だから、せめて今日を一生懸命にってさ。けどね、初めから諦めていた訳じゃないんだ。剣に挑戦しては、指南役の人から【才能無し】とメンバーから外され、魔法に挑戦しては、指南役の人から【才能無し】と追い出され。全部挑戦したし、努力もした。けれど全員が全員上手くやれる訳では無い事を、我が身をもって痛感しただけに終わってしまった。
そう言う訳で、僕は僕自身に特別な能力が無い事をよく知っている。だから僕にはこんな些細な事しか残されて居ないんだ。
そんな僕の今日のノルマは薬草集め。薬草集めは少しだけ得意だから、今日は頑張って沢山摘んできた。けれど、そんな僕を周囲の人たちは許さない。どうせ……!
ほら出て来たよ。
あの人たちはーー
「まぁまぁ集めたじゃねーか。どうせ盗られるってのにご苦労なこった。ほら、寄越せよ!!」
「あ、ヤメテよ!」
「煩せぇ!」
「痛いっ!?」
「チッ、無駄に可愛い顔しやがって。男娼に売り飛ばされないだけでも有り難く思いな」
「あ、取らないで!」
「抵抗すんじゃ、ねぇよ!!」
「痛いっ!?」
頑張ろうとする僕に、世間はそんなに優しく無くて。
「全部は盗らねーよ。だから上手く誤魔化せよ!」
「うぅ……」
「次も頼むぜー!」
「……」
それ所か、ただ毎日をこなす事に精一杯の僕にどこまでも厳しくて。
「アレだけ時間をかけて、取ってきた薬草がたったこれだけだって!? この能無しが!! 愚図が!!」
「ご、ごめんなさい」
「この、馬鹿は、どれだけ言えば、分かるんだい!!」
「ごめんなさい! 痛っ! ごめんなさい!」
今日も今日の痛みに耐えながら、寝所である牧草小屋へと足を踏み入れる。周囲が羨ましくないかと聞かれれば、そりゃ羨ましいさ。だけど、僕自身がその生活に見合わない事もよく分かっている。凡才にすら生まれなかった非才の身では、高望みをしたところで身を滅ぼすだけ。
だからこそ今はやれる事をやりながら、いつか何かが起こるその日まで、僕に出来る精一杯を頑張るんだ。
そんな事を考えて、僕は今夜も魔法の訓練。
今日こそは魔法が出るかもしれない。
「はっ!! やっ!!」
魔力が芽生えるかもしれない。
「はっ!! それっ!!」
とは言え、明日もきっと今日みたいな日が続くに違いない。けれどだからって何もしなければ、遠くない未来で僕は野垂れ死ぬ事になってしまう。ここにだっていつまで居させて貰えるかも分からない。だからこそ……。
そして僕は、いつ眠ったか分からないくらいの勢いで、倒れる様に眠りについた。
いつも、こんな感じさ。
僕の居場所は何処にあるんだろう。
━━━━━
「アラン、アラン!! いつまで寝てるんだい!!」
「痛っ!? ごめんなさい!!」
「早く行ってきな! 朝ご飯は抜きだよ!」
「うぅ、分かりました……」
昨日は少し疲れていたみたいで、つい朝寝坊をしてしまった。起きるなりおばさんの顔が目の前にあるのは結構怖い。何故ならそういう時は大体殴られるから。
無理矢理押し付けられたノルマの紙、今日は薪か。あーあ、朝ご飯食べそびれちゃったよ。お腹すいたなぁ。でもそんな事ばかり考えていても、状況は何も変わらないしね。
そもそも稼ぐ能力の無い僕が悪いんだし、ちゃんと頑張らなきゃね! そんな訳で、今日は薪になりそうな乾いた木を集めるぞ! さっさと木を拾って、また何か訓練しよう!
と、思った矢先にー
「……ん? 何か良い匂いしない?」
気のせいかな?
食べ物の匂いがする気がする!
美味しそうだなぁ、お腹すいたなぁ。
素敵な香りに釣られて、僕はフラフラと匂いの方へと引き寄せられて行った。
しまった!
薪を拾ってた筈なのに!
けれど、その匂いの先には。
「に、肉が焼かれている……」
ただ、肉が焼かれていた。
何で?
どゆこと?
周りには誰もいないし、焼いている肉にも特に工夫はされていなかった。
けれど、見たら分かる。
これは僕には捕まえられない獣の肉で、確実に美味しい肉だ。
あーこんな乱暴に焼いちゃうなんて、勿体ないなぁ。
えーっと、確かこの辺りには……あった!
このハーブと、後はいつも持ってるこの塩を振りかけて、ついでに火の中にも良い匂いの煙が出るチップを投げ込んでっと!
うわぁ良い匂いがしてきた……。
はっ!?
ダメだ、誰のともしれない肉を勝手にアレンジしてしまった!
その上勝手に食べようものならそれはもう泥棒だ!
ダメダメ、我慢しないと。
よし、薪を探そう。
……。
こ、この肉、このままだと焦げちゃうけどなぁ。
少し薪を減らしておくかな。
これくらいにしてと。
うへぇ、めちゃくちゃ良い匂いするじゃんこれ。
ハァハァ、ダメだ、ヨダレが止まらない。
目が回ってきた、食べたい、食べたい……いやいや!
ダメだ、耐えないと。
こんな事してたら悪いドラゴンに食べられちゃうよ。
昔良く聞かされたからね。悪い事したら怖ーいドラゴンがやってきて、パクリと食べられちゃう! って話。
ふぅ、勝手にご飯を食べてたら、次は僕がドラゴンのご飯になっちゃう所だったよ、危ない危ない。
それにしても誰のお肉なんだろう。
今更だけどさ、どうしてこんな所に放置?
と、僕がそんな事を考えて周りをキョロキョロしていると。
突然周囲が暗くなった。
いや、僕が影に入ったんだ。
大きな雲が通ったのかなと上を見てみるとー
「と、鳥? いや、それにしては大きいな……ってイヤイヤ待って待ってこっちに来てるぅぅぅ!!」
ヤバイヤバイ何だあれ、魔物かな!?
大きすぎるって、僕の何十倍あるんだよ!
どうしよう逃げないと!
だけどお肉が……いやこの際お肉はどうでも良いよ!!
「ヒッ!?」
ドーンと、僕の目の前に巨大な何かが着陸する。
足は赤いゴツゴツとした鱗に覆われた雰囲気で、恐る恐る上を見上げていくと、立派な胸部、立派な腕には鋭い爪の生えた手が。そして、その先には雄大な翼が見えており、そして顔は凶悪さを集約させた様な牙の並ぶ……ここここれはどどどどどど!!!
「うわぁぁぁぁぁドラゴンだぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ハァー、やかましいわい」
「ぁぁぁぁああああぁぁぁぁああああ!!!」
「やかましい!!」
「ぁぁぁぁ……ぁ?」
「大人しくせい、取って食ったりせんわ」
「……へ?」
ドラゴンが、会話を?
「えっと、その……」
「あー、ちょっと待っとれ」
ばふんと、煙に包まれたドラゴンさん。
呆気に取られ、何がなんだか……。
そして煙が消えたその中から現れたのは。
何と裸のお姉さん!!
「いや服ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「え? あ、そうじゃった」
ギャァァァァァァアアアアアアアア!!
何で裸のおねーさんんん!!
もうこれどういう事だよ!!