はじめての本領発揮してみました。
凍り付いた空気を割ったのは空気の読めないベルナール伯爵夫人。
「ホホホ。ご自身の事を評価なさっているのね。我が娘達にも見習って貰いたい物ですわ。」
この様な言い方をすれば、嫌味にしか聞こえないと思う者もいる。
夫人は放って置いても自分で自分の首を絞めていくであろう事は容易に想像出来る。が、今日で泳がせるのは終わり。
だってそれがシナリオ通りなのだから〜!
「それは良い意味と捉えて構わないのですよね?」
レイラが鋭い目線でベルナール伯爵夫人に尋ねる。
「まぁ、他にどんな意味があると言うのでしょう!」
「…時にベルナール伯爵夫人、階級という言葉はご存知かしら?」
「勿論ですわ。下から平民、私達貴族、そして王族!レイラ様の誕生会では皆が一同に介しそれはそれは素晴らしい催しでしたわ。特に平民と私達の立場を知らしめるかの様に分けられた会場などは最高の気分でしたのよ。」
「その様にお考えなのですね。だからこそ夫人は、人目に付かぬ様ヒッソリと深夜に平民の方とお会いになるのね」
「え?!」
夫人の顔は瞬く間に真っ青になり、辺りは騒然とする。
「三ヶ月程前より我が領地付近で相次いで行方不明者が出ており、恐らく人攫いでは無いかとの事。時を同じくして、夫人の宿泊での外出が増えているとお聞きしています。偶然にも行方不明者の家族の者から出掛けたきり戻らないと訴えがあったのと丁度同じ日に外出されている様で。密かに後を追わせた所、毎回同じ平民の男が深夜に夫人の宿泊先を尋ねていたとの報告が上がっています。」
「私を疑っていると言う事かしら?!し、失礼にも程があるわ!!!」
ベルナール伯爵夫人は大声で怒鳴り肩をワナワナと震わせる。
「母は、確かにこの所外出が多く…しかしそれは私達のドレスや身に付ける物を買い付けに行く為、また視察に遠方へ赴く為と聞いていますわ!言い掛かりはやめて下さいませレイラ様!」
娘達もまさかと言う表情で必死に母を庇う。
『そう。娘達は何も知らない。近頃急に高価な品を買い漁り、必要以上に視察に行くと言って出掛ける夫人の様子に不信感を抱いたベルナール伯爵が、非公式の場で陛下やお父様に相談していたのよね。』
レイラは父と兄がコッソリ部屋で話していたのを聞き付け、これ幸いと密偵を使い調査を進めた。
「知らないと言うのは全く、罪な事ですわね…貴方達のドレスや宝石、急に豪華な物が増えたとは思いませんでしたの?私なら普段と変わった事が起これば真っ先に疑ってしまいますわ。」
娘達も疑問に感じるくらいの思いはあったのだろう。だが、欲に負けた。そして疑問に蓋を閉じたのだ。
レイラは発言を続ける。
「マチューと言う方をご存知です?夫人。」
ベルナール伯爵夫人は顔面蒼白。口をパクパクとさせ、これ以上何も言葉が出ない様だった。
「レイラ嬢。後はこちらで引き受けてもよろしいかな?」
第一王子エリアスはここまで事の成り行きを見守っていたが、初めて発言をする。いつの間にか兵士が夫人を取り囲んでいたのでエリアスに一切を任せる事にした。
「お任せしますわ。王太子様。」
そのままお茶会は解散、夫人と娘達は王城内で事情を聞かれる事となった。