ヒロインに出会えませんでした。
結局その日はヒロイン ソフィ は現れないままパーティは終わった。
『なぜ、なぜなの…』
フカフカな天蓋付きのベッドに横たわり、一人脳内会議を再び開催する。
ソフィはどこへ行ってしまったのか?
ゲームが始まらないとどうなってしまうのか?
考えても考えても結論は出ず、待っていても来ないのであればこちらから様子を伺いに行ってみる事に決め眠りに着いた。
そして朝。心地良い日差しが窓から差し込む。
昨日の疲労感は多少残るが、決めたら即行動。
「モア!今日は城下町へ買い物に出掛けるので支度と馬車の用意をして頂戴。」
「お疲れではありませんか?」
「私が行くと言ったら行くの。あなたが指図する事ではないわ。」
「失礼いたしました。すぐに手配します。」
(…先日の原因不明の高熱があったから心配してくれているのよね。モアさん我儘言って申し訳ない!)
いつもの様に如何にも偉そうに振る舞った後、私は支度を整え城下町へ出掛けた。
ソフィの大体の家の場所はゲーム内マップで把握している。
町は碁盤の目の様になっており、『北四西三』のあたりにソフィの家がある。私の邸宅は城下町より南側に位置しており、町の中央には王城がある。
ソフィとエリアスの二度目の邂逅はこの城下町。
エリアスが町の視察に訪れた際、ソフィが転んだおばあさんを助ける姿を見て声を掛けてくれる予定。
おばあさんを助けるor助けない、選択肢が表示され助けなかった場合は初回で上がったエリアスの好感度が下がる。
他キャラを攻略したい場合は助けない選択肢もありだが、バッドエンドに繋がる可能性が高い為ここではほぼ助ける一択だと攻略サイトには書かれていた。
そんな事を思い出しながら、私は馬車に揺られる。
ソフィの家の近くに喫茶店があるので、小説や小物など適当に買い物をした後、目的地を喫茶店へ。と指示を出す。
護衛には外で待機をして貰い、一人喫茶店で紅茶を嗜みながらソフィが姿を現すのを待つ。
『姿を一目確認するだけでいい。ソフィ、現れて…!』
そんな願いも虚しく、帰宅予定時間ギリギリまで待機したがついにソフィを見掛ける事は無かった。泣く泣く喫茶店を後にし帰路に着く。
夕食は家族揃ってが我が家の決まり事の為、馬車は少しスピードを上げ走る。砂利道は馬車が少し揺れたが恐怖を感じるほどでは無い。
このペースだと夕食に間に合うだろう…
ホッとして窓の外に目をやったその時、
「!! 馬車を止めて!!!」
慌てて外に飛び出す。
「レイラお嬢様!どうなさいましたか?!」
道の脇に黒猫が血まみれで蹲っている。
前世の私は家を空ける時間が圧倒的に多かったので飼う事は叶わなかったが猫が大好きだった。なので視界に飛び込んできた黒い塊が猫であり傷付いている事がすぐに視認出来た。そして、放っておく事ができなかった。
「すぐに手当を!」
その場で消毒と止血、包帯を巻いて応急処置を施す。
そして買ったばかりのカップを一度水分補給様の水でゆすいでから更に水を注ぎ黒猫に与える。
水をペロペロと勢い良く飲んだので少し安堵し、抱き上げてこのまま自宅に連れ帰ろうとする、、と、腕の間をスルリと抜け、一瞬こちらをジッと見つめた後、黒猫は城下町の方へ走り去ってしまった。
『野良猫は警戒心が高いと言うけど、このままで大丈夫かしら…』
「お嬢様!お召し物と手が汚れてしまっています!急ぎ帰宅しないと…」
今日一日連れ回してしまった侍女モアの言葉で我に返り、馬車に乗り込み帰宅の途についた。
護衛騎士や御者など、みんなが夕食に間に合う様にと更に帰宅を急ぎつつも内心レイラの行動に驚きを隠せずにいた。
モアだけが一人、意外な行動をとったレイラをウットリとした目で見つめていた。