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八木の冒険シリーズ

巨人「巨人に入りたい」

作者: MUMU

だいぶ前に書いたSSを手直ししたものです

この話はお気に入りだったのでサルベージしてみました



八木「いやー、見渡すかぎり砂漠やなあ」


八木「さすがオーストラリアや、すごい広さやで」


原「のんびり眺めてる場合じゃないよ、遭難してるんだよ」


八木「車と無線が同時にいかれるとはなあ」


八木「水をもっと買うとくべきやったな、もう全部飲んでもうたで」


原「まだ日が高い……とにかく、夜まで車の中で体力を温存して」




??「おおーーーーーーい」




八木「なんや? えらく低い声が響いてきたで」


原「え? 風の音とかじゃ……」


八木「ほげ!? なんや、あのでっかいシルエットは!?」


原「きょ……巨人!?」





ドシーン ドシーン ドシーン


巨人「やあ、やっぱり人だった」


八木「うおおおおお、なんちゅうでかさや、ゴジラぐらいある!」


原「し、信じられない……こんな大きな人間が」


巨人「きみたち、日本人でしょう、会話が聞こえたんだよ」


八木「へ? あの距離から声が聞こえたんか?」


巨人「うん、ねえ君たち、巨人軍って知ってる? 野球ってスポーツの」


八木「まあ知ってるけど」


巨人「僕、そこに入りたいんだけど」


八木「は……?」





巨人「僕ね、ずっとこの砂漠にいたんだけど」


巨人「100年ぐらい前かな、頭の中に声が聞こえるようになったの」


巨人「それで音楽とか、人が話してるのとか聞いてたんだけど」


巨人「野球っていうのに興味があって、ここ何十年かはずっとそればかり聞いてたの」


八木「頭の中にラジオが聞こえるんか? 便利やなあ」


原「本格的なラジオ放送は1920年ごろから…。計算は合うかな」


原「でも電波を聞く力といっても…。このオーストラリアで、日本のラジオ波なんて微弱なものを…」





八木「砂漠にいたっちゅうても、よく人間に見つからへんかったなあ」


巨人「飛行機の無線とかも聞こえるから、来そうになったら砂の中に隠れてたの」


八木「砂に隠れられるんか、便利やな」


八木「ところで腰ミノはつけてるんやな」


巨人「うん、オシャレでしょう」


原「デザートオークの木だね。細くて柔らかいから、樹皮を薄く剥いでロープに加工されたりするよ」


八木「何十本も腰回りにつけてるな」


八木「コレ言うとかんと巨人が全裸かと思われるから」


原「誰に言ってるの?」





八木「しかしでっかいなあ、身長いくつあるんや」


原「えーと仰角による計算だと……90メートルぐらいかな」


八木「仙台大観音が帽子取ったぐらいの大きさやな」


原「それ通じるかなあ」


原「それにしても、この大きさで潰れずに立てるなんて……」


原「体の構成物質が、人間とはまるで違うとしか……」





八木「それはともかく、ワイらは街まで行きたいんやけど」


巨人「じゃあ僕が送ってあげるよ、ついてに日本まで連れてって」


八木「よっしゃ、じゃあ頭に乗せてくれや」


原「……」


原「……い、いや、八木君、ちょっと待って」


八木「どうした?」


原「その……大事な実験機材をここに置いておけないよ。高価なものだし」


原「しばらくここにとどまって、車を修理して帰ろう」


八木「そうか? でも食料とか水がないで」


原「水……」


原「大丈夫、朝になれば何とかするよ。巨人に協力してもらって」


八木「?」





原「巨人くん、君はどうやって眠るの?」


巨人「いや、眠らないの。ラジオを聞いてぼーっとしてるだけ」


原「立ったままでも大丈夫?」


巨人「大丈夫だよー」


原「じゃあ頭にそのへんの草や蔓をたくさん乗せて、そのまま朝まで立ってて」


八木「???」





-翌朝-


八木「あれって何か意味があるんか? つる草の山でアフロみたいになってるけど」


原「大丈夫……、おーい、そろそろ下におろして」


巨人「わかったー」


原「下ろしたら、この容器の上でぎゅっと絞ってみて」


八木「?」


原「砂漠の砂は熱を溜めておけないので、夜は極端に気温が下がる」


原「すると空気中の水分が凝結して、露になるんだ」


原「高いところならより効率的に露を集められる、あれだけの量を絞れば……」


巨人「うーん」ギュッ



ドドドドドド



八木「うおお!! 水や! しかも何十リットルも!!」


原「予想通りだ。草が混ざってるけど、煮詰めれば飲み水になるよ」




八木「突然やけどこいつはワイの友人や」


八木「ワイと同じ地質学科の学生やけど、頭のいいやつで、もう論文を何本も発表してる」


八木「今回の調査旅行もこいつの発案や」


八木「どのぐらい頭がいいのかと言うと、小2の頃に天動説の批判本を書いたほどで」


原「なにブツブツ言ってるの?」





原「じゃあ僕は車と無線機を修理するから、八木君は食料を集めてて」


八木「やってみるわ」


八木「修理には何日かかるんや?」


原「たぶん数日は……」


原「時間が余ったら調査の方も進めようか、ちょうど目的地の近くだし」


八木「……なんの調査で来たんやっけ?」


原「やっぱり忘れてる……。このあたりは先住民の伝承で、天から星が落ちてきたって話がたくさん残ってるんだよ」


原「古代に隕石の落下があったと仮定して、地質を調べてそれを証明したいんだ」


八木「なるほど」


八木「まあそっちは任せるわ、ワイは食料集めやな」





八木「よっしゃ、そのままそーっと手を閉じるんや」


巨人「うん、そーっとそーっと……」


八木「捕まえたで、今夜は焼き鳥やな」




原「エンジンが空回りするんだよね、実験用の工具で修理できるかな」


原「古い車だし、応急処置でどうにか……」





八木「ほーん、王貞治のホームランってそんなに盛り上がったんか」


巨人「うん、アナウンサーの人の叫びっぷりがすごくて」




原「無線機は配線が焼き切れてるなあ、銅線とかでつなぎ直せば……」


原「手持ちの道具でハンダづけはできる……」


原「あとはアンテナを何かで代用して、と」





八木「ええか、これがスライダーの握り方や」


巨人「うん、こうだね」


八木「球種を見破られんように、モーションを他の球種と同じにするのがコツやで」




原「向こうに廃車が見えるな……、部品が取れるかも」


原「工具を持って行ってこよう」





-数日後-



原「なんとか修理のメドがついたよ」


八木「そうか、お互い大変やったな」


原「おかしいな、大変だったの僕だけな気がする」




原「ところでスライダーの投げ方教えてたの?」


巨人「うん、教わってた」


八木「巨人に丁度ええボールもあったしな」


原「ボール?」


八木「向こうの方にあったんや」





八木「ほれ、あの黒いやつや、ゴロゴロ落ちてるやろ」


原「こ……これは、球形の鉄? いや、金属の固まり……?」


巨人「このあたりにたくさん落ちてるんだよ」


八木「サイヤ人の宇宙船よりちょっと大きいぐらいやな、巨人の手にはちょうどええサイズや」


原「これ何だろう……。自然にこんな、完全な球形ができるはずが」


巨人「この黒いボールを見てると、何か心の奥がモヤモヤしてくるの」


巨人「何かやらなくちゃ、って気がして、そんなときに野球のピッチャーってのを知って」


巨人「ボールを投げる様子を聞いてると、何か思い出せるような気がして」


八木「ほーん」


原「……?」





原「思い出せるような、というのはどういうこと?」


巨人「ええとね、僕ね、お腹が空くと岩を食べるの」


原「うん?」


巨人「月に一度ぐらいだけど、それでね、そこに黒っぽい岩があるでしょ、サビが浮いてるみたいに見えるやつ」


巨人「あれを食べたときだと思うんだけど、急に眠くなって、そのまま長いことずっと眠ってて」


巨人「500年ぐらい前に目が覚めたとき、それから前の記憶がほとんど無くなってたの」


八木「500年って、おまえトシいくつやねん」


巨人「よくわかんない……」


原「あの黒い岩はコロンブ石かな? 天然のニオブやタンタルを含む岩だよ」


八木「タンタル?」


原「携帯電話なんかに使われるレアメタルだよ」





原「オーストラリアは世界一のタンタル生産国だけど、ああして地面に転がってるのは珍しいね」


原「ということは、タンタルを食べると眠る……?」


巨人「そうみたい、だから食べないように気をつけてね」


八木「いや食われへんから」


八木「まあそれはええわ、じゃあ、さっき教えた感じで投げてみよか」


巨人「うん」


原「え、投げるの?」


原「ちょっと離れてもらったほうがよくない? できれば僕らは車の中に」


八木「ん? せやな、じゃあ離れてから投げてくれや」


巨人「わかった」





巨人「じゃあ向こうに投げるよー」


八木「わかったーーーー(大声)」


巨人「えいっ」



ド ッ ゴ オ オ オ オ オ オ オ オ ン



八木「ほげええええええええええっ」


原「うおおおおおお」


八木「な、なんや今のは、車が横にスライドしたで」


巨人「ごめんごめん、そーっと投げたつもりだったんだけど……」


原「しょ、衝撃波だ、腕の振りがあっさりと音速を超えたんだ」


原「この距離で車を揺らすほど……。しかも、まるで全力じゃないなんて……」


八木「これは大リーガーなみやな」


原「大リーガーすげえええええええ」





巨人「拾ってきたよ、50キロ先ぐらいまで飛んでた」


八木「この黒い岩も丈夫やな、傷もついてへんで」


巨人「投げるたびに……何か思い出しそうな気がするんだよね」


巨人「なにか、大事な役目があったような……」


八木「わかるわ、ワイも日曜にゴロゴロしてると、何かやらなあかん、って焦ることあるわ」


原「……」





原「記憶を無くしてるんだっけ……」


巨人「そうなの、やらなきゃいけない事が……あったような気がするんだけど」


巨人「このボールを、どこかに投げたかったような……」


八木「どこかに?」


巨人「えーっと……あっちに」


原「北西? あっちはシンガポールとか日本があるけど……」


原「宵の明星も見えるね、日本だと南西だけど、オーストラリアは南半球だから北西に見えてる」


八木「ってことは、そろそろ夜やな、メシ食って寝よか」


原「うん……」





-その夜-


八木「うーん、それは臭すぎるわ……」


原「(小声)八木君、ちょっと起きて」


八木「ん? なんや?」


原「(小声)あの黒い岩なんだけど、少し調べてみたんだ」


八木「うん?」


原「おかしいんだ……。先端にダイヤのついてるガラス切りでも傷一つつかない」


原「しかも、バーナーで五分ほど炙ってみても、表面温度がまったく変化しないんだ」


八木「ほーん……。どういうこっちゃ?」


原「推測だけど、あれは地球上の物質じゃない」


原「おそらくは宇宙から来た物質……」


八木「?」





原「あの巨人は記憶を無くしてるらしいけど、言動から察するに……」


原「その記憶は、彼の「役割」や「仕事」に関係するんだと思う……」


八木「何か投げたいんやったっけ」


八木「まあ車が直ったら街に行くんやろ、ゆっくり思い出したらええわ」


原「か、彼を連れて街に行くなんてムリだよ」


八木「なんでや?」


原「なんでって、彼は身長90メートルだよ、大男ってレベルを超えてる」


原「大騒ぎになるし、下手すると軍隊に攻撃されるかも……」


原「まして巨人に入りたいなんて……」


八木「うーん……それもそうか…」


八木「でもジャイアント馬場ってむかし巨人にいたんやろ?」


原「全然関係ないよ?」





八木「せやけど、あいつは大人しいし、大丈夫やろ」


八木「無くした記憶も、街で刺激を受けたら思い出すかも知れへんし」


原「……それが心配なんだ」


八木「どういうこっちゃ?」


原「まず、彼はボールを凄まじい速さで投げられる」


原「あの巨体を考慮しても、考えられないほどの威力だ。音速をはるかに超えてる」


八木「すごい衝撃波やったよな」





原「しかもこの付近に、彼が投げるには丁度いい大きさの岩がいくつも転がってる」


原「熱でも衝撃でも傷つけられない、とてつもなく強靭な物質だ」


八木「あの黒い岩やな」


原「そして彼は電波を感知できる」


八木「?」


原「電波は文明の産物だ、つまり、彼は文明の興隆を察知できる」


原「しかも南西方向に意識が向いてた……。オーストラリアから見れば、人口が多い方向……」


八木「……」





原「こういう話を知ってる? アメリカ軍が研究してるという「神の杖」計画……」


原「人工衛星に鋼鉄製の槍を積んで、大気圏外から落とす兵器だよ」


原「地上に落下するとき、その速度は時速数千キロに達し、その威力は核兵器なみに……」


八木「……」


八木「つまり、あいつは人類を滅ぼす兵器やと言いたいんか?」


八木「あの黒い岩を超高速で投げて、街を破壊する兵器やと……」


八木「とてもそうは見えんで、野球が好きなだけのいい奴やないか」


原「……もし、僕の推測が当たってたら、ことは人類全体に関わるんだよ」


八木「それはまあ……」


原「巨人が言ってたよね、あのサビの浮いたような岩、タンタルを含むコロンブ石を食べると眠ってしまうと」


八木「言うてたな」


原「タンタルは携帯電話の中の、ごく小さな部品を作るために使われるんだ」


原「つまり、どうにかして携帯を食べさせれば……」


八木「……」


八木「気が進まんなあ……」





原「もしもし、こちら○○、警察ですか」


原「車両のトラブルにより立ち往生していましたが、なんとか修理できました、これから○○の街へ移動します」


巨人「車と無線機が直ったみたいだね、今日出発だっけ」


八木「ああ、せやな」


原「(小声)八木君、僕の携帯電話からタンタルを取り出して、砕いた岩と混ぜた、これを…」


八木「……」


八木「なあ巨人」


巨人「うん」


八木「街に行く前にワイらと一緒に食事……」


八木「……。いや」


八木「巨人、これを食べて眠ってくれへんか」


原「!!」


巨人「えっ……」





八木「お前が何を忘れてるのか分からへん」


八木「せやけど、それはもしかしたら、ワイら全員の生死に関わる事かも知れへんのや」


八木「せめてあと数百年……人間が勝手に滅ぶか、宇宙に散らばるまで待ってほしいんや」


巨人「……」


原「……」


巨人「……わかったよ」


巨人「うすうす、気づいてたんだ、僕が街へ行くのは無理だってこと」


八木「そうか……」





ピー ピー


原「ん、無線機に緊急連絡…?」





八木「お前に野球を見せてやりたかったけど、考えてみたら東京ドームに入られへんな……」


八木「開閉式のペイペイドームやったらギリいけるかも」


原「八木君! 大変だ!」


八木「な、なんや急に」


原「気象レーダーが隕石を捉えたらしい! この付近に落下してくるって!」


八木「なんやて!?」





八木「ど、どないしたらええんや」


原「直撃しない限り、車の中に逃げ込めば大丈夫なはず……」


原「見て、空に火球が見える、あれが大気圏突入してる隕石だよ」


八木「おお、ほんまや」


八木「巨人! お前も気をつけて……」


巨人「……」


八木「なんや…? 隕石をじっと見つめて……」


原「……?」


巨人「……」


巨人「思い出した……」ダッ



ド バ ア ア ア ア ア ア ン



八木「ほげええええええええっっ」





八木「あいたたた、全身打ったわ」


八木「きょ、巨人が走り出しただけなのに、なんちゅう衝撃波や、吹っ飛ばされたで」


原「」


八木「あいつ、急にどうしたんや」


原「」


八木「原、あれは一体」


八木「あ、死んでる」





ド ド ド ド ド ド ド



八木「巨人のやつ、ものすごい速さで駆けてるわ」


八木「と、とりあえず、車に避難や、原も運ばんと」


八木「車の鉄板がビリビリ言うてる……。鼓膜に響くわ」


八木「お、巨人がスライディングして、隕石の真下に滑り込んだで」



バ シ イ イ イ ッ



八木「隕石を受け止めた!?」


八木「そ、そのまま回転して起き上がって、うわ、地震みたいな振動や」


八木「思い切り振りかぶって」


八木「おお……美しいフォームで投げたで」


八木「北東の方向やな、なんや昨日言うてた方向と違うやんけ」





八木「しかも、あそこは黒い岩が転がってるあたりやな」


八木「おお……掴んでは投げ、掴んでは投げ、連続でいくつも投げとる」


八木「……しかし、あの勢いで投げたとすると、おそらく数秒後に」


八木「あ、地面がめくれるほどの衝撃波が、これは死」



ド ゴ オ オ オ オ オ ッ ッ ッ



ウ ォ ッ ッ ゴ オ オ オ オ 



ド ズ ゴ オ オ オ オ オ ッ ッ ッ



ガ ボ ド ゴ ズ ゴ ッ ッ オ オ オ オ ッ





八木「(ヨロヨロ)うう、まさか車が三回転すると思わんかった」


八木「巨人のやつ、あの岩を全部投げ終わったあと、じっと立ち尽くしてるけど」


八木「とりあえず行ってみたろ、うう、全身が痛いわ」




八木「やっと近くまで来たわ」


八木「おーい、巨人、どうしたんや―――!」


巨人「……思い出したんだ」


八木「足が砂に埋まっていってる……流砂に飲み込まれてるみたいや」


八木「すごい速さで沈んでいってる、お、おい巨人、どうしたんや一体」


巨人「ごめん……僕はここを、離れるわけにいかなかったんだ……」


八木「お、おい、巨人! 何を思い出したんや! 説明してくれ」


巨人「ごめんね……また、いつか……」


巨人「役目が、終わったら……」


八木「待ってくれ巨人!!  巨人ーーーーー!!!」





八木「その後、車はまた大破してもうたけど、無線機はなんとか無事やった」


八木「ワイらは地元の警察に助けを呼んで、無事に保護された」


八木「周辺は衝撃波でメチャクチャやったけど、隕石のせいやと思われたらしい」


八木「ワイらも巨人のことは言わんかった、どうせ信じてもらわれへんし」


八木「そしてワイらは、何とか日本まで帰ってきたんや」





-二週間後-



原「つまり、あの巨人は自分の仕事を思い出したんだよ」


八木「どういうこっちゃ?」


原「八木君が東京に住んでたとして、ある日、大阪に引っ越したとするよね」


八木「? うん」


原「もといた住所に郵便物が届くと思うけど、それはどうする?」


八木「えーと、知り合いには引っ越しの通知は出すけど、それ以外は、たぶん不動産屋とかに転送を頼んで」


原「そう、まさにそれだよ」


八木「あ、まさか」





原「「誰か」が遠い宇宙から地球に来たとする」


原「その人が、ある日、太陽系内の別の星に引っ越した」


原「でも、その「誰か」への郵便物は地球に届く」


原「引っ越しの通知を出そうにも、電波だと何千年もかかるかも知れない」


原「だから転送係を置いておくんだ、地球に」


八木「つまり、あいつは郵便配達人やったんか」


原「そう、あの黒い岩は、おそらく郵便物を内包した小包みたいなもので」


原「大気圏突入と、落下に耐えられるカプセルだったんだよ」


原「あの巨人は、マス・キャッチャーとマス・ドライバーを兼ね備えた存在だったんだね」


八木「ゲットライドやな」


原「それはアムドライバー」





八木「せやけど、あいつはどこに郵便を投げたんや?」


原「思い出して、夕方に聞いたときは、彼は北西を指さしてた」


八木「うん」


原「そして明け方には北東に投げた、おそらくそこには、明けの明星が出てたはず」


八木「あっ! 金星か!!」


原「そう、おそらく「誰か」は、あの巨人に言いつけてたんだ」


原「地球に届いた郵便物を、金星に届けるように」


八木「ということは、その宇宙人か何かは金星にいるんか」


原「さあ、それは分からない、巨人が地球にいたのは遥か昔からみたいだし」


原「金星から、さらに別の惑星に移動してるかもね」


原「もしかすると、全ての惑星にあんな巨人がいて、郵便物を届ける役目を負っているのかも」


八木「なるほどなあ」





原「あの黒い岩をもっと調べとけばよかったなあ、巨人に命令するための電波とか出てたかも」


原「タンタルで眠ることも、おそらく巨人を使役するためのシステムの一環で……」


八木「……」


八木(ワイは想像する)


八木(もしかして金星にも、火星にも、水星にも巨人がいるとして)


八木(そうや……冥王星まで入れたら、惑星はちょうど9個や)


八木(あいつもいつか、役目が終わったら、他の惑星の巨人と出会って)


八木(野球のチームを作って、宇宙の彼方に試合に行く……そんな日が来るんやろうか)







八木(ただ一つ気がかりなことは、あいつが岩を投げたとき)


八木(ワイの教えた、スライダーの握りやったことやな……)




(おしまい)




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― 新着の感想 ―
[一言] 「ええ話やー」って感想書こうとしたらすでに自分が書いていた件。 \(^^)/
[一言] めちゃくちゃ面白かったです! ありがとうございます。
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