巨人「巨人に入りたい」
だいぶ前に書いたSSを手直ししたものです
この話はお気に入りだったのでサルベージしてみました
八木「いやー、見渡すかぎり砂漠やなあ」
八木「さすがオーストラリアや、すごい広さやで」
原「のんびり眺めてる場合じゃないよ、遭難してるんだよ」
八木「車と無線が同時にいかれるとはなあ」
八木「水をもっと買うとくべきやったな、もう全部飲んでもうたで」
原「まだ日が高い……とにかく、夜まで車の中で体力を温存して」
??「おおーーーーーーい」
八木「なんや? えらく低い声が響いてきたで」
原「え? 風の音とかじゃ……」
八木「ほげ!? なんや、あのでっかいシルエットは!?」
原「きょ……巨人!?」
※
ドシーン ドシーン ドシーン
巨人「やあ、やっぱり人だった」
八木「うおおおおお、なんちゅうでかさや、ゴジラぐらいある!」
原「し、信じられない……こんな大きな人間が」
巨人「きみたち、日本人でしょう、会話が聞こえたんだよ」
八木「へ? あの距離から声が聞こえたんか?」
巨人「うん、ねえ君たち、巨人軍って知ってる? 野球ってスポーツの」
八木「まあ知ってるけど」
巨人「僕、そこに入りたいんだけど」
八木「は……?」
※
巨人「僕ね、ずっとこの砂漠にいたんだけど」
巨人「100年ぐらい前かな、頭の中に声が聞こえるようになったの」
巨人「それで音楽とか、人が話してるのとか聞いてたんだけど」
巨人「野球っていうのに興味があって、ここ何十年かはずっとそればかり聞いてたの」
八木「頭の中にラジオが聞こえるんか? 便利やなあ」
原「本格的なラジオ放送は1920年ごろから…。計算は合うかな」
原「でも電波を聞く力といっても…。このオーストラリアで、日本のラジオ波なんて微弱なものを…」
※
八木「砂漠にいたっちゅうても、よく人間に見つからへんかったなあ」
巨人「飛行機の無線とかも聞こえるから、来そうになったら砂の中に隠れてたの」
八木「砂に隠れられるんか、便利やな」
八木「ところで腰ミノはつけてるんやな」
巨人「うん、オシャレでしょう」
原「デザートオークの木だね。細くて柔らかいから、樹皮を薄く剥いでロープに加工されたりするよ」
八木「何十本も腰回りにつけてるな」
八木「コレ言うとかんと巨人が全裸かと思われるから」
原「誰に言ってるの?」
※
八木「しかしでっかいなあ、身長いくつあるんや」
原「えーと仰角による計算だと……90メートルぐらいかな」
八木「仙台大観音が帽子取ったぐらいの大きさやな」
原「それ通じるかなあ」
原「それにしても、この大きさで潰れずに立てるなんて……」
原「体の構成物質が、人間とはまるで違うとしか……」
※
八木「それはともかく、ワイらは街まで行きたいんやけど」
巨人「じゃあ僕が送ってあげるよ、ついてに日本まで連れてって」
八木「よっしゃ、じゃあ頭に乗せてくれや」
原「……」
原「……い、いや、八木君、ちょっと待って」
八木「どうした?」
原「その……大事な実験機材をここに置いておけないよ。高価なものだし」
原「しばらくここにとどまって、車を修理して帰ろう」
八木「そうか? でも食料とか水がないで」
原「水……」
原「大丈夫、朝になれば何とかするよ。巨人に協力してもらって」
八木「?」
※
原「巨人くん、君はどうやって眠るの?」
巨人「いや、眠らないの。ラジオを聞いてぼーっとしてるだけ」
原「立ったままでも大丈夫?」
巨人「大丈夫だよー」
原「じゃあ頭にそのへんの草や蔓をたくさん乗せて、そのまま朝まで立ってて」
八木「???」
※
-翌朝-
八木「あれって何か意味があるんか? つる草の山でアフロみたいになってるけど」
原「大丈夫……、おーい、そろそろ下におろして」
巨人「わかったー」
原「下ろしたら、この容器の上でぎゅっと絞ってみて」
八木「?」
原「砂漠の砂は熱を溜めておけないので、夜は極端に気温が下がる」
原「すると空気中の水分が凝結して、露になるんだ」
原「高いところならより効率的に露を集められる、あれだけの量を絞れば……」
巨人「うーん」ギュッ
ドドドドドド
八木「うおお!! 水や! しかも何十リットルも!!」
原「予想通りだ。草が混ざってるけど、煮詰めれば飲み水になるよ」
八木「突然やけどこいつはワイの友人や」
八木「ワイと同じ地質学科の学生やけど、頭のいいやつで、もう論文を何本も発表してる」
八木「今回の調査旅行もこいつの発案や」
八木「どのぐらい頭がいいのかと言うと、小2の頃に天動説の批判本を書いたほどで」
原「なにブツブツ言ってるの?」
※
原「じゃあ僕は車と無線機を修理するから、八木君は食料を集めてて」
八木「やってみるわ」
八木「修理には何日かかるんや?」
原「たぶん数日は……」
原「時間が余ったら調査の方も進めようか、ちょうど目的地の近くだし」
八木「……なんの調査で来たんやっけ?」
原「やっぱり忘れてる……。このあたりは先住民の伝承で、天から星が落ちてきたって話がたくさん残ってるんだよ」
原「古代に隕石の落下があったと仮定して、地質を調べてそれを証明したいんだ」
八木「なるほど」
八木「まあそっちは任せるわ、ワイは食料集めやな」
※
八木「よっしゃ、そのままそーっと手を閉じるんや」
巨人「うん、そーっとそーっと……」
八木「捕まえたで、今夜は焼き鳥やな」
原「エンジンが空回りするんだよね、実験用の工具で修理できるかな」
原「古い車だし、応急処置でどうにか……」
※
八木「ほーん、王貞治のホームランってそんなに盛り上がったんか」
巨人「うん、アナウンサーの人の叫びっぷりがすごくて」
原「無線機は配線が焼き切れてるなあ、銅線とかでつなぎ直せば……」
原「手持ちの道具でハンダづけはできる……」
原「あとはアンテナを何かで代用して、と」
※
八木「ええか、これがスライダーの握り方や」
巨人「うん、こうだね」
八木「球種を見破られんように、モーションを他の球種と同じにするのがコツやで」
原「向こうに廃車が見えるな……、部品が取れるかも」
原「工具を持って行ってこよう」
※
-数日後-
原「なんとか修理のメドがついたよ」
八木「そうか、お互い大変やったな」
原「おかしいな、大変だったの僕だけな気がする」
原「ところでスライダーの投げ方教えてたの?」
巨人「うん、教わってた」
八木「巨人に丁度ええボールもあったしな」
原「ボール?」
八木「向こうの方にあったんや」
※
八木「ほれ、あの黒いやつや、ゴロゴロ落ちてるやろ」
原「こ……これは、球形の鉄? いや、金属の固まり……?」
巨人「このあたりにたくさん落ちてるんだよ」
八木「サイヤ人の宇宙船よりちょっと大きいぐらいやな、巨人の手にはちょうどええサイズや」
原「これ何だろう……。自然にこんな、完全な球形ができるはずが」
巨人「この黒いボールを見てると、何か心の奥がモヤモヤしてくるの」
巨人「何かやらなくちゃ、って気がして、そんなときに野球のピッチャーってのを知って」
巨人「ボールを投げる様子を聞いてると、何か思い出せるような気がして」
八木「ほーん」
原「……?」
※
原「思い出せるような、というのはどういうこと?」
巨人「ええとね、僕ね、お腹が空くと岩を食べるの」
原「うん?」
巨人「月に一度ぐらいだけど、それでね、そこに黒っぽい岩があるでしょ、サビが浮いてるみたいに見えるやつ」
巨人「あれを食べたときだと思うんだけど、急に眠くなって、そのまま長いことずっと眠ってて」
巨人「500年ぐらい前に目が覚めたとき、それから前の記憶がほとんど無くなってたの」
八木「500年って、おまえトシいくつやねん」
巨人「よくわかんない……」
原「あの黒い岩はコロンブ石かな? 天然のニオブやタンタルを含む岩だよ」
八木「タンタル?」
原「携帯電話なんかに使われるレアメタルだよ」
※
原「オーストラリアは世界一のタンタル生産国だけど、ああして地面に転がってるのは珍しいね」
原「ということは、タンタルを食べると眠る……?」
巨人「そうみたい、だから食べないように気をつけてね」
八木「いや食われへんから」
八木「まあそれはええわ、じゃあ、さっき教えた感じで投げてみよか」
巨人「うん」
原「え、投げるの?」
原「ちょっと離れてもらったほうがよくない? できれば僕らは車の中に」
八木「ん? せやな、じゃあ離れてから投げてくれや」
巨人「わかった」
※
巨人「じゃあ向こうに投げるよー」
八木「わかったーーーー(大声)」
巨人「えいっ」
ド ッ ゴ オ オ オ オ オ オ オ オ ン
八木「ほげええええええええええっ」
原「うおおおおおお」
八木「な、なんや今のは、車が横にスライドしたで」
巨人「ごめんごめん、そーっと投げたつもりだったんだけど……」
原「しょ、衝撃波だ、腕の振りがあっさりと音速を超えたんだ」
原「この距離で車を揺らすほど……。しかも、まるで全力じゃないなんて……」
八木「これは大リーガーなみやな」
原「大リーガーすげえええええええ」
※
巨人「拾ってきたよ、50キロ先ぐらいまで飛んでた」
八木「この黒い岩も丈夫やな、傷もついてへんで」
巨人「投げるたびに……何か思い出しそうな気がするんだよね」
巨人「なにか、大事な役目があったような……」
八木「わかるわ、ワイも日曜にゴロゴロしてると、何かやらなあかん、って焦ることあるわ」
原「……」
※
原「記憶を無くしてるんだっけ……」
巨人「そうなの、やらなきゃいけない事が……あったような気がするんだけど」
巨人「このボールを、どこかに投げたかったような……」
八木「どこかに?」
巨人「えーっと……あっちに」
原「北西? あっちはシンガポールとか日本があるけど……」
原「宵の明星も見えるね、日本だと南西だけど、オーストラリアは南半球だから北西に見えてる」
八木「ってことは、そろそろ夜やな、メシ食って寝よか」
原「うん……」
※
-その夜-
八木「うーん、それは臭すぎるわ……」
原「(小声)八木君、ちょっと起きて」
八木「ん? なんや?」
原「(小声)あの黒い岩なんだけど、少し調べてみたんだ」
八木「うん?」
原「おかしいんだ……。先端にダイヤのついてるガラス切りでも傷一つつかない」
原「しかも、バーナーで五分ほど炙ってみても、表面温度がまったく変化しないんだ」
八木「ほーん……。どういうこっちゃ?」
原「推測だけど、あれは地球上の物質じゃない」
原「おそらくは宇宙から来た物質……」
八木「?」
※
原「あの巨人は記憶を無くしてるらしいけど、言動から察するに……」
原「その記憶は、彼の「役割」や「仕事」に関係するんだと思う……」
八木「何か投げたいんやったっけ」
八木「まあ車が直ったら街に行くんやろ、ゆっくり思い出したらええわ」
原「か、彼を連れて街に行くなんてムリだよ」
八木「なんでや?」
原「なんでって、彼は身長90メートルだよ、大男ってレベルを超えてる」
原「大騒ぎになるし、下手すると軍隊に攻撃されるかも……」
原「まして巨人に入りたいなんて……」
八木「うーん……それもそうか…」
八木「でもジャイアント馬場ってむかし巨人にいたんやろ?」
原「全然関係ないよ?」
※
八木「せやけど、あいつは大人しいし、大丈夫やろ」
八木「無くした記憶も、街で刺激を受けたら思い出すかも知れへんし」
原「……それが心配なんだ」
八木「どういうこっちゃ?」
原「まず、彼はボールを凄まじい速さで投げられる」
原「あの巨体を考慮しても、考えられないほどの威力だ。音速をはるかに超えてる」
八木「すごい衝撃波やったよな」
※
原「しかもこの付近に、彼が投げるには丁度いい大きさの岩がいくつも転がってる」
原「熱でも衝撃でも傷つけられない、とてつもなく強靭な物質だ」
八木「あの黒い岩やな」
原「そして彼は電波を感知できる」
八木「?」
原「電波は文明の産物だ、つまり、彼は文明の興隆を察知できる」
原「しかも南西方向に意識が向いてた……。オーストラリアから見れば、人口が多い方向……」
八木「……」
※
原「こういう話を知ってる? アメリカ軍が研究してるという「神の杖」計画……」
原「人工衛星に鋼鉄製の槍を積んで、大気圏外から落とす兵器だよ」
原「地上に落下するとき、その速度は時速数千キロに達し、その威力は核兵器なみに……」
八木「……」
八木「つまり、あいつは人類を滅ぼす兵器やと言いたいんか?」
八木「あの黒い岩を超高速で投げて、街を破壊する兵器やと……」
八木「とてもそうは見えんで、野球が好きなだけのいい奴やないか」
原「……もし、僕の推測が当たってたら、ことは人類全体に関わるんだよ」
八木「それはまあ……」
原「巨人が言ってたよね、あのサビの浮いたような岩、タンタルを含むコロンブ石を食べると眠ってしまうと」
八木「言うてたな」
原「タンタルは携帯電話の中の、ごく小さな部品を作るために使われるんだ」
原「つまり、どうにかして携帯を食べさせれば……」
八木「……」
八木「気が進まんなあ……」
※
原「もしもし、こちら○○、警察ですか」
原「車両のトラブルにより立ち往生していましたが、なんとか修理できました、これから○○の街へ移動します」
巨人「車と無線機が直ったみたいだね、今日出発だっけ」
八木「ああ、せやな」
原「(小声)八木君、僕の携帯電話からタンタルを取り出して、砕いた岩と混ぜた、これを…」
八木「……」
八木「なあ巨人」
巨人「うん」
八木「街に行く前にワイらと一緒に食事……」
八木「……。いや」
八木「巨人、これを食べて眠ってくれへんか」
原「!!」
巨人「えっ……」
※
八木「お前が何を忘れてるのか分からへん」
八木「せやけど、それはもしかしたら、ワイら全員の生死に関わる事かも知れへんのや」
八木「せめてあと数百年……人間が勝手に滅ぶか、宇宙に散らばるまで待ってほしいんや」
巨人「……」
原「……」
巨人「……わかったよ」
巨人「うすうす、気づいてたんだ、僕が街へ行くのは無理だってこと」
八木「そうか……」
ピー ピー
原「ん、無線機に緊急連絡…?」
※
八木「お前に野球を見せてやりたかったけど、考えてみたら東京ドームに入られへんな……」
八木「開閉式のペイペイドームやったらギリいけるかも」
原「八木君! 大変だ!」
八木「な、なんや急に」
原「気象レーダーが隕石を捉えたらしい! この付近に落下してくるって!」
八木「なんやて!?」
※
八木「ど、どないしたらええんや」
原「直撃しない限り、車の中に逃げ込めば大丈夫なはず……」
原「見て、空に火球が見える、あれが大気圏突入してる隕石だよ」
八木「おお、ほんまや」
八木「巨人! お前も気をつけて……」
巨人「……」
八木「なんや…? 隕石をじっと見つめて……」
原「……?」
巨人「……」
巨人「思い出した……」ダッ
ド バ ア ア ア ア ア ア ン
八木「ほげええええええええっっ」
※
八木「あいたたた、全身打ったわ」
八木「きょ、巨人が走り出しただけなのに、なんちゅう衝撃波や、吹っ飛ばされたで」
原「」
八木「あいつ、急にどうしたんや」
原「」
八木「原、あれは一体」
八木「あ、死んでる」
※
ド ド ド ド ド ド ド
八木「巨人のやつ、ものすごい速さで駆けてるわ」
八木「と、とりあえず、車に避難や、原も運ばんと」
八木「車の鉄板がビリビリ言うてる……。鼓膜に響くわ」
八木「お、巨人がスライディングして、隕石の真下に滑り込んだで」
バ シ イ イ イ ッ
八木「隕石を受け止めた!?」
八木「そ、そのまま回転して起き上がって、うわ、地震みたいな振動や」
八木「思い切り振りかぶって」
八木「おお……美しいフォームで投げたで」
八木「北東の方向やな、なんや昨日言うてた方向と違うやんけ」
※
八木「しかも、あそこは黒い岩が転がってるあたりやな」
八木「おお……掴んでは投げ、掴んでは投げ、連続でいくつも投げとる」
八木「……しかし、あの勢いで投げたとすると、おそらく数秒後に」
八木「あ、地面がめくれるほどの衝撃波が、これは死」
ド ゴ オ オ オ オ オ ッ ッ ッ
ウ ォ ッ ッ ゴ オ オ オ オ
ド ズ ゴ オ オ オ オ オ ッ ッ ッ
ガ ボ ド ゴ ズ ゴ ッ ッ オ オ オ オ ッ
※
八木「(ヨロヨロ)うう、まさか車が三回転すると思わんかった」
八木「巨人のやつ、あの岩を全部投げ終わったあと、じっと立ち尽くしてるけど」
八木「とりあえず行ってみたろ、うう、全身が痛いわ」
八木「やっと近くまで来たわ」
八木「おーい、巨人、どうしたんや―――!」
巨人「……思い出したんだ」
八木「足が砂に埋まっていってる……流砂に飲み込まれてるみたいや」
八木「すごい速さで沈んでいってる、お、おい巨人、どうしたんや一体」
巨人「ごめん……僕はここを、離れるわけにいかなかったんだ……」
八木「お、おい、巨人! 何を思い出したんや! 説明してくれ」
巨人「ごめんね……また、いつか……」
巨人「役目が、終わったら……」
八木「待ってくれ巨人!! 巨人ーーーーー!!!」
※
八木「その後、車はまた大破してもうたけど、無線機はなんとか無事やった」
八木「ワイらは地元の警察に助けを呼んで、無事に保護された」
八木「周辺は衝撃波でメチャクチャやったけど、隕石のせいやと思われたらしい」
八木「ワイらも巨人のことは言わんかった、どうせ信じてもらわれへんし」
八木「そしてワイらは、何とか日本まで帰ってきたんや」
※
-二週間後-
原「つまり、あの巨人は自分の仕事を思い出したんだよ」
八木「どういうこっちゃ?」
原「八木君が東京に住んでたとして、ある日、大阪に引っ越したとするよね」
八木「? うん」
原「もといた住所に郵便物が届くと思うけど、それはどうする?」
八木「えーと、知り合いには引っ越しの通知は出すけど、それ以外は、たぶん不動産屋とかに転送を頼んで」
原「そう、まさにそれだよ」
八木「あ、まさか」
※
原「「誰か」が遠い宇宙から地球に来たとする」
原「その人が、ある日、太陽系内の別の星に引っ越した」
原「でも、その「誰か」への郵便物は地球に届く」
原「引っ越しの通知を出そうにも、電波だと何千年もかかるかも知れない」
原「だから転送係を置いておくんだ、地球に」
八木「つまり、あいつは郵便配達人やったんか」
原「そう、あの黒い岩は、おそらく郵便物を内包した小包みたいなもので」
原「大気圏突入と、落下に耐えられるカプセルだったんだよ」
原「あの巨人は、マス・キャッチャーとマス・ドライバーを兼ね備えた存在だったんだね」
八木「ゲットライドやな」
原「それはアムドライバー」
※
八木「せやけど、あいつはどこに郵便を投げたんや?」
原「思い出して、夕方に聞いたときは、彼は北西を指さしてた」
八木「うん」
原「そして明け方には北東に投げた、おそらくそこには、明けの明星が出てたはず」
八木「あっ! 金星か!!」
原「そう、おそらく「誰か」は、あの巨人に言いつけてたんだ」
原「地球に届いた郵便物を、金星に届けるように」
八木「ということは、その宇宙人か何かは金星にいるんか」
原「さあ、それは分からない、巨人が地球にいたのは遥か昔からみたいだし」
原「金星から、さらに別の惑星に移動してるかもね」
原「もしかすると、全ての惑星にあんな巨人がいて、郵便物を届ける役目を負っているのかも」
八木「なるほどなあ」
※
原「あの黒い岩をもっと調べとけばよかったなあ、巨人に命令するための電波とか出てたかも」
原「タンタルで眠ることも、おそらく巨人を使役するためのシステムの一環で……」
八木「……」
八木(ワイは想像する)
八木(もしかして金星にも、火星にも、水星にも巨人がいるとして)
八木(そうや……冥王星まで入れたら、惑星はちょうど9個や)
八木(あいつもいつか、役目が終わったら、他の惑星の巨人と出会って)
八木(野球のチームを作って、宇宙の彼方に試合に行く……そんな日が来るんやろうか)
八木(ただ一つ気がかりなことは、あいつが岩を投げたとき)
八木(ワイの教えた、スライダーの握りやったことやな……)
(おしまい)