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◆細工師ギルド長、変態扱いされて制裁される(細工師ギルド長・ゴーマン視点③)

◆(細工師ギルド長・ゴーマン視点)


 テイル達の一行にライラが加わってしばらくした頃……。


 冒険者ギルドの傍の路地裏に隠れ、その戸口をこそこそと盗み見ている一人の男がいる……。


 細工師ギルド長ゴーマン……彼は送ったはずの刺客がこちらに帰ってこない事を不審に思い、変装してわざわざここまで確認しに来たのだった。


 彼が、とある呪いのアクセサリーで拘束した魔族の女を非合法の怪しい商人から購入したのは、数か月も前のこと。何かの役に立つかと思い、実家の伯爵家にある地下牢で幽閉していた。


 魔族は強力な戦闘能力を持つ者が多く、この女魔族も兵士として役に立つとの触れ込みで……事実女は護衛と共に連れていった魔物の生息地にてゴーマンの命令通りにBランク相当の魔物を(ほふ)って見せた。奴ならばあんな若造一人、大して手を掛けず瞬殺できるだろうと思っていたのだが……。


(もうあれから、二週間以上も経つ……しかし一向に奴が戻って来ん。一体どうなっている? まさか、返り討ちにあったとでも言うのか?)


 朝早くから張り込んでいるゴーマンは、しばらくして通りの向こうからやって来た男の姿に驚愕する。


(テ、テイルゥゥゥ……や、やはり生きていた! あの女、始末に失敗したのか! しかし報告にも戻らぬとは一体……まさか捕らえられたと言うことか? ……なあぁっ!?)


 次いでゴーマンの目に入ったのは、テイルの手下らしき子供達と楽しそうに会話する魔族の女の姿だ。


(あいつ……一体何をやっているのだ!? ターゲットがすぐそこにいるだろうが! 今なら後ろからブスリと突き刺して命を奪うことだって可能なはず、それが何故……!)


 内部が混雑していたのか、テイルは三人を待たせて中に入って行く。

 そこでゴーマンは混乱しながら女に走り寄り、肩に手を掛けた。


「おい貴様! 一体何をやっている! あの男を始末する命令を与えただろうが! それを何を和気あいあいとこんなガキどもと遊んでいるのだ! さっさと仕事をしろ!」

「きゃっ! な、なんなのよ? 触らないで!」

「おっさん、ララ姉にさわるな!」

「何だお前達はっ! 邪魔するなっ!」


 犬耳の少女に突き飛ばされたゴーマンは、憎々し気に彼女達を睨み付け、再度掴みかかろうとする。


 しかし……それを制するように兎耳の少女が叫んだ。


「だ、誰かぁっ! 変態さんがライラさんを襲おうとしてるのです! 助けて下さい!」


 一斉に周囲の目がこちらに向く。


「ふ、ふざけるなっ……私はお前の御主人だぞ! それを忘れたとでも言うのかッ!」

「あ、あなたなんて知らないってば! 変なこと言うのやめてよ、気持ち悪い!」


 どうやら魔族の女は完全にこちらのことを認識しておらず、それどころか自由意思を持って行動しているように思える。


 そしてゴーマンは女の首を見て目が飛び出るほど驚いた。


(な、なぜぇぇぇえええ! なぜあの呪いの首輪が着いていない!? あれは着脱不可の呪いが掛けられていたはずだぞ! 何が起こった!? 何が……ぁああ?)


 ――ボキ、ゴキ。


 威嚇する様な拳の音。

 青ざめて振り返り、今頃ゴーマンは自分を取り巻く状況に気づく……。


 周囲の人々は彼を非難の目で見つめており、その中から出て来た三人組の冒険者が、彼の腕を捻り上げた。

 

「オイ変態のおっさんよう、俺らの縄張りで何してくれてんだ」

「ちょーっと、あっち行って話そうか。俺達の女神ライラ様に手をだそうとはふてえ了見だ」

「そんなには痛くしないからさ……。この辺りをしばらくうろつきたくなくなる位で済ましといてあ・げ・る」

「な、お前ら……放せ! わ、私はミルキア細工師ギルドのギルド長、そして伯爵家の貴族なのだぞ。おい、やめろっ……」


 ゴーマンは両脇を筋骨隆々とした男にがっしりと捕まれると、路地裏に引きずり込まれてゆく。そして、その姿が完全に消えた所で冒険者ギルドの扉が開き、テイルが顔を見せた。


「どうした……? 騒がしいみたいだけど、何かあったのか?」

「変態さんが、ライラさんをお触りしに来たのです」

「んだと!? けしからんやつめ……どこに行った?」

「ギルドの人達が、連れて行ってくれたから大丈夫だよ! さっすがララ姉……ときどき皆の怪我を治してあげたりしてるから、大人気だね!」

「いきなり訳の分からない事を口走られてぞっとしたわよ……お前の御主人様だとか、命令したとか。うぅ、寒気がする」

「うわ……ヤバい奴だなそれ。ライラだったら大丈夫だと思うけど、気を付けろな……俺も周りをちゃんと警戒しとくよ」

「……二度と会いたくないわ」


 余程嫌だったのか、ライラは掴まれたところをしきりに払う。

 そして、路地の方からゴーマンの悲鳴が彼らの耳に届く。


『ウギャーッ! 待て……折れ……やめろぉぐおぉぉぉぉぉ……!』

(……この声、な~んか聞いたことあるような気がするんだが……)


 テイルは徐々にか細くなっていくその声を記憶と照らし合わせようとしたが、上手く行かずすぐに断念した。


「ま、いいか。嫌なことは忘れてさっさと仕事に行こうぜ」

「そうね、次の依頼はなんなの?」

「え~とな……」


 そんな風にして彼女達を促しその場から離れてゆくテイル。


『……痛ででででテイルめぇぇぇ……お、覚えていろぉっ! 次こそ貴様を――』

『うるせえぞ! こいつぁ徹底的にお仕置きが必要らしいな!』

『ヒギィィィィ!』


 彼らの後を追うように、絞り出すようなゴーマンの恨み節が再度響くが、結局それはテイルの耳に届くことは無かった。

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