閑話 ―side.璃耀:噂の懸念―
「白月様、寝所で眠る男子の顔を無防備に覗き込み触れるようなことを為さるのはおやめください」
璃耀は奏太の部屋を出ると開口一番に白月へ苦言を呈する。
「熱があるか確かめただけなんだけど」
白月は何がいけないのか、とでも言うような口調だ。しかし、そういう態度が妙な噂を広げていくのだ。主には態度を改めてもらわねばならない。
「そもそも、文を受け取った途端に飛び出して行かれたこと自体に問題があります。周囲の護りをきちんとつけられなかったこともそうですが、いらぬ誤解を生みます」
「……誤解って?」
白月は眉を顰める。本当に気づいていないのだろうか。宮中に広まる噂を、京で語られる物語りを。
「宮中では今、白月様は奏太様を皇婿としてお迎えになられるのでは、という噂が流れています。人界へ送られる文は恋文ではと勘ぐる者もいます。京では恋物語すら出回っているそうです。白月様をお救いになった英雄と、白月様が結ばれるという物語が」
「皇婿?」
「貴方の婿に、ということです」
「えぇ? そんな訳ないじゃん。放っておけば?」
白月の言う通り、噂など放っておけるのが一番だろう。ただ、帝の婿の話となれば別問題だ。妙な権力争いが生まれ火種になりかねない。
白月が婿を取るつもりがあるという話を鵜呑みにした連中が取り入ろうとしてくることもあるだろう。
特に相手は陽の気の使い手。白月のように条件さえ揃えば、帝となる資格を持つことができる者だ。
あの小僧が、と思わないこともないが、実際に陽の気を使ったという話がある以上、疑いようもない。
そして、その事実が現実味を帯びさせるのだ。それだけの地位を持つ者を白月が気にかけている、ということが。
白月は従弟だから有り得ないと言うが、従弟であるということもまた、その理由の一つになりうる。
翠雨も周囲の様子を警戒をしている。
というか、その噂を耳にするたびに不機嫌さが増していっていた。今頃、白月が奏太の元へ飛び出していったと聞いて青褪めていることだろう。
そういう璃耀もまた、心の底では面白くないとは思っているのだが。
「白月様には、もう少し周囲をよく見る目を養っていただかねばなりませんね……」
璃耀はそう言うと、ハアと息を吐き出したが、白月はそれに訝しげに首を傾げるだけった。




