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結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚  作者: 御崎菟翔
鬼界篇

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253. 御先祖様の思惑③

 しばらくすると、自力で起き上がれるくらいまで回復してきた。


 主様の眷属になった時には三日三晩苦しんでその後死んだように眠り続けたと聞かされ、起きて自由に動けるようになるまで更に三日かかった。

 そう考えれば、今回は圧倒的に回復までの時間が短い。


「俺、どれくらい倒れてたの? 陰の子は、どうなってる?」


 周囲の者たちを見回すと、膝をついたまま側で俺の様子をうかがっていた汐が、俺の手をギュッと握った。


「半刻程です。亘が押さえていましたが、まるで、御本家で苦しまれていた時のような状態で……まだ、本調子ではないのでしょう? どうか、もう少しお休みください」


 俺が御先祖様に触れていくつか言葉を交わしたあと、御先祖様の体が俺の手を通して、そのまま吸い込まれていったのが、周りの者たちにも見えていたそうだ。


 その後、俺が地面に崩れ落ちて、激しく苦しみ始めた。


 亘がすぐに駆けつけて俺の体を抱え込んだけど、目の焦点が合わず、痛みと苦しみに耐えかねたように亘の腕を思い切り掴み、ずっと暴れもがいていたらしい。


 主様の一件で俺の様子を見た事があったのは、汐、巽、淕、それから、俺の護衛役に任命される予定になっていた浅沙たちだけ。


 周囲が騒然となり、御先祖様の護衛達に武器が向けられた。


 一触即発の状態だったけど、俺に御先祖様の力が譲渡されている最中であることが朱達によって説明され、主様の時と同じ状態だと汐や巽が証言したことで、少しだけ武官達の状態が落ち着いた。


 けれど、いつまでたっても俺の状態は安定せず、かといって何かができるわけでもなく、まさか、このまま死ぬのではと、皆が固唾をのんで様子をうかがうことしか出来なかったのだと、その時の状況を教えてもらった。


「とにかく、ご無事で良かったです……」


 椿が、そう眉尻を下げた。

  

 状況の説明が落ち着いたのを見計らうと、朱がやって来て俺の前に膝をつく。


「陰の御子様は、虚鬼を取り込み力を増大させながら進んでいますが、その影響なのか、歩み自体はゆっくりで、さほど先に進んでいません。長く時間は取れませんが、もう少しだけであれば、お休みになっても問題ないでしょう。我が君」

「………………我が君……?」


 理解するのに数秒。それから、自分の中に御先祖様がいるからそう呼びかけられたのだと、ようやく気づいた。


「ええっと……外の声は御先祖様にも聞こえているんですか?」

『聞こえてはいるが、今のは我に向けたものではない』

「……え? それはどういう……」


 そう言いかけると、朱は仕方がなさそうに微笑んだ。


「あの方の御力を、貴方様がそのまま譲渡されたのです。我らは、貴方様の眷属となったのですよ」


 朱の言葉にポカンとしていると、御先祖様の護衛達が、朱と同様に俺の前に跪く。


「我ら一同、今日この時より、貴方様にお仕えさせていただきます。我が君」


 ついさっきよりも、更に頭痛が増した気がした。



「……俺は一体何で、どこに向かってるんだろう……」


 体を休める間、御先祖様の護衛達が日向側の護衛達と挨拶を交わし、里の武官や蒼穹達と話しているのを眺めながら、ポツリとそんな呟きが漏れた。何がどうしてこうなったのか、自分でも消化しきれない。


『汝は、半神よりも更に神に近い存在になった。完全な神ではないが、消えかけて神とは呼びがたい存在となっていた我よりも、余程神に近しい。あの子を抑え百年も義務を果たしていれば、神力も増して自然と完全な状態になれるであろう』

「いや、俺、完全な神なんて目指してないし、つい最近まで普通の人間だったんですけど」

『我らの血を引き、陽の力を発現させていた時点で、普通の人間ではなかろう』


 ……それはそうなんだけど……


「それに、さっきも言ってましたけど、義務ってなんですか?」

『我は秩序の神だぞ。人妖界、鬼界の安定を司る事が我から汝に引き継いだ義務。何かがあれば眷属共を使って治めさせよ。神力を持つ者は無闇矢鱈に地上の理に手出し出来ぬが、義務の範囲であればある程度は動けるはずだ』

 

 人界の安寧を護れと主様に言われていたのに、急に一気に範囲が広がった。いったいどうしろと言うのか。


「……義務だから三つの世界の秩序を護れだなんて言われても……正直、俺にできる気がしません……」 

『できる、できないではない。やらねばならぬから、義務なのだ。汝に我が力が完全に吸収されて馴染めば我の意識も消える故、眷属どもを頼れ。彼奴らが大体のことは知っておる』


 同意も得ずに勝手をしておいて、本当に無茶苦茶だ。課された義務が重たすぎて、泣きたくなる。

 

「……ひとまず、この場を乗り切り、人界に戻ってから柊士様にも御相談するのが良ろしいでしょう」


 俺の護衛役達と一緒に断片的に俺の言葉を聞きつつ、朱から補足を受けていた淕は、仕方がなさそうにそう言った。けど、正直、あんまり気が進まない。


「ただでさえ大変なのに、ここまで規模が大きくなったことに、柊ちゃんを巻き込めないよ」

「御相談されずに奏太様御一人で抱え込むほうが、あの方にとっては辛いはずです。どうか、隠さずありのまま、御相談ください」


 俺が、うーんと唸っていると、巽が雰囲気を軽くするように笑う。


「僕らもいるじゃないですか。何でも言ってくださいよ。それに、三つの世界って言いますが、その内二つは、柊士様と白月様の領分ですよ。御二方に御協力を仰いでも良いと思います。鬼界は眷属の皆さんが詳しいでしょうし、新たに加わった者も居ますし」


 巽はそう言うと、マソホに目を向ける。マソホはずっと黙ったまま事の成り行きを見ていたが、巽の視線を受けると、すっと俺の前に出て膝をついた。


「私にできることがあれば、何なりとお申し付けください」

「……え? えぇっと、一応聞くけど、この騒動が終わったあとも、協力してくれるってこと?」

「忠誠を誓うと申し上げた言葉に二言はありません。この世の秩序を守る神にお仕えできるなど、願ってもいないことです」


 ……その神って呼び方、やめてほしいんだけど……


 俺は深々とため息をつく。


「まあ、それもこれも、無事に陰の子を何とかできればの話だし、全部終わったら考えることにするよ。ていうか、もうあんまり考えたくない」

「それがよろしいでしょう。それよりも、奏太様は御身体を休めることが最優先ですよ」


 汐はそう言いながら、今度は蓮華の花弁を差し出した。これも飲めということらしい。拒否して面倒なことになるのを避けたくて、俺は黙ってそれを受け取り、口の中に放り込んだ。


「淕、蒼穹さん」


 口の中の蓮華を無理やり飲み込むと、俺は二人に声をかける。


「柊ちゃんとハクには、全部終わったら、俺から直接説明します。だから、俺が人界に無事に帰るまで、二人には黙っててください」

「しかし……」


 蒼穹は眉根を寄せる。

 

「全てが落ち着く前に、二人に余計な心労をかけるのは、避けたいと思いませんか? 状況が整ってから、俺が自分の口で伝えますから」

 

 俺が言うと、蒼穹と淕は顔を見合わせた。

 

 この大騒動。ただでさえ、柊士とハクには大きな負担がかかっている。主に近しい二人なら、できるだけ余計な混乱は避けたいはずだ。


 報告義務でもあるのか、二人は迷うような素振りを見せていたが、じっと二人を見つめて待つと、観念したように、淕が溜息をついた。


「……承知しました」

「殿下からお話になるのを、お待ちするようにいたしましょう」


 蒼穹も、諦め混じりにそう言った。



「我が君、そろそろ、動いた方が良ろしいかと」


 俺の回復具合を伺っていた朱が、俺の前に膝をつく。


「陰の御子様は、虚鬼を取り込み陰の気を増しながら、ゆっくりではありますが、確実に中央へ向かっています。そろそろ足止めせねば、広範囲に広がる陰の気が中央の僅かに残された場所にも及びかねません」

「奏太様、御身体は?」


 汐や皆が、じっと俺を見る。

 

 体は動くようになった。節々の痛みはあるけど、前回もこういう痛みが一番長引いた。これ以上、ここで回復を待つ時間はない。


「大丈夫だよ。行こう」


 俺は、皆にそう呼びかけた。 

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