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結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚  作者: 御崎菟翔
鬼界篇

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252. 御先祖様の思惑②

「――――〜〜っ!!!」


 御先祖様に声をかけられる前の夢の中、たぶん、主様に体を作り変えられていた時に感じていたのと同じ苦痛。

 

 自分で自分を支えていられず崩れ落ちたのだろう。気づけば地面が目の前にあった。でも、そんな事を気にしていられないくらいに全身が痛い。内側から溢れる何かに皮膚を破られ全身をバラバラに引き裂かれるような激痛。心臓や内臓が押し潰されるのではと思うような強い圧迫感。それが全身を走り蠢く。痛いのか、苦しいのか、それすらもわからない。喉より先に息が入っていかない。

 

「奏太様!」


 自分の名を呼ぶ声が聞こえたけど、誰のものかも分からない。誰かが顔を覗き込むけど、ぼやけて前が見えない。

 霞む目の前に何かが動くのが見えて、俺はそれを必死に掴んだ。この苦痛から解放されたくて、誰かに助けて欲しくて、腕なのか足なのか誰のものなのかも分からない何かを無我夢中で掴む。


 ただ、苦痛に耐えるのに必死で――


 それから、どれ程の時間が経ったのかは分からない。ようやく痛みが落ち着き荒く息をしていると、


『ふむ。一度、半神に変わっている故、やはりそれ程時間はかからなかったようだな。一か八かだったが、うまくいったようだ。』


と、突然、何かの声が頭の中で響いた。


 痛みは無くなったけど、頭がぼうっとしてうまく働かない。体から力が抜けて動けない。息苦しくて呼吸は浅いままだ。

 

 苦痛に耐えていた間、知らず知らずのうちに泣いていたのか、目尻からツゥと涙がこぼれた。


「……奏太様」


 不安気な亘の顔が真上から覗く。気づかなかったけど、どうやら亘に抱えられていたらしい。


「……わたり……いったい、何が……」


 俺が言うと、亘は怒りを何とか抑えつけるように眉根を寄せ、ギリっと奥歯を噛んだ。


「……ダメだ、やめろ……闇に、呑まれる……」


 強い負の感情は、闇を引き寄せる。ましてや深淵でなんて。


 また、闇に取られるのではと、重たい手を何とか亘の方に伸ばせば、届く前にその手をギュッと握られた。

 

 亘の腕には、手で掴まれ握りしめられたような赤黒いアザが出来ていて、食い込んでいたであろう爪の跡から血が滲みでていた。さっき俺が掴んだのは亘の腕だったのかと、それを見てようやくわかった。


「……ごめん……腕……」

「このようなもの、どうということもありません。それより、御身体は?」


 そう言われて、自分の体に集中する。さっきまで、全力疾走した直後みたいに息苦しかったけど、今はだいぶ楽になってきている。


「……落ち着いてきたと、思う。でも、力が入らない」


『次第に良くなる。しばし待て』


 もう一度、頭の中で声がした。少し頭が冷静になってきたのだろう。ようやくその声が御先祖様のものだと気づいた。


「……え……何で、頭の中に? 直接話せば……」

『我は既に(うぬ)の中だ。もう実体はない』

「………………は? 何を言って……」

「奏太様?」

 

 戸惑う声を出す亘に、俺は首を小さく横に振って見せる。


「亘、ちょっと黙ってて。状況を確認したいんだ」


 亘は眉根を寄せたけど、何がどうなっているかは、さっきの苦痛とこの状況を招いただろう本人に確認するのが一番早い。

  

『さっき言った通りだ。汝に我の神力を全て譲渡する為、我をそのまま取り込ませた。汝の中にあった別の神の力も、我の力で塗り替えた。先ほどよりも神力が増して神により近くなったのが分からぬか?』

「……そんなの、わかりません。全然、全く。それに、俺の中に御先祖様をとりこませるなんて……まさか、そんなこと……」

『我は、そのうち、この世に溶けて消える。あの子を抑え待つ間に力を使いすぎたのだ。未だ我の力が残っている間に、あの子を抑えられる者が必要だった。だから、当初はあの娘の力に頼るつもりだった。しかし、汝を見つけ、その体が我を受け入れる器になるやもと考えたのだ。消えるのを待つほど力の弱った我の力だけでは、封印の解けたあの子を止められぬ。しかし、神の力を受け入れられ我の力に馴染む器があれば、話が変わる』


 ……だから、俺の体が必要だった、と。


 何でそんなことができるのかとか、そういう事は置いておいても、事情はだいたいわかった。子孫であり、主様に半神にしてもらった俺の体が、御先祖様にとってちょうど都合がよかった、ということなのだろう。


『どうせいつかは消える体。残った力を全て子孫に譲渡したところで、大した問題ではない。それよりも、もっと重要な問題を解決せねばならぬからな』

「……せめて、もっときちんと説明してください。あんな苦痛、二度も味わいたく無かったし、避けられないなら、心構えくらいしたかったです」


 俺が言うと、御先祖様は深い溜息をついた。

 

『一か八かと言っただろう。死ぬかも知れぬと分かっていたら、汝は我を受け入れたか? 汝の護衛共はどうだ?』 

「……え、俺、死ぬところだったんですか?」


 思わず声に出すと、周囲がざわりとして、亘の表情が一層険しくなる。俺を支える手に、痛いくらいに力が込められた。

 

『失敗する可能性もあった。汝の体が我を受け入れきれなければ、体が耐えきれずはち切れ微塵になっていたやも知れぬ』

「……はち切れ……微塵に…………?」


 まさかの発言に、絶句する。

 自分の体が何かによって内側から引き裂かれるような苦痛を味わったけど、まさか本当にそうなる可能性があったなんて。


「……なんて、無茶苦茶な……」 

『無茶苦茶でも、さっきも申した通り、汝を我の器にするのが事態を収めるのに最も都合が良かったのだ。汝の体がなければ、あの娘をその身ごと結界石に取り込んで封印の要とせねばならなかった。封印が解けてしまった我が子には、それでも心もとないが』


 聞き捨てならない言葉が聞こえてきて、俺はギュッと目を閉じた。


「……ちょ、ちょっと待ってください。ハクを、結界石に体ごと封じ込めようとしてたんですか……?」

『あの娘の力では、そうでもしなければ封印を保持出来ぬ。我に何かあっても、眷属に託せばどうにかなるところまで準備も終えていたのだ。まあ、その間に、一度は人界に逃げられたが』


 ……何が、『何者にも煩わされない平穏』だ。そんなの、殺すのと一緒じゃないか。


「そ、奏太様! 今のお言葉は一体―― !」

「蒼穹殿、お待ちください! 奏太様の御身体に障ります!」

 

 俺の言葉を聞き咎めた蒼穹が声を上げ、淕がそれを抑える声が聞こえた。俺のほうが、御先祖様を問い詰めたいくらいなのだ。蒼穹に詰め寄られたって困る。


「……もう嫌だ。頭が痛い」

「奏太様、どうか、薬を飲まれてください」


 汐が心配そうに俺を覗き込んで薬を差し出してきたけど、そういう意味じゃない。


「汐、ごめん、あとにして」


 今は不要だと手で示すと、汐はギュッと薬の瓶を握りしめ、キュッと唇を噛んで俯いた。

 何だか泣かれそうな気がして、俺は慌てて汐の手の中にあった薬を取る。


「わ、わかった! 飲むよ、飲むから!」


 そう言うと、小瓶の栓を引き抜き、グッと(あお)る。

 

 薬なんて飲まなくても、話をしている間にある程度、体は動くようになってきている。もう大丈夫だと思うんだけど……まあ、汐がほっと安堵の表情を見せたから、いいか。


 俺はハアと息を吐き出し、再び頭の中の御先祖様に声をかけた。

  

「……それで、一か八かの賭けで、俺の体が微塵にならなかったってことは、もう、ハクを結界石に封じ込めなくても良くなったんですよね?」


 ハクにそんな未来を辿らせるわけにはいかない。

 あと、亘の手がさっきから痛い。


『汝があの子を止められねば、結果は同じだ。しかも、そうなれば、再封印の為に()が眷属の力を使ったとて、この世を護れる確率は著しく下がる。あの娘の行く末よりこの世の滅びを覚悟した方がよい』

「………………状況は、よくわかりました」


 わかりたくはないけど、結局は俺がどうにかしなきゃならないって事だ。


「それで、陰の子を止める方法はあるんですか?」

『闇を祓うには、陽の力を使うほかなかろう』


 ……ああ、もう。結局、それか。

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