閑話 ―とある神社の祭壇前―
「近頃、随分と騒がしいな」
祭壇に置かれた鏡から、随分と懐かしい声が響く。
「龍神か、久しいな」
「しばらく妖界にいた。新たに帝が立った故、安定するまで見届けてやろうと思ったが、どうにも煩くてな。こちらへ様子を見に来たのだ」
白の髪を持ち白の着物を纏う少女の姿をした土地神は、フンと鼻を鳴らした。
「地脈を巡る龍神が、何も知らぬと?」
「其方は、随分と彼奴の縁者に肩入れしているようだな」
「陽の気の使い手は、使い勝手がよい故な。なるべく長く生きていてもらったほうが良かろう。まあ、せっかく礼にと与えてやった護りはこの短い期間で使い果たしてしまったようだが」
少女は呆れたように息を吐いた。
「護り? 眷属にでもしたか?」
「そこまでではない。妾の力をほんの少し使って、彼奴を害するものに抵抗する力を与えてやっただけだ。ついでに、陽の気も効率よく出せるようにしてやったが、血に宿る咎といえ、よくもまあ、ここまで死ぬような目に遭えるものだ」
「つい最近、夜の人界で、妙に陽の気が一箇所で溢れた事があったようだが、それが要因か?」
「敵に抵抗する過程で制御できなくなったようだな」
そういうこともあろう、と軽く返すと、龍神からは不機嫌な声が戻ってくる。
「過ぎた力は身を滅ぼす。眷属にせぬのなら、手を貸すのも程々にしておけ」
「安定を重んじる龍神らしいが、人界の結界はそろそろ限界だ。それに、妖界を守るべき者も今や鬼界だろう。その場しのぎでも、彼奴らの力が必要なのではないのか?」
「……よく知っているな」
龍神は嫌そうに言う。
「一応、片割れ共を守護してやることにしたからな。妖界の結界石を彼奴らに任せたようだが、人界と鬼界の間の結界が崩れれば妖界とて先が知れている。そろそろ、偉大なる龍神殿の力が必要なのではないか?」
「我は監視者だ。しかも、友の代役の、な」
「ならば、せめてうまく導いてやるほか無かろう」
手を出すつもりがないのに、自分のやることに口出しをするなと釘を刺すと、龍神からは長々とした溜め息が返ってきた。
「誰も彼も勝手ばかりか。まあよい、我は鬼界を見てくる。守護してやると決めたなら、こちらは任せるぞ」
「任されても困るが、様子くらいは見ておいてやるさ」
少女が答えると、龍神は小さく呻くような声を上げたあと、鏡の向こうから気配を消した。
「……何と言うか、三つの世界の地脈を巡る古き神のくせに、苦労性よな」
誰もいなくなった鏡の前、少女はポツリとそう呟いた。
奏太達の冒険に、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
これにて、閑話含め、人界編、終了となります。
当初考えていた以上に話数を重ねている『結界の守護者』。それにも関わらず、人界篇最後までお読みくださった皆様には感謝してもしきれません。
ただ、奏太達の冒険は、まだまだ続いていきます。
次は鬼界篇。
気が向きましたら、また覗きに来てくださると嬉しいです。
まずは、読みに来てくださった全ての皆様へ、多大なる感謝を。




