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結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚  作者: 御崎菟翔
人界編

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93. 大学の友だち

 ハク達は結局、柊士達の話が終わる前に温泉地を後にした。

 璃耀の圧力に負けたというのもあるが、汐に余計な心配をかけたくない、というのが、俺とハクの共通した気持ちだったと思う。


 事情聴取が終わったのはそれから程なく。柊士は難しそうな顔をして考え込んだまま、話しかけても素っ気ない返事がくるだけだった。

 亘にも温泉地を飛び立った後にこっそり話を聞こうとしたが、ふざけたりはぐらかしたりするばかりで、柊士と同様何も教えてはくれなかった。


 成人しようが大学生になろうが、子ども扱いは変わらない。今回に関しては亘と汐もだ。


 煮えきらない思いのまま、俺は、陰の気の結界と堅固な建物に守られた、人界と妖界を繋ぐ結界の穴を潜り抜けた。



 あの雪の日からまるまる一週間学校を休む形になった俺は、真っ先に友人達と連絡を取って無事を確かめたあと、潤也にノートの共有を頼み込んだ。

 幸いなことに、潤也ととっている講義に結構な被りがあったので、


「人の意見も聞かないで勝手な行動すんのやめろって言ってんだろ、バカ。どんだけ心配したと思ってんだ」


と文句を言われつつ、複数枚に渡る講義の板書とメモを必死に写した。


 問題は一人で出ている方の講義だが、そっちはもう、諦めるしかない。まあ、一回、二回出なかったくらいでどうにかなるものでもないだろう。



 その日も、俺は潤也と食堂で落ち合う約束をしつつ午前最後の講義に向かった。

 できるだけ目立たないように後ろの方の席を確保して準備を始める。


 すると不意に、


「ここ、空いてる?」


と男の声で話しかけられた。

 視線をあげると、そこには、女の子と見間違われてもおかしくないくらいの爽やかな顔つきの美男が首を傾げつつ立っていて、俺の隣の席を指し示していた。


 相手は見覚えのある顔だが、話したことはない。知っているのは、同じ学部学科の一年生だという情報くらいだ。


 アイドル顔負けのイケメンに、周囲の女の子達がソワソワしているのが分かる。


 前の方の席はまだまだ余裕があるが、後ろの方はだいぶ埋まってきている。特に隣に誰かが来る予定もなかったので、


「大丈夫だよ」


というと、イケメンはニコリと笑って席についた。


 講義が始まるまでに、まだ少し余裕がある。一人だし、SNSでも見て時間を潰そうかなとスマホを取りだす。


 そこへ、


「ねえ君さ、一年だよね? あ、俺、一年の綿貫遥斗。よろしく」

「え、ああ……俺、日向奏太。よろしく」


 戸惑いつつ応えると、綿貫は申し訳無さそうな顔つきで、机に体を寄せつつ俺の顔を覗き込む。


「あのさ、俺この講義一人で受けてるんだけど、前回出られなくて、もしできたらノート貸してもらえないかな?」

「あ、ごめん。俺も休んでて出てなくて……」

「そっかぁ〜、残念。君も風邪か何か?」

「ああ、まあ、そんなもん」


 実際には陽の気の使い過ぎで妖界で療養してたわけだが、広義には病気という事でいいだろう。


「他に友だちは?」

「これは俺も一人。それ以外は写させてもらったけど」


 綿貫の問にそう答えると、綿貫は人懐っこそうな表情で


「じゃあ、仲間だね」


と笑った。


「それなら、お互い休んだときのために協力し合わない? 今回はしょうがないけど、今後の為にさ」

「ああ、確かに、俺もそれは助かる」


 特に俺の方は、今までの事を考えるとちょこちょこ休むこともあるだろう。潤也とは違う講義で頼れる相手がいるのはとても助かる。


 そう思っていると、綿貫はすっと俺の方に手を差し出した。


「じゃあ、頼むよ。奏太でいい? 俺のことは遥斗って呼んで」

「ああ、よろしく。遥斗」


 俺もまた手を差し出して、遥斗の手を軽く握った。


 講義が始まるまでの間、遥斗といろいろ話しをしてみたが、潤也と被りのない講義がいくつか一緒であることが判明した。

 あまり自分から交友範囲を広げていくようなタイプではない分、こういう出会いは有り難い。


 しっかり連絡先も交換し、じゃあ、また次の講義の時に、と別れた。


 この出会いが妙な事態を引き起こしていくことになるなんて、この時の俺は知る由もなかった。

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