僕、世界をつくる
君の心地いいという感覚に従うんだ。
ほら、その五感全身で、湧きあがりあふれ出すものを、この空間一杯に解き放つのだ。
君のうちの普遍の水脈から、無限に向かって・・・
それが何者かになる時、それは限定されることになるがね。
僕の心は、僕に向かってそうつぶやいた。
僕が一本の線を引くと見る見るうちにそれは空と大地を分けた。
大地も空も生物のように動き始めて隆起と沈降を繰り返していったが、それは見ているだけで秩序と混沌が奇妙に組み合わさって、ひとつの美しい芸術を形成していくのだった。
大地からは水が覆い、海と陸とを分けた。
水も循環を繰り返し、空に行き、大地を潤した。
ヒロミはその鮮やかさに見とれていた。
マミ先生も、これから何が起こるのだろうかと目を輝かせながら見守っている。
「・・・誰にとっても、たった一つの宇宙がある。
それを私たちは知るべくもないけれど・・・
それでも、そのことを無限に尊重し、祝福しなければならない。
そして・・・いいですか、コウちゃん。
つくったものには、責任がともなうということ。
責任が取れて、人は初めて自由を手にする・・・いや、実感できるの。
責任があるからこそ、自由は可能なのだともいえるわね。」
「はい。」
僕は、自由を与えられた。
それも、唐突に・・・この世界の壁を破るようにして。
そして、それは・・・今までの学校とか社会とか親とか人間関係とかいった束縛から逃れることができたとか、好きな人とだけ付き合えるようになったとか、何もしなくてもたくさんのお金が入ってくる生活が可能になったとか、
・・・そういうレベルのことじゃない。
願えばあらゆることが可能な空間だ。
世界をつくりだす自由を与えられたのだ。
空を飛ぼうと思えば飛べる。
そもそも、空や大地や天体をつくりだす事すらできる。
因果律だって捻じ曲げることができる。
何も原因のないところにいきなり結果だけをポンと出現させることだって可能なのだ。
高いところから飛び降りたら、建物の中を泳いでいたなんてことが可能なのだ。
「さて・・・」
僕は、空と大地と海とに、ありとあらゆる生物をつくりだした。
妖精や天使、またドラゴンやトロルなどといったものも。
「何かを決めてかたち作っていくということは・・・」
ヒロミが言った。
「もはや、それがそれ以外の何者でもありえないってことね。
もう、他のものにはなれない。」
「確かにそうだね。
何かであるということは、もはや無限でも永遠でもないということだ。
でも、何かであるということは、同時に、他の何者もその何かになれない・・・
この宇宙でたった一つのものでしかないということにならないかい。
そして、僕たちはそれを、〈かけがえのなさ〉と呼ぶ。
だから、この世界にあるありとあらゆるものは、みんな永遠でも無限でもなく、はかないものであると同時に、〈かけがえがない〉のさ。」