僕、創造の大地に立つ
僕は旅というものが好きだった。
しかし、ただいま現在、僕たちは旅よりも楽しい世界にやってきた。
そこに目的地はなく、立ち寄る場所もなく、ただ、歩いた場所が道となり、世界となるような「どこにもない場所」だ。
「どこにもない場所?」
ヒロミが訊いた。
「ふふん、たしかに。
たしかに、どこにもない場所かもしれないが、同時にどこにもある場所であるとも言えるね。」
「コウスケ・・・孤独ではない?
すべてをあなたが作り出していかなくちゃならないの。
だから、そこには出会うべき他者や未知の存在がいないということじゃない?」
「ある意味、孤独とは言えば、孤独かもしれないね。
ヒロミ、君の言うとおりだ。
だけど、僕のこの世界で為すことは、ただひとつ。
この世界に生命を吹き込むということなんだ。
そのたびに、交わりが増えていく。ともに踊る仲間が豊かになっていく。
それに・・・僕は・・・僕自身はまったくの無でも白紙でもない。
僕自身の存在も心も、これまでの交わりのなかで形成されてきたすべてのものの印象をうけて、それを合成している。
それゆえ、全くの無から、何かをつくりだすということはない。
僕は、僕の好きなものを作り出すことのできる〈自由〉を今、この世界において手に入れた。」
「〈自由〉・・・〈自由〉とは一体何?コウスケ。
たとえば・・・もし、旅の行き先がどこにもなくて、すべてをあなたが創造しなければいけない旅だとしたら、それは自由のようでいて、却ってそれはひとつの〈創造の牢獄〉に閉ざされていることにならないかしら。
あなたのいる世界はそのような、行き先をゼロから創造しなければいけない旅行のようなものじゃない?
つねに、人は創造の義務に追われることにならない。
自由であらねばならないと、自由に追い立てられやしない?
そんな世界であなたは発狂しそうになりはしない?」
「いやいや、常に創造し続けるわけではないよ。
僕は、創造したものたちを対象としてとらえ、そして同時にその中で交わり憩うこともあるさ。
そして、創造は為そうとする意志のみによって生み出されてくるのではない。
ほら、こうして、僕たちが話している間にも、自然に世界は生み出されているのだよ。
こんな風にね。」
僕が宙に指をさすと、そこからは蝶たちが舞った。
「それに、僕の創造は、僕の世界で完結するわけじゃない。
他の創造と、きっと出会うことになる。
すべての創造は、必ず深い次元で、他の創造との出会いに開かれているんだ。」