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しあわせのための七つの条件  作者: あだちゆう
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僕、質問される

「サンクチュアリ」というたまり場のような空間に連れてこられて、数週間がたった。


僕にとって、はじめ、一連の出来事は信じられず、受け入れがたいことばかりだった。


人間とは、所詮信じられぬ生き物で、万人に対して狼である、

だから、騙されないように、傷つかないように、身をひそめて暮らしていたのに。


モグラが太陽の光に当たったら死んでしまうのと同じく、

僕にとっても、「前向きなこと」であるとか「明るさ」というのは吐き気を催すほど遠ざけたい空気に他ならなかったのだ。

だけど、この空間は、僕を、そのままの僕で在らせてくれる・・・そう感じた。


僕は、それまで「自分が何をしたいのか」「何を求めているのか」ということすら意識したことはなかった。


だけど、しばらくしていくうちに、ずっと抑え込んでいた「本当はこれがしたい」という願望が徐々に心に芽を出そうとしていくのが分かった。



マミ先生とは、一緒にサンクチュアリの近くにある大きな庭園を散歩することがあった。


そこで、マミ先生は、じっくりとぼくの話に耳を傾け、

そして、適宜、僕にいくつかの質問を投げかけてくるのだった。


マミ先生は、僕のことを深く理解し、そして力になりたい、支えたいと思っていることが分かった。

そして、そのことが嬉しかった。


先生は、決して一方的なアドバイスを押し付けることはせず、僕が深い次元から、自らの力で解放できるような手助けをするようだった。

あたかも、親鳥が卵を外からつつき、ひなが卵の内側から同時につついて殻が割れていくように。


「僕たち」は適切なタイミングで、適切な内容のやりとりを交わしていって、その時々で適切な気付きを得ていくのだった。

そして、その内容は、サンクチュアリに集まる一人一人にとっても異なるその人独自のものであった。


「コウちゃんはどうなりたい?」

(マミ先生は、いつのまにか、僕にそうやって「ちゃん」付けをして呼ぶようになった。)


「コウちゃんの将来の姿はどうなっていたい?」


「ワクワクすることは?」


「好きなことは?」


「どんな時に充実感を感じる?」


はじめ、僕はうわべのようなさしさわりのない解答をしていたのだが、

先生とあれこれ話をしていくうちに盛り上がってきて、

それまで大っぴらに言えなかったような、「本当にやりたいこと」だとか「本音」が出てくる。


実は、--なんだ、そんなことと思われる人もいるかもしれないが、

僕は、絵描きになりたいという夢があった。


子どもの頃から、暇さえあれば、チラシの裏なんかにも絵を描きまくっていたので、親からも先生からも怒られて、問題児扱いされた。

だけど、クラスの友達は僕の絵を喜んでくれて・・・それでますます人に見て欲しくて、プレゼントして喜ばれたくて、夢中になって絵を描いた。


だけど、いつの間にか、僕は自分の絵に自身が持てなくなっていった。


なぜかというに、信じられないほど絵のうまい転校生がやってきたからだ。

彼は、僕より人気があって、ポスターやしおりの表紙などありとあらゆる機会に代表に抜擢された。

そして、あっという間に僕の絵は見向きもされなくなった。


よく振り返ってみると、

自分の絵なんて、オリジナリティーなんて全然なくて、決まった形のものしか、一方向の単純なものしか描けないというものでしかなかったのだ。


自分の絵は、下手なんだ・・・

人に見せるようなものではない。

そう確信してしまったのだった。



僕は、何のとりえも持たない、「普通の人に埋もれただけの一人」になってしまったのだった。



・・・でも・・・でもやっぱり、気が付けば、つい絵を描いてしまっている。


でも、どうせ、今更・・・

だれも認めてくれないだろうし・・・

自分なんて能力がないから・・・


そうした想いを見越したように、先生は言った。

「コウちゃん!

いったんね、できる・できないは脇に置いておいて、

もし、なんでもできるとしたら、何がしたいかっていうことを考えてみない?」


「もし・・・何でもできるとしたら?」


「そう!

ドラゴンボール7つ集まったら何お願いする?」


一瞬頭が真っ白になった。


何を願えばいいんだろう。


つい、「できない」ことばかり考えてその思考にがんじがらめになっていた自分にはそんな発想は想いもよらなかった。


そもそも自分はなにがしたかったんだろう?


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