僕、三つのルールを知る
僕は、その塾で「認められた」という感覚をもち、安心して、うれしくなった。
認められることのなかには、ほめられることだけでなく、無条件にたいせつにされること、そして、存在を受け入れられるということがあるということにも気が付いた。
人は、認められることでしあわせを取りもどすのだということ。
少しずつ、僕はこの場所にも慣れてきて、ここが自分にとって居心地のいい場所、つまり居場所だと感じるようになってきた。
気が付くと、マミ先生や塾の仲間のみんなに会って話をするのが楽しみになっていた。
「この場所の素敵な雰囲気の源は一体何なんだろう。」
僕は考えた。
もちろん、中心にマミ先生がいることの魅力はあるかもしれない。
だけど、それだけじゃない。
この塾にはお互いに支え合い、心が明るくなるような声のかけ方やリアクションの小さな工夫がルールになっていたのだ。
塾でのルールは三つだけだった。
それは、
1.プラスの言葉を使うこと
2.否定のない空間
3.人の話を聞くときは笑顔でうなづく
ということだった。
「私もね、最初にこれだけは守るように言われたの。」
ヒロミだった。
「最初は、半信半疑だったんだけれども、この三つのことをやるだけで、いろんなことが変わってきてびっくりしたの。」
たしかに、ヒロミが変わり始めたと思ったのは、この三つをやり始めてからだ。
家でも、学校でも、ネット上でもよくある光景かもしれない。
人が何かを発言したときに、
「それは違うだろ」とか、
「でもさ~、そうは言っても」
などと否定やダメ出しから入る空気。
僕はあれが怖くて、どうしても思っていることが言えなかった。
そしてそのまま、想いを抑え込んで自己嫌悪に陥るのだった。
「ついさ、人って、人の語ることを、それができるかできないかにわけてジャッジしちゃうんだよね。
だけど、それだと一人一人が自由に意見を述べ合える気力がなくなっちゃうよね。
自分を素直に表現できなくなっちゃってさ。
そして、誰もつまらないことしか話せなくなる。」
「あはは。わかるよ。
だけど、僕はここにきて、こんなに思っていることを話してよかったんだと思うと嬉しいよ。
また、自分の気が付けなかった想いに気が付けたり、他の人も深いところでは同じような気持ちを抱えていることを知れて安心したよ。」
「〈サンクチュアリ〉はね、人の発言が正しいか間違っているかに採点する場所じゃないのよ。
もっともっと意見や感想をたくさん出していく場所なの。」
マミ先生だった。
「サン・・・クチュアリ?なんですか、それは?」
「ああ、そういえばまだ言ってなかったわね。
この塾の名前。」
「サンク・・・チュアリ・・・言いにくいですね(笑)」
「意味はね・・・〈聖なる場所〉という意味なの。」
「聖なる場所?」
「何があってもあなたたちの無限の可能性を守る場所。
あなたたちを最後まで信じぬく・・・信じ切る場所。」
マミ先生は、その深く輝く、すべてを包み込むような優しい瞳でこちらをまっすぐに見つめて言った。