僕、誘われる
週末、僕はヒロミと待ち合わせをして、その〈塾〉に行った。
少し大きめの一軒家という空間に、下は小学生から大学生に見える人までがおり、それぞれ自分に合った本を読んでいたり、縁側で何やら語り合ったり自由な雰囲気だった。その様子は、僕の知っている〈勉強〉とは違っていた。
「マミ先生、そして、みんな。この男の子、私の同級生でコウスケっていうの。
めっちゃ絵が上手くて、繊細で優しい子だから、仲良くしてあげて!」
ひときわ派手な色をした服をして、遠くからも一目でその人とわかるようなオーラを放ち、いつも微笑みを絶やさない女性がいた。
その目は、底抜けの明るさだけでなく、その奥には何か言い知れぬ、優しさや辛いことが滓のように堆積して、深いところで輝きを放っているように見えた。「目は心のともしびである」、とはよく言ったものだ。
「コウスケ君、よく来たねえ。会えてうれしいよ。
ここにいるだけでいいけんね。そのままの自分でいいよ。」
マミ先生の瞳の奥からは、まるで馬鹿みたいに人をまっすぐ信じぬき、受け止めるのだという、そんなまっすぐな決意が感じられた。
「お腹すいた?何か食べる?」
そう言って、マミ先生自身がキッチンに立って、料理をふるまった。
とくに、卵焼きはマミ先生の得意の料理だった。
先生も塾の仲間たちも、僕のことを受け止めてくれた。
そして、あれをしろとかこれをしろ、こしでなきゃいけないということは――靴をそろえるとか、挨拶をするとか、最低限必要なこと以外は――ほとんど言われなかった。
誰も、否定的な言葉を使う人がおらず、人の心を明るくするような言葉が自然に飛び交っていた。
塾に集まる人たちは、価値観も世界観も性格もあまりにも多様性に富んでいた。それでありながら、お互いにその存在を認め合い尊重し合っていた。
いつも周りの顔色をうかがって合わせてばかりだった僕は、はじめ大いに戸惑った。
ここでは、自分なりの大切な生き方の軸を持ちながら他人を認めてやっていくことが必要なのだ。
そして、僕はよくこんなことを言われた。
「あなた、それ欠点だと思ってるかもしれないけれども、いいところよ。」
「コウスケ、あなたなら、必ずできる!大丈夫だよ。」
大好きな人からそんなことを言われると、本当にできる気がするようになるのだ。