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しあわせのための七つの条件  作者: あだちゆう
2/15

僕、ほめられる

しぶしぶ、恥ずかしがりながら僕は描きかけのノートを見せた。

しばらく食い入るようにそれを見た後、彼女は口を開いた。

僕は恐れて思わず身をすくめた。

「すごい!」

帰ってきた言葉はそれだった。

「コウスケくん、天才じゃない!?ほら、線なんかこんなに細かく書き込まれていて、そして、まるで生きてるみたい!

あと、どこか、暖かくて優しい感じがするの。きっと、あなたの絵は、見ている人を癒す力があるんじゃないかなあ。」

そんなことを言われたのははじめてだった。

だけど、まんざらでもなかった。そんな雰囲気に

「い・・・いや・・・そんなことは・・・。」

「こら!人がせっかくほめてるんだから、素直に受け取りなさい。否定禁止!」

「あ・・・はい・・・。」

「あとね、コウスケくんって、すごいとおもうのは、周りに流されずにちゃんとそうやって自分の世界をもっていることだと思うの。」

「・・・あ、ありがとう。」

「あとね。そうやって、じーっと自分のこととか人や世の中を見る目とかすごいなっていつも思ってるよ。

眼もね、とてもきれいだと思うの。」

ヒロミはまるで呼吸をするように、つぎつぎと僕の美点を見つけてあげつらったのだった。

そういわれると、はじめは驚き呆然としながらも、思わずにやけてくる。

「あははっ!コウスケくん、その目、その顔、めっちゃ輝いてきたね!」

「えっ?」

そう言われて、自分でも驚いた。

まさか、自分にもそんな顔があるなんて。

さっきまで、一人でうだうだと考えていたことはどこに行ったのだろう。


「ヒロミさんだって・・・

そうやって僕みたいなやつにわざわざ声をかけてほめてくれて・・・とても嬉しかったよ。

それに、いつもさ、周りの人に親切にしてて、すごいと思うよ。僕にはとうていできないから、憧れちゃうな。

あとさ、ヒロミさんは授業中でも姿勢がいいよね。笑顔も素敵だし。たまに図書館で見かけるけれど、」

普段気づいてはいたけれども、素敵だなと思っていたところが次々と自分の口から出てきて、終わらないことに気が付いた。

彼女は、「ありがとう!気が付いていたんだ!うれしい!」と素直に喜びをあらわにした。

気が付いたことは、ほめられるのもうれしいものだが、人をほめることもまた何とも言えず気持ちの良いことだということだ。


だけど・・・。

僕はうつむいた。


太陽のように微笑んでいるヒロミさんに僕なんかは絶対に不釣り合いだ。

モグラが太陽のもとに出たら死ぬように、僕のような人間がキラキラ、明るい人と仲良くなったら、息苦しくてたまらない。

わざわざ声をかけてきたのだって、何か下心があってのことなのかもしれないし・・・。


だけど、彼女は、今まで出会ってきた他の人とは雰囲気が違った。なにか人を包み込み受け入れるような、優しい感じがした。それに、彼女は絶対に人を否定するようなことは言わないし、褒めるにしても、お世辞ではなく、自分のことをしっかり見てくれていることがよくわかった。


しばらく、何気ない会話をした後、僕は、一人きりで悩んでいることを思い切って打ちあけた。

親が何でも先回りしてきて、自分の意志を押さえつけてくること。コンプレックスがあること。どうしても周りになじめないでいること。自分が嫌いなこと。やりたいことやなりたいことは一応あるけれども、どうせできっこないことは分かっていること。将来に希望が持てないこと。自分を押し殺して生き続けていること。自分のことを分かってくれそうな人など誰も居そうにないこと。


・・・言い終わって、僕は激しい自己嫌悪にかられた。自分を開示してしまったことを激しく後悔した。

分かってくれるわけ・・・ない!

ああ、絶対ひいてる。ドン引きされている。徐々にフェードアウトしていくパターンだ。

そう思うと、消えたくなってきた。

これまでもずっとそうだった。悩みを打ち明けても誰も聞いてくれることなんてなかった。分かってくれることはないばかりか、「そりゃお前に問題があるよ」など、よりつらくなるような「励ましの言葉」をかけられて終わるのだ。


彼女が口を開く。

「分かるよ、その気持ち。私も・・・前はそうだったもの。」

その言葉を聞いて、胸のつきものがふっと落ちたような気がした。

「つらいよね・・・。」

「・・・うん。」

僕は、その言葉だけで安心を覚えた。

「一人だけじゃなかったんだ。気持ちを分かってくれている人がいる・・・。」


「そうだ!いいことおもいついた!」

「いいこと?」

「うん!ぬけがけしよう!コウスケ。」

「はっ!?ぬけがけって・・・!?」

「ってのは冗談だけれどさ・・・今度の週末、私たちの〈塾〉においでよ!」


「〈塾〉!?また、たくさん勉強をさせられるの?」

「うーん、そだね。知識やテストで点数を取るためだけの、机の上の勉強だけじゃなくて、

〈しあわせ〉になるために大切なことを学ぶ場所。

・・・実は、私も〈先生〉と塾に出逢って大きく変わったの。

本当に、あなたの人生変わるからさ・・・絶対来てみて。」

・・・〈しあわせ〉になるために大切なこと・・・

〈先生〉がどんな人かは分からなかったし、興味などなかった。

けれども、あのヒロミがこれだけすすめるのだから、ということで気持ち半分で行ってみることにした。


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