僕、妄想を膨らませる
僕は、その話を聞いて、塾のいちばん奥の落ち着いた教室で、ひたすらに「欲望に正直な自分のなりたい姿」を書き出してみることにした。
先生は、次の授業の準備、出張の準備をしている。
どうやら、南の島、そして、ハワイへのリトリート、そして、講演会、研修、と大忙しなようだ。
以下は僕が自由に書き出したものだ。
まずは、お金。
年収は5000万円ほど。(でいいか。)
都内の東京タワーの見える一等地にオフィスを構えて、ベンツやフェラーリにのっている。
貴族か富裕層しか入れない高級住宅街のアパートを買い取って、
日々ギターをかき鳴らして作詞、作曲。
ジョン・レノンみたいに。
時計は、600万するロレックス。
軽井沢の郊外に、別荘所有。
・・・どんな生活なんだ、と思うが、想像はタダなので、ドラゴンボールが揃ったという前提でなんでも書いて書いて書きまくる。
ベッドは、超フカフカで安眠ができること。
家のなかにパーソナルジム、トレーナーがいて、毎日いい感じに仕上がっている。
「では、お金があったら幸せだろうか」
と思う。
世の中には、それだけの富を集めて、家族全員に愛想をつかされて孤独に亡くなったり、スキャンダルで裁判をいくつも抱えていた成功者もいるわけだが、
では「人間関係は」と思う。
いや、率直に言って、学生の僕にとってさしあたり、大きな欲求は何かというと、
「毎日が楽しい学校生活を送りたい」だ。
昔の学園ドラマ、ギャグマンガに出てきたような、牧歌的で、個性的な生徒や教師が集まって繰り広げっれるドタバタ劇に、
そうだ、すごくかわいくて優しい女の子がいて、すごく仲が良くなって、だけど、「好き」というところまではなかなかシャイで言い出せなくて・・・。
そうだ、、、そうだ。
モテたい・・・というよりも、ひとり、自分のことを好いてくれる中のいい女の子がいれば、、、それは本当にうれしい。
と僕は、ニヤニヤ、ドキドキしながら、幸せな気分だった。
・・・ふと、思い浮かんだのが、ヒロミのことだった。
もう一つが、すっかり忘れていたのだが、「伝説の世界最強の男」になりたいということ。
男はみんな世界最強を目指す。
喧嘩で一番強くなりたい、ということ。
だけど、99,999999パーセントの人がどこかでそれをあきらめる。
漫画の中には、狂ったように強い化け物のような男たちがいて・・・あわよくばそんな登場人物たちの一群になりたい、と思う。
そうだ、もしなれるなら、、、
空手やボクシングの世界チャンピオン。
強くなるために修行に励む姿を後ろで支えている、愛しい彼女。
クラスの中では、馬鹿どもになめられている風によそっているけれど、
実は、リングの上では、「すごい奴」。
誰よりも喧嘩の強い男というのを隠している設定。
最強でありながら・・・優しい。
かっこいい。
そして、賢い。
偏差値は、ゆうに73を超えている。
クラスや学年では、いつもトップを争っていて、周りから「すげー」と一目置かれている。
サッカーやバスケは下手でいい。
マラソンは、一位。
格闘技だけでなく、駅伝でも全国大会で優勝する程の選手。
大学では、文学部哲学科に入り、「世捨て人」確定。
圧倒的読書量で、あらゆる学問をマスターし、
かつ、格闘技で全国優勝を争う。
卒業後は、一転して漫画家となり、何となく書いた作品が大手出版社の目に留まりデビュー。
連載が決まり、コミックスは20巻。アニメ化、ドラマ化が決まり、
次回作も漫画史上もっとも甘く切ないカタストロフィ的な作品となる。
次に、映画監督となり、映画の原作や作画をしながら、三年に一回発表する映画は、毎回社会現象になるほどの大ヒットとなる。
作詞も担当し、作った百曲以上の詩はすべて大ヒット。
総合格闘技の道場も経営し、子ども、女性、年配の方から、強くなりたい人にまであわせた指導方法で、成功している。
僕が目をつけたのが「健康」というニーズであり、
精神疾患の予防や、心身の健康を保つ最高の方法としてのエクササイズを科学的に編み出しそれをマニュアル化し、エンターテイメントとしたことが功を奏したのだった。
僕は、最強格闘家、天才漫画家、ヒットメーカーは経営者としても超一流であった。
それだけでなく、思想家としてもノーベル賞並みの賞を受賞する。
宇宙の法則に基づいた経営を実現し、僕の著書は、世界中でバカ売れしている。
僕は、まるで神様のように言われているが決してそんなことはない。
やっていることはといえば、毎日ドライブと、ナンパである(笑)
ドライブ中にしゃべったことがそのままベストセラーになってしまう。
何をしていても、面白いようにお金が入ってきて困ってしまうほどなのだ。
・・・そんな妄想を自由に描き出しているうちに、
「妄想だけならまだまだいけるのではないか」
と思えるようになってきた。
先生に伝えると、「それでいいよ!制限を一切つけずに」と言われた。
・・・後年、あとで振り返った時、
あの「何でもなかった僕」が、本当にこのとんでもない誇大妄想のいくつかを本当に現実化していることに気がついて驚いたことを覚えている。




