僕、まなざされる
「さて・・・」
先生が言った。
「どうだった?」
「自分の真に求めていることが、何かということをはっきりと知っていることが必要なのだと思いました。」
「あなたはどうなりたいの?」
「ここじゃないどこかに行きたい、という夢はさっき見せてもらったのです。
すべてが憂鬱で、意味が分からなくて・・・苦痛で、それが永遠に続くと思うととてもではないが耐えきれず、どうにかしてそこから逃れたいと思っていたのですが、
ただ思っているだけで、その可能性なんか全く見えなくて・・・
しまいに、自分が何を望んでいるのかすら思うことにもブロックがかかってしまっていて。
それはなぜかというと、疲れ果てていたからです。
漠然と、楽になりたい、自由になりたいとおもっていました。
だけど、完全に自由であることも現実と同じく重荷だということに気が付いたのです。
・・・幸せ・・・
そう、幸せとは、サンクチュアリに出逢えた時だったかもしれません。
なぜか。
マミ先生含め、この僕のことを受け入れて信じてくれていることが分かったから。
そして、そこは僕が僕でいられる場所であったから・・・。」
マミ先生の静かな、深い、慈しみをたたえたまなざしを感じていた。
それは、あまりにも静かで深かったため、僕は、思わず言葉を失った。
そして、ただ、そこにたたずむ以外になかった。
その瞳はまるで青く澄んだ湖面のように美しく穢れがなかった。
その瞳は、一点の曇りも汚れもなく天を映しきっていたようだった。
そして、僕の内側にある数多くの行き場を失くしてよどんだ欲望はその美しさの前で、その場にいる資格がないかのように思われたのだった。
「・・・僕の、求めているものとは・・・」
うまく言葉が出てこなかった。
言葉に出すとそれはスポイルされてしまうような気がしたので。
どんな雄弁な言葉も、マミ先生の静寂の深みから出てくるあたたかいまなざしに勝るものはなかった。
水面でいくら波を立てても、その湖底がゆるぐことのないように、
彼女の深き精神は冷たき分析に満ちた理性で極めようとしても極めつくせぬものだった。
僕の、自分でも気が付いていないけれども、真実に求めているものとは、これでないか。
―――この、僕をみつめるまなざし。
大切に・・・大切に、愛しいものとして扱う、どこまでも一点の曇りもないまっすぐなまなざし。
この僕には、とうていそのような精神を持ち合わせていない・・・
恥ずかしい!
ああ、恥ずかしい!
僕は、幾たび自分の恥ずかしいけがれた過ちを自信満々にこの清らかさと愛の前で語ったことだろう!
役に立つとか、そうでないとか、そんな次元ではない。
この一本のろうそくのようにシンプルで素朴で・・・
本当に大切なもの以外のすべてを捨て去ってしまった、ただ純然たる愛。
その愛は、僕たちの気が付くことのない深みまで照射されており、そして、心の一番深いところからすべてを成り立たせているもののように思われた。




