僕、結局戻る
「コウスケ・・・あなたは、今幸せ?」
ヒロミが訊いた。
創造をしているとき、僕は、しあわせという感覚すら忘れてしまうほどだった。
ただ、目的もなく、ただ何かをしているだけで、存在が生まれていくという心地よい感覚をひたすら繰り返しているだけだった。
「まるで、あなたは子どものようね。」
彼女はそういった。
そうかもしれない。
爆発するように、空間一杯に生命がほとばしる。
ただ、それだけだ。
そこに、計算も打算もない。
売れてやろうとか、認められたいとか、人を満足させるためのプロセスさえも介在しない。
僕は、創造しながら、創造されていた。
創り出しながら、作り出されるものとなっていた。
僕が、世界に何かを生み出すとき、僕はその対象と一つになっていた。
しかしそれでありながら、生み出しつつありながら、その対象は絶対的に僕とは異なるものとして、この世界に羽ばたいていくのだ。
これを、「幸せ」というのであれば、幸せとは、求めるべきものではなく、何かの副産物のように感じ取られるものなのかもしれない。
「・・・しあわせの条件には、〈認められる〉ということがあったよね。」
「ええ。」
マミ先生は頷いた。
「・・・」
ふと僕は立ち止まった。
「たしかに、この世界では自由に思ったことがすべて叶う。
何だってできる。
自由・・・自由なんだ。確かに。
また、煩わされることはない。
学校にも、テストにも、進路にも、親にも、友人にも。
だけど・・・だけど・・・いったい何なんだろう。
この寂しさは。
この虚しさは。
自由を妨げるものが完全にないということがこんなにも不安なことだなんて・・・!
僕は、絶えず創造を続けていなければならない。
自由という空白に絶えず、ものを投げ込み続けるようにね。
それに、作ったもののすべては、だれも僕のことを認めてはくれないし、友人にもなってはくれないのだ。
よくない・・・よくないよ、こんなのは。」
「それで、あなたはどうしたいの?コウちゃん。
ここでは、何でも自由だったはず。」
「龍をもういちど呼びます。
ひょっとしたら、この世界にいつまでも固執する必要などないのではないかと思うようになってきました。
なんでも思い通りになる世界というのは、ひょっとしたらおそろしく辛いことなのかもしれない、とね。
僕が、所詮求めているものとは、たしかに、思い通りになることだったのかもしれないけれど、
問題は、どういう風にそれが思い通りに行くかということのような気がする。
そして、きっとそれは、何にもない世界の中のことではなくて、いつもの現実の世界においてのことだろうと。
ああ、僕は、世界との出会いを欲している。」
そこに龍があらわれた。
僕は言った。
「龍よ。
やっぱりこんなんじゃ駄目だ。
自由を妨げるものがなにもない世界においては、鳥が真空で飛べなくなるように、人は自由に押しつぶされてしまう。
寂しすぎる。
求めるべきは、どのような自由にこそ、人はしあわせを感じるのかということだ。
元の世界に戻してくれ。」
僕たち三人は、もとの庭園の橋のたもとに戻ってきた。