交流会
──交流会当日。
今は馬車で交流会がひらかれる【グランハウード城】に向かっている途中だ。
招待状を貰った日から今日までは大変だった。
服装の準備や出席する貴族の名前を覚えさせられたりと、バタバタしていてあっという間に時間がたってしまった。
セナが作法を1からやり直しますと言われた時は気が遠くなるのを感じたなぁ。
昨日の内になんとかセナから合格を貰う事が出来て良かったよ。
今までの苦労を思い返していると、急にガタンッ! と馬車が揺れた。
「……うわ!?」
「ウィル様!」
危なかった……もう少しで座席から転げ落ちる所だった。
さっきの振動で体勢を崩してしまったが、アルノーがギリギリで支えてくれた。
「大丈夫か? 」
「あはは……平気です」
「しっかりと道は舗装されているけど、たまに転がっている石とかで揺れるから気を付けるように」
父上が心配そうな顔をしているので、笑って返しておく。
はぁ……移動中も全然気が抜けないな……。
ただでさえ緊張しているのに、移動中も落ち着けないなんて思わなかった。
父上とアルノーはなにか話しているみたいだが、僕は緊張でそれどころではなかった。
自分を必死に宥めていると馬車の動きが止まり、御者が声を掛けてくれた。
「──アルバン様、ウィル様、到着致しました」
「ありがとう。ウィル、気を付けてね」
「はい」
さっきの事もあり、少し心配そうな父上が手を貸してくれた。
馬車を降りると、荘厳な雰囲気の城が目に飛び込んできた。
そのとんでもない大きさに言葉を失い、しばらく呆然としてしまった。
「ウィル、ここは馬車が次々に来てしまうから、早く行くよ」
父上はそう言いうと、僕の手を引きながら歩きだす。
あぁ、まだ心の準備が~……。
心の中で悲鳴をあげながらも転けないように父上についていく。
父上は門の前につくと、門番に二人分の招待状を手渡した。
「──失礼、アルバン・エレインとウィル・エレインだ。確認を頼む」
「拝見いたします……確認致しました。どうぞお通りください」
「ありがとう。……行こう、ウィル」
「は、はい!」
うっ……僕なんかが来る場所じゃないよここ……。
緊張でガチガチに固まっている僕は止まることなく進む父上についていくのがやっとだった。
幸い廊下では他の貴族とは出会わなかった。
今はちょっと挨拶出来る状態じゃないし……。
しばらく廊下を進んでいると会場らしき開けた場所が見えてきた。
「ほら、着いたよウィル」
「うっ……わぁ……!」
部屋の全貌が見えた瞬間は、正直言葉が出ない程圧倒された。
何人入るかなんて想像もつかない広さに、上の階へ続く大きな階段、綺麗に着飾った貴族の人達。
この中に混じると考えただけで、足がすくんでくる。
すると、こちらに気付いた人達が声をかけてきた
「これはこれは、アルバン様! ご無沙汰しております」
「おぉ、待っておりましたぞ! アルバン様」
うわぁ!? か……囲まれた……!
次から次へと人が集まってきたかと思っていたら、完全に包囲されていた。
しまった思わず父上の後ろに隠れてしまったが、出ていくタイミングがない……。
じっと様子を伺っていると、挨拶の応酬が収まったタイミングで父上に背中を押され大勢の前に出された。
しっかりと姿勢を正して……練習した通りに……!
「この子は息子のウィルです。……ウィル、挨拶を」
「皆様、お初に御目にかかりますエレイン家の長男、ウィル・エレインと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「ほぅ……いや、さすがエレイン家の長男ですな。礼儀正しく、言葉遣いもしっかりしていらっしゃる」
よしよし、挨拶はしっかり出来たはず!
父上の横に下がりつつ、心の中でほっと一安心していると急に周りが静かになり、階段の上に目を向けていた。
「……どうやらガゼル王が御目見えのようですな」
「仕方ありません……アルバン様、また後程」
さっきまで話していた貴族の方達もバラバラに散っていく。
王様はどんな人なんだろう? やっぱり赤いマントとか付けているのかな?
王様の姿を想像しながら待っていると、上の階から人が降りてきた。
「皆の者、よくきてくれた! 今宵の交流会は楽しまれているようでなによりだ!」
初めて王様を見た瞬間、衝撃を受けた。
まるで熊みたいだ。
そう思ってしまうぐらいガッチリとした体つきと目を引く金髪の髪は遠目から見ても王様だと分かるぐらい特徴的だった。
「今日は娘が6歳になった記念日であるが、それと同時に交流会も兼ねている! 是非この機会に各々交流を深めてもらいたい!」
こんな広い部屋でもよく通る声だ。
「さて、短いが前置きはこんな所だろう。早速我が娘を紹介しようじゃないか」
「はぁ……まぁ、あいつにしては頑張ったほうか……」
「え?」
声が聞こえたので横を見ると何故か父上がため息をはいていた。
不思議に思いつつも今はいいかと王様の方へ視線を戻す。
「紹介しよう! 我が娘のサレン・ハウードだ!」
紹介され、ガゼル王の後ろから顔を出したサレン姫を見た瞬間、息を飲んだ。
ガゼル王と同じ金色の長い髪に非常に整った顔立ち、そして輝いているようにもみえる赤色の瞳。
精巧な人形のような容姿に会場が静まり返る。
「本日はこの交流会にご参加頂きありがとうございます。サレン・ハウードです。皆様よろしくお願い致します」
サレン姫はにこやかに笑いながら、綺麗なお辞儀を見せてくれた。
「うむよく出来たな、サレン。……皆も娘と仲良くしてやってほしい! さて、硬くるしい話はここまでだ! この後は存分に交流会を楽しんでくれ!」
ガゼル王がそう宣言するとどんどん周りの貴族がガゼル王の周りに集まり、あっという間に人の壁が出来ていた。
隙間から見るにどうやら一人一人、ガゼル王とサレン姫に挨拶をしているようだ。
しかし、何故か父上は動かなかった。
「父上? 僕達も行かなくて良いのですか?」
たしかセナさんからは主催者にはお礼と挨拶に行くようにと言われていたはずなんだけど。
「あ、言ってなかったっけ? この会が終わった後に少し王と話をする予定でね。その時にウィルの紹介と一緒に挨拶もする予定なんだ」
「個人的な話ですか……王様とは仲が良いのですか?」
「仲が良い? はは、そうだね。仲良くさせて貰ってるよ」
父上は一瞬目をしばたたかせた後、小さく笑いながらそう言った。
うーん、少し気になる反応だったけど……それよりも挨拶に行かないならどうするか聞いておこう。
「父上はこれからどうされるのですか?」
「僕はこれから他の方々と情報交換……話をしてくるよ。ちょっと難しい話になると思うから、ウィルも向こうのテーブルに同じぐらいの子供達がいるからそっちへいっておいで」
父上の示す方向に目を向けると、他より低いテーブルに同い年ぐらいの子供達が集まっているのが見えた。
うぅ……子供達も綺麗に着飾っていて、なんだか話しかけづらいんだけどなぁ。
チラッと父上を見ると、ニコニコしながら僕が動くのを待っていた。
「まぁ、色んな子がいると思うけど、ウィルならきっと大丈夫だよ」
「……そうだといいんですが……では行ってきます」
「また終わり際に迎えにいくから」
そう言って父上は軽く手をふりながら歩いていった。
はぁ……上手く話を合わせられるか心配だ。
だけど、こんな所でずっと立っている訳にもいかないな。
僕は意を決して子供用のテーブルに向かって歩きだした。