エレイン家での1日
「ウィルー。元気にしてるかー?」
「……ぇんきー」
父親のアルバンが呼び掛けてきたので、舌足らずの口で返事を返す。
こうやってまともに考え事が出来るようになるまで2年かかった。
それまでは体に引っ張られていたのかすぐに眠気に襲われたり、急に泣いてしまったりと考えることが難しかったのだ。
2歳になってようやく感情の制御が出来るようになり、考えもまとめられるようになってきた。
最初は言葉が全く聞き取れなかったが、今では会話の内容ぐらいは理解出来るようになった。
ただ発音が日本語とは結構違うのでまだうまく喋ることはできないのが悔しい。
……さて、取り敢えず今までの現状を整理しよう。
まず僕はトラックに轢かれそうだった子供を助けようとしておそらくだけど、死んでしまった。
そして僕は何故か転生……生まれ変わりをしてしまった。
今世の僕の名前はウィル2歳。
そして今、僕をあやしているのは父親のアルバン。
髪は茶色で目は赤色のイケメンだ。
過剰なくらい溺愛してくれているが、どうも子供の扱いには慣れていない様子。
今も抱っこをしてもらっているのだが、割れ物を扱うように抱えているのでズルッと落ちそうで怖い。
「よーし、ウィル。今日はなにをしようか?」
そんな僕の気持ちなんて知るわけのないアルバンはよく僕の顔を見に来ては庭に出したり、本を読んだりと構ってくれる。
しかし未だに母を見たことがない。
おそらく目を開けて最初に見えた赤色は母親の髪だと思っているが本当の事はわからない。
……会いたいとは思うが恐らく事情があるのだろう。
もしくは出産の時に……
嫌な考えが頭によぎる
「よしよし、今日は天気もいいし、庭に行くか!」
考え事をしている内にアルバンは行き先を決定したようで、僕を抱き抱えて部屋を出ようとするが──
「そこまでです。アルバン様」
「失礼します。ウィル様。旦那様も」
「うっ……アルノーとセナか。ど……どうした?」
アルバンが僕を外に連れ出そうとした時、扉がガチャリと開き、疲れきった顔をしている執事のアルノーと乳母兼家庭教師のセナが入ってきた。
セナはアルノーはアルバンに抱かれている僕を見るとこれ見よがしにため息を吐いた。
「アルバン様。まだ本日の業務は終わっておりません。お戻りなってください。あとの事はセナに任せましょう」
「いや、しかしこれからなぁ……」
「ウィル様はこれから勉強の時間なのです」
「うっ……。分かったよ」
残念ながらアルバンは仕事があるようで、不満そうな顔をしながらも僕をベッドに戻す。
「ごめんな、ウィル。すぐに終わらせてくるから」
「ちち、うえ。ぇんきー」
「っ! あぁ! 元気に頑張ってくるぞウィル!」
「あっ! アルバン様! お待ち下さい!?」
アルバンは部屋を飛んで出ていき、アルノーが慌てて後を追っていった。
本当は「父上、元気だせ」と言おうとしたがやはりうまく出来なかった。
まぁ意味はなんとなく伝わってそうだからいいか。
因みに「父上」と呼ぶのはアルバンが必死に覚えさせようとしていたので、そう呼ぶことにした。
少し恥ずかしいけど……。
「さて、ウィル様。今日もお勉強致しましょうね」
「ぁい」
アルバンが出ていった後は、セナと一緒に勉強や喋る練習をする。
いままでの彼女は日替わりで物を持ってきたり、絵を見せながら物の名前を教えてくれていた。
ちょっと前からは短文の練習をするようなってきた。
文法自体は日本語とそんなに変わらないので、あとはこの舌足らずな口さえなんとかなれば喋れるはずなんだ。
「ではウィル様。今日も発音の練習を致しましょう」
「あぃー!」
ここから日が落ちるまで練習を頑張ろう!
──
「──はい。今日の練習はこれで終わりです。よく頑張りましたね」
「はふぅ……」
セナが終わりの合図をすると共に、脱力してしまう。
「話している内容は理解出来てるご様子、あとは発音だけですね」
セナはそう言いながら頭を優しく撫でてくれる。
最初は恥ずかしい気持ちだったけど、なんだかんだ褒めらるのは嬉しい。
「では、ウィル様。また明日頑張りましょう」
「ぇな、ありぁとー」
セナが帰ると、大体入れ替わるような形でアルバンが部屋に突撃しにくる。
あとは一緒にご飯を食べたり、本を読んだりして寝る。
引きこもっていた時の事を考えると濃密な1日だ。
だが、僕は引きこもっているよりも遥かに充実している感じがする。
前世では失敗してしまったけど、やり直す機会が出来たんだ。
──だがら僕は今世こそ、幸せになってみせる。
そんな決意を胸に抱いたんだ。
プロローグ的な話がしばらく続きます。本編の追放物までちょっと長いですがお付き合いください。