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魔導人形の記録2

作者: おーじ

初心者作者なので暖かく見て欲しいです。



☆☆☆☆



「それなりに長く生きていると、別れを多く見る。まるで自分だけ取り残されたような気持ちになる。だが、出会いもまたある。だから私はこうしてお前と話している」



岩場の竜の言葉だ。



「生きていればたくさんの死を見ます。あなたも見てきたでしょう?その死を、生を無意味にしないためにも、俺たちは戦わないといけない。私達が「生きている」限り、彼らを覚えている私達がいる限り無駄にはしない!」



革命を起こした勇敢な男の言葉だ。



☆☆☆☆




彼は分からなかった。


自分の目から落ちるものは何なのだろう。目の前で冷たくなっていく彼女はどうしてまた自分の前からいなくなるのだろう。


ただただ目から落ちるものに疑問を持ち、冷たい彼女の手を握った。


彼女がいなくなる。それは嫌だ。そう考えた彼は、彼女の身体を冷やし続けて、その身体が朽ちないように、彼女がそこからいなくならないようにし続けた。




それからしばらく経ち、街外れの「氷の館」と呼ばれるようになったその家は、摩訶不思議な力によって近づくものを凍えさせ、一般の人では近づくことさえ出来なかった。ついには領主の軍が調査する事態にまでなっていた。


領主軍は、来るもの全てを凍えさせるようなその館の中を少しずつ進み、この館の寝室だと思われる部屋の扉をやっとの思いでこじ開けた。

そこには氷漬けになった老婆と、半分氷漬けになっていながら老婆の手を握りしめている彼の姿があった。


踏み込んだ彼等は、その状況に戸惑いながらも彼に近づいた。


「死んでいるのか」踏み込んだ一人が呟いた言葉に半分氷漬けになっていた彼が振り返った。


まさか生きているとは思わなかった領主軍は動揺した。

動揺する領主軍に「死んでいるんですか?」そう問いかけた彼の目からはポタポタと涙が流れ落ちていた。


みるみる内に氷は溶け、そこには氷の館と言われていた面影が無くなっていた。その現象に動揺するばかりの領主軍だったが、涙を流す彼に一人の男が進み出て、そのご婦人を弔ってあげたらどうか、と彼に言った。


彼はどうすればいいか分からなかった。男はこの国のやり方でいいのであれば教えられると言った。


もう彼女はいない、この体には、もう居ない。


彼女は「死」んだんだ。




彼は男の提案を受け入れた。





轟轟と燃える炎を彼はただ見つめていた。その中には彼女だった身体がある。男の話しでは火によって浄化された魂が身体から解放され飛び立って行くのだと言う。


ただ彼は燃え上がり空に散っていく火の粉を見ていた。



そんな彼にあの時の男が話しかけてきた。


「大切な人だったんだな、大切な人が居なくなるって言うのは悲しい。だが生きているアンタはまだやれる事があるんじゃねぇか?」



これが「悲しい」



「悲しい」は嫌だ。



これから・・・・どうしたら、いいんだろう・・・・




ただ項垂れて涙を止めどなく流す彼を不憫に思った男は、取り敢えず家に連れ帰ることにした。



軍からは危険だとの声もあったが、軍の中でも上位に位置している男は「俺が責任を取る!」と彼を引き摺るように連れ帰った。


男には妻がいた、その妻は身重であり、見知らぬ男を連れ帰った男は酷く怒られた。

ややこしい事象を省いた男の話しに妻は同情的になり、彼が落ち着くまで家の一室を使わせて貰える事となった。


男の家はそれなりの大きさを有していた。使用人が数名おり、それを男の妻が指揮を取っていた。


妻はいつもボーっとしている彼に、気晴らしに何かさせてみようか、と考え、彼に使用人の一部の仕事を任せてみた。

彼は難なくそれをこなし、さらには他の使用人が怠った箇所までフォローしてみせた。


それに気をよくした男の妻は彼に色んな仕事をさせた。

彼は仕事を認められ、瞬く間に使用人と、男の妻の信頼を得た。彼はこの家で使用人として働く事になった。


彼が働き始めて数ヶ月後、男の妻は元気な男の子を産んだ。その子はスクスク成長した。



彼女と探して見つからなかったのに、彼女がいなくなってから見つかった。



成長していく男の子を見て、一人の男が彼の記録と一致した。

目の前の男の子と、あの時の国一番の騎士の記録と。




男の子は優秀だった。様々な事に興味を持ち、家庭教師をつけたがその全ての者が、男の子からもういらないと言われ、長くて1年、短くて数ヶ月で辞めさせられる。


親である男は困った、優秀なのはいいが、最近ではそれを鼻に掛けている部分がある。困った末に、なら知らない事を知ってそうな彼に一度任せてみることにした。


彼に最初に男の子が感じたのは「変なヤツ」だった。今まで家の中で見たことはあった。自分の母のお気に入りであり、父ともそれなりの友好関係がある。だが使用人だ。そんなヤツが自分に何を教えられるのか。男の子は鼻で笑った。



彼は男の子が知らない事を教えろと指示されていた。だから彼の知る知識を紙に書き、答えられるものに答えを書いてもらうことにした。



しかし、その全ての問いに男の子は答えられなかった。




☆☆☆☆




「分からないことを知っていくことが知識となり、分かったことを活かすことが新しい知識の種を産む。

お前には私の知識から、新たな知識の種を産んで欲しい」




遠い昔の記録。彼を作った男が語った言葉。



「知るということは、進むということだ。分からない事があるということはまだ楽しみがあるということだ。だいぶ長く生きているが、まだまだ分からない事が多い。」



岩場でニヤリと楽しそうに語った竜の言葉だ。




☆☆☆☆





目の前で歯を食いしばり「分かりません」というかつての騎士だった少年。


勿論彼に、騎士が少年だった時の記録などない。


だがこの子がかつての国一番の騎士だと分かる。

その目が、その声が、その存在が、この子があの時の騎士だと彼に確信を抱かせる。



記録には無いはずなのに・・・何故?



疑問が産まれるが、まずは指示されたことをしようと考えた。



彼の教え方は男の子が「分からない」といったものを、分かるまで教えるというものだった。


男の子は彼の言うことが最初理解出来なかった。


この世界のコトワリ、魔法という摩訶不思議な力の運用方法、この国では使われていない機械技術、軍隊の効率的な運用方法、かつて使われていた幻の武器の使用手順、などなど。

ただの使用人が知ったいる内容では無かった。もしかしたらこの世で知っている者などいないかも知れない内容の数々。


何者なのかと考える一方、何も考えていなそうな、人形のような顔で淡々と話す彼の知識を必ず理解してやると奮起していた。



彼の深淵とも言える知識を学び、成長を続けた男の子は、いつの頃からか彼の事を「先生」と呼び慕うようになっていた。



そんな男の子は彼からの知識を吸収し立派な青年となり、成人すると父と同じ軍人となるため軍学校へと入学することになった。



「おそらく学校では先生から学んだ以上のことは学べないでしょう。ですが、この世界で私が生きる以上は通らなければいけない道です。先生からはもっと学びたい。これからどうなるか分りませんが、帰って来た時に、また先生として私に教えて下さい」



男の子だった青年は爽やかな笑顔を浮かべて旅立っていった。



男の子が彼の前から離れると知って、彼はどうすればいいか分らなかった。この青年もまた居なくなるのではないか、彼女が彼の前からいなくなったように、しかし、そんな彼を見た青年の父親である男から



「死ぬときは死ぬ、心配じゃねえかって言ったら心配だが、アイツの生きる道の邪魔はしたくねえ」



「生きる道」、彼には分らないモノ。だが彼も青年のこれからの道を見ていたいと思った。

青年が帰ってきた時にはまた話しをしよう、青年が自分の持つ知識に興味を持ってくれる。それは自分が今まで歩んできたモノが認められているようで、「嬉しかった」のだ。



彼は青年との再会を待つことにした。




世界ではどこかでいつも争いが起こっている。それは世界の裏側であったり、近くの国であったり、理由も様々。青年が旅立って数年後、それが今回は、彼がいる国を中心として起こった戦争だった。



軍事力があるが寒冷地の多い北の国が、技術力と資源で劣るが、肥沃な土地がある彼の国に攻め込んだ。彼の国は必死の抵抗を続け、彼を迎え入れた青年の父親の男も、戦場に駆り出されることになった。



「俺もそれなりの立場にある軍人だからな、行かなきゃならねえ。そんな顔するな

 ・・・・ここは俺の大切な場所だ。これからどうなるか分らねえ、お前にはここを守って欲しい。」



真剣な顔で語る男の前で、彼は別れが近づいていることを感じた。



・・・どうすればいいんだろう



目の前の男との別れが近づいている。だがどうすればいいのか分らない。だから男に言われたこと、この場所を守ることで、言い訳をした。



言われたことをやればいいんだ。



男は彼に大切な場所を託して、覚悟を決めた顔で出かけて行った。



それから戦争は苛烈を極めた。必死の抵抗を続ける彼のいる国は、多くの犠牲を出しながら北の国に抵抗を続け、戦争を休戦させることに成功した。戦争が終わったことに沸き立ち、戦場から帰ってくる家族に涙を流し喜ぶ面々の中で、戦場に行った夫の帰りを待つ、男の妻の元には一人の軍人が尋ねていた。



男が死んだという知らせだった。



もう会えない。会うことができない。それが悲しかった。どおうすれば良かったんだろう。


彼は泣いた。知らせを聞いた男の妻の隣でボロボロと涙を流していた。それを見た男の妻は「ありがとねえ」と呟いて涙を流しながら優しく笑っていた。


読んで下さりありがとうございます。

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