発見(鰻)
雨。
彼女を見たのは、魚屋の行列であった。列は長く続き、店の外に三人飛び出している。その三人の先頭の少女は、店内に入ろうとする二番目のふくよかなおじさんに押され、なにやら唸っていた。
「ぐ、ぐぅ…」
前は動かず、後ろからは押されている彼女の様子は、赤い衣装も相まって、本当にキツキツのサンドイッチの具のトマトのようで、どうも目についた。サンドイッチにしては、パンが少しボリューミーすぎる気もするが。
天気予報では確かに晴れだった。急に降りだしたのだ。防水魔法を施してきている奴なんてそういないだろう。商店街は、空を呆然と眺める人、迎えに来てほしいとでも言うのだろう通話魔法をしている人が集まって、建物の屋根にいる。
その様子を、アイスクリーム屋の軒下、ベンチに座ってチョコレートのアイスクリームをちまちま舐めながら、眺めている男がいた。
舌に感じる冷たさが心地よい。俺は忌々しい知覚過敏のせいでアイスクリームを舐めている。もはや、アイスクリームは舐めモノだと認識している。棒つきキャンディーと同じだ。まあ…飲むこともできるがあくまで最終手段。コーンの下を齧って、その穴から滴るクリームを音を立てて啜る様子は公の場に相応しくない。
湿気の多い日は、気持ちの悪いことが多い。その一つがこれだ。シャツが、汗だか雨だかよくは分からないが、肌にぴったりと吸い付いている。これが張り付くなら張り付くで、一切の隙間なくしてくれるならば良いのだ。ところどころ(主に脇を指すが)に、空気が入るのが嫌いなのだ。体を動かすたびに、浮いている濡れた服が肌に触れたり、離れたりを繰り返し、その感触は一向に慣れない。だから動きたくない。
シャツの空気の膨らみを押し出す作業に夢中になりだしたころ、目の前では、いまだに挟まれている彼女の姿があった。
そういえば、魚屋に行列ができることは珍しいことだ。今までで一度も見たことがない。何か、安売りかとも思ったが、鼻腔が思わず膨らむ暴力的な香ばしい匂い…雨で薄れてはいたけれど、おそらくは鰻だ。店内で焼いているのだろう。本来ならば煙が出ているはずだが、雨で見えない。なるほど、行列ができるのも納得だ。
…
ああ、そんなに押したらスクラップトマトになるぞ…。
彼女の声は聞こえないが、あの顔はぐぅぅと言っている。コップに醤油を注いだうえで、何を注いだのか問われ醤油だと答えるくらいには確かだ。それにしてもなかなか列が進まないようだ。俺はアイスクリームを食べ終え、意味のなかったシャツの空気抜きも終えたので、あの少女がパンから解き放たれる瞬間だけ見ていることにした。
ふと目が合った。
少女は、挟まれたままにこちらを向くと、もがきながら行列を抜け出た。
ああ、耐えきれなかったか…。
少女は周囲を見る。そして、何故だか一直線にこちらに走ってきた。
…助けろよと文句を言われるのか。それは全くお門違いだろう。お前は列の後ろに並び直せばよかっただけだろう。もっと早くから。
少女は俺の目の前に仁王立ちになった。
「あの列に並んでください。ダメですか」
…
代わりに並んでこいと来た。




