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死は不意に笑いかける  作者: 雁 作太郎
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プロローグ2

 しばらく馬を走らせるとお昼を食べる絶好の草原があった。旅人がよく利用していると見えて、草原には石を丸く並べ黒く焼け焦げている場所がいくつかあり、薪の拾えそうな森が近くにあった。


 冒険者達はそこに馬車を止めると、ここで食べようと提案した。男は了承した。

 回復術師はごはんを炊きたいから準備すると草原に残り、剣の冒険者ふたりと女魔術師と男で薪を拾いながら山菜やキノコを探す事になった。


 仮面の女は男にくっついて行きたかったが冒険者が自分のペースに合わせて何度も何度も休憩を挟みながら快くゆっくりと歩いてくれるとは思えず、荷馬車の中で休む事にした。

 

 仮面の女が横になり退屈していると外から女回復術師の声がした。

「あの…さっき川原で転んで擦りむいてますよね?良かったら治療しますよ」


 仮面の女のひざは確かに擦りむいていた。


 旅で病になり足手まといになりたくない。そう考えた女は、傷口を診てもらう方がいいと判断した。


「お願いしてもいいかしら。良かったら中に入って治療をしてほしい」と仮面の女は言った。


「おじゃまします」と言うと女回復術師は幌の中に入った。

 幌の中にはベットがふたつあった。

女回復術師は男女の事をてっきり夫婦か恋人だと思っていたので、あれっ?と意外に思った。幌の中には男女が愛し合ったような痕跡は全く感じられなかった。

 高い場所にロープが張ってあり川原で見たパンツが干してあった。


 ひざを診るために女を座らせスカートをめくり上げようとすると「実は、パンツを穿いてないの、恥ずかしいからあまり上げないで」と女がもじもじしながら言った。


 女回復術師は思った。かわいい守ってあげたいと思ってドキドキしちゃったじゃないの!?

 傷口は大した事なかった。女回復術師はひざにヒールの呪文をかけ化膿止めの傷薬を塗った。


 仮面の女は女回復術師の手を両手で握るとありがとうと丁寧にお礼を言った。


 女回復術師は傘立てのようなモノに何本もの杖が入れてあるのに気づいた。どうして何本も杖が必要なんだろう?と眺めると仮面の女が自慢するかのように言った。


「これは全部、牟田口が作ったの凄いでしょ」と言った。


 女回復術師は男の名前が牟田口なんだと知った。今まで聞いたこともない響きの名前だった。遠い異国の人なんだろうと思った。

 それから女回復術師は杖のどこが凄いのかさっぱりわからなかった。魔力を増幅させる高価な魔法石も付いてない、造形も素人以下、川原で使っていた杖なんてどう見てもどこにでも落ちているような棒きれだった。


 どう答えたらいいのか女回復術師は困った。正直に答え機嫌を損ね、電撃が飛んで来るのだけはごめんだ。この場を取り繕うために褒め、それが嘘だと直ぐに看破されるのも恐い。それに私は嘘が下手だ……。

 

 女回復術師が困っていると「わからないの?そうよね。私も最初はわからなかったもの……」会話の糸口を見失うとつまらなそうに仮面の女はそっぽを向いた。 

 

 その時、仮面の隙間から女の顔の傷が少しのぞいた。傷は思ったより重症だった。自分では何の力にもなれない事を女回復師は悟った。



 森の中で冒険者達は薪を集めながらキノコや野草を採取し、これが食べられて、よく似ているけれどこちらは毒草だから食べたら危険だと牟田口に教えた。彼には微妙な色の違いや造形の違いがさっぱりわからなかった。

 牟田口はわからないと告げ、間違える心配のない食べられる野草やキノコだけを教えてもらった。


 冒険者達は森で違和感を感じ始めていた。やけに静かすぎる……。冒険者は3人で相談すると牟田口にここはもしかしたら魔物が通りかかった人間を狩る狩り場なのかもしれない。静かに荷馬車に戻り立ち去ろうと言った。


 牟田口は連れの女の事が心配になった。



 冒険者3人と牟田口が森を抜けようと歩いていると大きなオーガ3匹がこの先の道を封鎖しているのが見えた。

 オーガは力が強く知恵を持って連携して動いてくる。冒険者達は自分達では勝てる見込みはないと判断した。

 

 冒険者達は考えた。オーガの一番の目当ては馬だ。荷馬車を捨てオーガが馬を食べている隙に森を抜けて逃げ出せばおそらく全員助かる。だが荷馬車をまた手に入れるには5年ぐらい貯蓄しないといけない、捨てるのは惜しい。

 

 道を引き返しても別のオーガが複数で待ち構えていて挟み撃ちになる可能性が高い。


 それに風下で自分達がオーガに気付かれなかったということは、草原に残したふたりと馬の匂いは別動隊のオーガに気づかれ襲われている最中かもしれない……大剣は嫌な汗をかいた。



 荷馬車の中のふたりも異変を感じ取っていた。人間とは思えない大きな足音が近付いてきた。

 女回復術師は唇にひとさし指を立てて静かにといったジェスチャーをすると幌の隙間から外を覗いた。外にはオーガ4匹が歩いて荷馬車に近づきつつあった。その距離は200メートル、気づくのが遅かった。


 女回復術師は仮面の女にオーガが4匹近づいてくる不味い事になったと伝えた。



 その途端、仮面の女は杖を外に何本も放り出し外に出た。女回復術師は額に手をあて頭を振った。(もう、どうしたらいいのよ……)


 女回復術師は考えた。逃げ出せばオーガは走って追いかけ、背後から自分達を襲うだろう。

 かといえ逃げなければオーガに距離をつめられ捕まるだけだ。

 

 パーティーは危機の時の対処法をあらかじめ決めておく事によって、素早い対処と連携を可能にしていくつものピンチをくぐり抜けて来たが、対処法が決まっていない想定外の事態が起きると、とっさの判断が鈍る事が多々あった。

 今回の事態も想定外だった。


 幌の外から仮面の女の声が聞こえた。

「沼地に住まう嫉妬の魔女よ、生を呪い水底に引きずり込め、大口を開けろ!クイックサンド!!」

 

 女回復術師は加勢するしかないと覚悟を決めて幌の中から飛び出した。すると100メートル先には泥沼が広がり、腰までつかりジタバタもがくオーガ4匹がいた。


 (やるわね、これなら逃げられる)女回復術師はパーティと合流する事に決めた。仮面の女に逃げようと合図を送ろうとすると仮面の女は既に別の魔法詠唱を始めていた。


「心冷たき氷の女王よ汝の冷たい眼差しで心臓を刺し貫き身も心も凍えさせろ!、降り注げブリザードソード!!」


 しかし何も起きなかった。

「綱を外して荷馬車を退避させるから、あんたも自分達の荷馬車を動かしなさい!!」と仮面の女が早口に言った。


 女回復術師は荷馬車より命の方が大切、逃げなければならないと思ったが、女の有無を言わせない迫力に本能的につい従ってしまった。


 女回復術師が背後を振り返るとオーガが泥沼から抜け出しかけていた。

 やはりこんな事をしている場合じゃない。今からでも逃げ出そう!

 そう思った瞬間頭上から冷たい空気の塊が叩き付けるように落ち、草原を強く波立たせ幌がバタバタと壊れそうなぐらいはためいた。

 

その瞬間、空から氷の剣が無数に落ちてきた。


 オーガは悲鳴をあげながら無数の剣に無惨に刺し貫かれ、最後には荷馬車と同じぐらいの巨大な氷の塊がいくつか落ち轟音を立てオーガを跡形もなく押し潰し、泥水が噴水のように高く上がり周囲に飛び散った。


 オーガは3匹即死したが、1匹は氷剣が3本背中に刺さったまま氷に挟まれ身動きがとれず、大きな悲鳴をあげ仲間に助けを求めていた。


先ほどまで馬を停めていた場所に幾つもの氷の剣が突き刺さっていた。



 女回復術師は暴れた馬に手綱を取られ尻餅をつき、巨大な氷の塊が落ちたときの轟音に腰を抜かした。




 冒険者達と牟田口は轟音と人間とは思えない物凄い悲鳴を聞いて駆け出していた。

 草原に戻った時「ファイヤーボール!!」と叫ぶ女性の声を聞いた。


 樽ぐらいの巨大な火球は重すぎて飛ぶ事が出来ず、草原をバウンドしながら飛びはね街道を駆けてきたオーガ3匹に物凄い速度で激しくぶつかった。


 ジューという音がしてオーガの身体から煙が上がり悲鳴が響いた。肉の焼けた臭いが周囲に立ち込めた。


 一匹は身体半分が消し炭のように焦げ薪のように燃え始めた。もう一匹は真っ赤に焼けただれ数歩歩いた場所で絶命した。残りの一匹は腕が焼けただれちぎれかけていたが、力なく吠えながらヨロヨロと歩いて森の中に消えていった。



 ふたりの剣士は氷に挟まり悲鳴を上げ腰まで泥沼につかったオーガに駆けつけると、大剣の剣士がオーガの首を切り落としとどめを刺した。


 牟田口と女魔術師は興奮した馬をなだめた。

 

 女回復術師は尻餅をつき放心していた。


 仮面の女は激しく泣き出して牟田口の名前を何度も何度も呼んだ。仮面の女が投げ捨てた杖は焦げて煙を出しくすぶっていたがボッと音を出すと勢いよく燃え、灰になり風に飛ばされて跡形もなく消えた。



 牟田口が駆けつけると仮面の女は「恐かったの」と泣きじゃくり鼻を鳴らした。

「荷馬車に戻りたい」と仮面の女は言いい抱っこをせがんだ。


 女は抱き抱えられ、ふたりは幌の中に消えた。



 どういう事なのか3人の冒険者が放心した女回復術師に聞くと「ごめんなさい、ちょび漏れしちゃった」と言った。

「いや、そうじゃなくてオーガは誰がどうやって倒したのか聞きたいんだ」大剣が言った。


 女回復術師は今まで見たことを少し興奮しながら、目をキラキラさせたり潤ませながら話した。


 三人は絶句した。信じられない話だが焼け焦げたオーガの死体と泥と血肉の塊や大量の氷の塊、先ほどのファイヤーボールという叫び声を総合すると信じるしかなかった。


「あんなファイヤーボール見たことない!!大きさが全く違うし、飛ばずに飛び跳ねるなんて魔法学校の教師が見たらどう評価するのかしら!?」と女魔術師が言った。


 大剣は疲れた顔をして「今日は自分の常識と違うモノを見すぎて疲れた。考えが追い付かないからこの件は夜中に話そう」とだけ言った。


 短剣の剣士がスコップや水で火の後始末をしていると背後から女魔術師が近づき「あれは、恋する乙女が王子さまを見つけた時の目ね」といった。


短剣が「確かにそんな感じだったな。でも相手が女で良かった。男だったら太刀打ちできん」とおどけた口調で言った。


「昨今は、女どうしのカップルもいるし安心してると取られちゃうわよ」と女魔術師は短剣をからかった。



 オーガの死体にハエが集り始めていた。

 大剣が牟田口にオーガには討伐依頼が出ているかもしれない。右の耳を切って持ち帰った方が良いと教えた。

 牟田口が料理用の包丁しかなくオーガの耳を包丁で切りたくないから切ってほしいと言うと、短剣の戦士が使い古しで悪いが使ってほしいと牟田口にナイフをプレゼントした。

「ありがとう」と牟田口は言うとオーガ2体から右耳を切り取った。


冒険者達と牟田口は腐敗臭が漂い始めた草原から場所を変える事にし、荷馬車を2台走らせた。

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