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死は不意に笑いかける  作者: 雁 作太郎
1/3

プロローグ

最近、なろうで小説を書き始めました。

読者の皆さんや緒先輩方のアドバイスがいただけたら助かりますm(__)m

 幌付きの荷馬車が田舎道を南に向けて移動している。季節は秋、麦の穂が色付き収穫が近い事を告げていた。

 ひつじ雲が南に流れ、その影が麦畑の上を楽しげに幾つも幾つも駆けていった。


 絵画に描かれそうな田園の風景だった。

 しかしそれとは不似合いな「ギーコ キィーコ」という騒音が規則的に響いている。

 村の子供達が音につられ集まり、荷馬車の後ろに連れ立って歩き「やーい!オンボロ オンボロ」と囃し立てた。


 あまりの騒々しさに男が幌から顔を出し「あっちさ行け、あっちさ行け」と手を振り追い払おうとしたが、男の訛ったしゃべり方が子供たちのツボにハマったようでゲラゲラと大笑いし「あっちさ行け、あっちさ行け」とみんなで真似をしてまたゲラゲラ笑った。


 男はため息をつくと幌の中に顔を引っ込め暫くするとまた顔を出した。

 手には袋を持っていて中から焼き栗を取りだし食べながら手招きをした。子供たちはどうしようかといった顔でお互いの顔を覗き込んでいたが、やがて意を決したように一番大きな男の子が男の近くに駆け足で近づいた。


 男は「みんなで食え」と言い袋を差し出すと男の子は受け取り、立ち止まって中から焼き栗を取りだし食べてみた。


「甘くてうめぇ!」その声を聞いた子供達が走って袋に群がり口々に「うめぇ!」「うめぇ!」と言った。



 幌の中には頭から布を被り震える女がいた。遠ざかる子供たちの声を聞きながら「もう子供はいなくなった?」と舌足らずな声で不安そうに聞いた。


「焼き栗を渡したら夢中になって食べ始めた、もうずいぶん離れたよ」と男が伝えると女は幾分かだけホッとした様子だった。


 女は怪我で顔が醜くなり仮面で顔を隠していた。数日前、村外れで休憩していた時、誰もいないものと仮面を外していた。その時近くの川原で花輪を作っていた小さな子供達のひとりに見られてしまった。

 子供はキンキンの金切り声で「キャー!化け物!!」と叫ぶと転びながら走って村に逃げていき、他の子供も悲鳴をあげながら逃げていった。川原には花輪だけが残された。


 それ以来、女は子供を怖がるようになり、先程の子供たちの囃し立てる声を聞いた途端、頭から布を被り震えた。


 男は女の横に座り大丈夫だと言うようにぎゅっと肩を抱いた。女の震えはしばらくすると止まった。

 男は焼き栗の入った袋を女の前に置くと子供をあやすように食べるよう勧め、自分は馬の手綱を握るために幌から出て御者台に座った。


 女は焼き栗をつまみ皮を剥くと仮面の隙間から焼き栗を口に放り込み食べた。時おり幌から顔を出し殻が固いから剥いて欲しいと男にせがみ剥いてもらった。


 男は遠くの丘の上で先ほどの子供達が手を振っているのを目にし手を振り返したが、その事は女には言わなかった。



 荷馬車が人里から遠く離れた川に差し掛かると周囲に人がいない事を確認し、男は適当な場所に荷馬車を止め、馬を木に繋いだ。

 男は荷車から杖を2本とカゴを取りだし地面に置くと、女が荷車から降りるのを抱き抱え手伝った。


 ふたりはしばらく川沿いに歩き、この辺りでいいだろうと男が不格好な杖を女に渡すと女はその場で声に出し数を数え始め、男は川下に向かい歩き始めた。

 女は100数え終わると少し休憩してから杖を天に掲げ呪文を唱えた「天を駆ける雷獣よ、一陣の光の矢となり糧を得るための助けとなれ、地を穿てライトニングボルト!!」そう唱え終わると女は「えい!」と川に向けて杖を投げ捨てた。

 杖はあまり飛ばずに近くの浅瀬に落ちた。女はそれを見ると慌てて駆け出し100メートルほど離れると頭を抱えしゃがみこんだ。


 その瞬間、轟音とともに落雷が起き、投げた杖に直撃して丸焦げになった。


 川から魚がプカプカと浮き上がり川下に向かい流れていった。

 落雷が終わると男が靴とズボンを脱いで川に入り、上流から魚が流れてくるのを流れの緩やかな場所で待ち構える。

 魚は面白いように獲れた。男は魚を捕まえるとカゴに入れた。魚はピクピクして死にかけているように見えたが暫くすると大半がピチピチと元気よく跳び跳ねた。


 「大漁!大漁!」と男が笑いながら女の元に戻ると女は「直撃しちゃった」と言い真っ黒に燃えた杖の燃えカスを指差した。


「まだ1本あるし、また作ればいいさ」男はそう言うともう一本の杖を女に渡した。


 女は杖を握り藪に向け呪文の詠唱を始めた「心冷たき氷の女王よ汝の冷たい眼差しで心臓を刺し貫き身も心も凍えさせろ!、降り注げ!ブリザードソード!!」そう唱えるとふたりは踵を返し荷馬車に戻るために歩みをすすめた。


 背後では「ドン!!ガシャガシャ」という大きな音がした。


 荷馬車で先ほど氷の呪文を唱えた場所に通りがかると、茂みに幾つもの氷の剣が突き刺さり折れて落ちていた。大きな岩ぐらいの氷の塊も落ちていた。


 それを見ると女は「全部剣にしたハズなのにどうしてもくっついて塊になる。上手くいかないわね」と呟いた。


 男は氷を拾いながら「そのうち出来るようになるさ」と適当な返事をし「狩りには使えないけどモンスター相手なら押し潰しても構わないから十分使えるよ」とフォローした。

 男は拾い集めた氷を箱に詰めると先ほどの魚をカゴから箱に移し蓋をした。



 日も暮れかかり荷馬車は森にさしかかっていた。

 風の避けられそうな木の側に荷馬車を止めるとふたりは薪を集め火を起こし食事の仕度を始め、馬に草を食べさせ水を与えた。


 勢いよく煙を出して燃えていた炎がやがて緩やかになり薪が真っ赤な炭のようになり煙が少なくなると、男は昼間獲った魚に塩を振り口に棒を差し込み地面に刺して焼き始めた。


 ふたりはくる日もくる日も魚を食べ続けていたのでいい加減、魚にはうんざりしていた。でも他に食べるものもなかったから毎日のように魚を食べた。

 前日に山栗がたくさん落ちている森を見つけた時はふたりで大喜びしてたくさん採った。山栗は甘くて美味しいが実が小さいので腹の足しにはあまりならなかった。


 男は異世界に転移する前にテレビで見たアユ焼き名人の焼き方を思いだし、真似をして1ヶ月、腕を磨いた。おかげで男の焼き魚の腕前はプロ並みになっていた。



 美味しく焼けた魚をうんざりしながらふたりで食べていると荷馬車が通りがかり止まった。女は急いで脇に置いていた仮面を顔に付けた。


 荷台や馭者台から冒険者パーティーと思われる風体の剣士風の男ふたりと魔法使い系の格好をした女ふたりが降りた。

 リーダーと思われる大剣を背負った剣士風の柄な男が「美味しそうな匂いについつられてしまいました。もしよろしければ我々も食事に混ぜていただけませんか?」と遠くから声をかけた。


 その瞬間、雲の割れ目から月光が差し込み森を明るく照らした。

 冒険者はぎょっとした。道からは暗くてよく見えなかったが、あきらかに怪しい仮面の女と、なにやら自分達とはどこか違う雰囲気の男。

 冒険者達は全員が警戒し武器をいつでも手にとれる体勢に変えた。


 それに気付いた男は慌てながらゆっくりと説明を始めた「自分は外国人で言葉を覚えたて。聞き苦しいと思うけど容赦してほしい。隣の女は顔に傷を負って恐がられるから顔を隠しているが気にしないで欲しい。魚はたくさんあるから欲しければいくらでも焼く、遠慮なく食べてくれ」


 冒険者は顔を見合わせ小声で話し合った。

女回復術師が「どうしよう?」と不安げな顔で言った。

 リーダーと思われる剣士は「ここで帰ったら失礼過ぎる…食べていこう。でもお前は食べたふりだけにしろ、万が一何か盛られて回復術師がダウンしたら終わりだ」

 回復術師はぶんぶんと頷いた。

 女魔術師が「そうよね、食べるしかないわ。戦闘力が低い私が先に食べるから食事の仕度でもして時間を伸ばし様子をみてから食べて」とふたりの剣士に言った。


「ご相伴に預かります」冒険者4人は頭を下げた。「我々も料理をしますのでどうかあなた方も我々の料理を食べてください」と言うと3人で料理の仕度を始めた。


 女魔術師は「私は料理がダメで食べるのが専門なのでお魚頂いていいかしら?」と言った。


 男は「もう少しゆっくり話してほしい。魚はこれがちょうど良い焼き加減だからこれを食べるといい」そう言いながら焼き魚を手渡した。


「いただきまぁ~す」と仲間に聞こえるように大きな声で言うと女魔術師は魚にかぶりついた。

 何これ!?女魔術師はびっくりした。今まで生きてきた中で一番美味しい焼き魚だった。

「美味しい、これ凄く美味しい!」と言うとあっという間に平らげ3匹食べた。

 魚は尻尾がジューシーで頭がカリカリに焼けていて、塩加減も絶妙だった。


「こんな美味しいお魚、初めて食べたわ、もしかしてお兄さんは一流の料理人なの?」女魔術師は目をキラキラさせていた。


 男はかぶりを振ると「魚しか食べるものがなくて毎日毎日、工夫して料理したら上手くなった。昔、一流の料理人が魚を焼くところを見たことがあった。見よう見まねで焼いた」と言った。


「ふぅ~ん、魚はどうやって捕まえたの?釣ったの?寝る前に罠を仕掛けて起きたら捕まえて旅をしているのかしら?」女魔術師は料理人じゃないと聞いて少しガッカリしたが構わず話を続けた。


 男は質問に「魔法で捕まえたんだよ。連れの女が電撃で魚を痺れさせ、浮いてきたところを自分が待ち構え捕まえた」そう答えた。


 女魔術師は驚愕した。

「またまたぁ、冗談なのよね?雷の魔法なんて使える人なんてほとんどいないし、それで魚を捕まえるなんて聞いたことないわよ」女魔術師がそう言うと男はそれには答えず、失敗した余計な事を言ってしまったという顔をして連れの女の方を見た。


「お兄さんもう一匹魚をいただくわ」と女魔術師が言うと男はちょうど良い焼き加減の魚を見繕ってくれた。


 魚が足りなくなると男は荷馬車から魚の入った箱を下ろし塩を振りかけ棒を差し込み焼く準備を始めた。女魔術師はスキをうかがいまだ焼けてない魚をジロジロ見た、口には針が掛かった穴がない、身体には銛が刺さった穴もない、ヒレもきれいなもので罠の中で暴れたようにも見えない。


 さっきの話、もしかして本当だったの…?


 そう女魔術師が考えていると男が「あなた達は冒険者風に見えるけどもしかして冒険者なのですか?」と聞いた。


 魔術師の女は自分達が中堅の冒険者で一攫千金を夢見て隣国からこの国のダイヤモンド鉱山まで来てみたが、掘っても掘っても黒い石しか出てこない。2ヶ月粘ってみたが無駄で故郷に帰る途中だと語った。


 その黒い石を持っていないかと男は聞いた。

 外国人だと足元を見られボロい荷馬車を大金を出して買うハメになった。その荷馬車がギーギー鳴くから子供達にからかわれ困っている。もしかしたら黒い石があれば鳴かなく出来るかもしれない。譲ってもらえれば大変助かる。物々交換でもいいから欲しいと言った。

 それから自分達は次の街でギルドに登録し冒険者になるつもりで旅していると話した。


「おにいさん苦労してるんだね」と魔術師の女は同情した。「黒い石にそんな使い道があるなんて知らなかった、おにいさん物知りなのね。ちょっと待ってて仲間に話して許可をもらってくるから」そう言うと女魔術師は少し離れた場所で火を起こして料理を作っている仲間の元に戻り相談を始めた。


 料理はあらかた出来たのかさっきから美味しそうな匂いがしている。男は連れの女の横に座ると「おいしそうな匂いだね。なんだろう?」と言った。


 たぶん「小麦粉と牛乳を使って作った野菜やお肉の入ったスープね。やっと魚以外の料理が食べられる」とそう言うと連れの女のお腹がグゥと鳴った。


 冒険者達はお皿にスープと匙を入れて運んできて食べるように男と女にすすめた。ひとくち食べると涙が出るほど美味しかった。男はむしゃぶりつくように食べ、連れの女は男の陰に隠れながらむしゃむしゃ食べながら「おひしいおひしいと」言った。ふたりは実際に涙を流しながら食べていた。


 こんなに感激して美味しそうに食べてもらえるとは思わず、冒険者達は照れてしまった。


 男は焼き魚を食べてほしいと冒険者に手渡すとふたりの戦士は顔を見合わせてからパクリと魚にかぶりついた。女魔術師の言う通りの絶品の焼き魚だった。

 この焼き魚に比べたら自分達のスープは素人止まりの美味しさ、なのにふたりは心底美味しそうに食べている…このふたりの男女は何かがおかしいチグハグだ、ふたりの剣士はそう考えた。


 冒険者3人が美味しそうに魚をパクついてるのを尻目に不服そうな顔でスープを啜る女回復術師がいた。女回復術師は小柄な短剣の剣士の横っ腹を肘でぐいぐい押すと耳元で「ねぇ、もういいでしょ?」と小さな声で言った。3人はすまん美味しすぎてすっかり忘れてたと謝ると、女回復術師はむくれた顔のまま貰った焼き魚をおもいっきり頬張った。魚からジュワっと脂が口の中にあふれだした。

「なにこれ!?美味しすぎる!!」女回復師はこれに炊きたてのライスが付いたら何杯でも食べられると思った。


 男が魚を焼くと4人はむしゃむしゃと食べ、とうとう箱に入れていた30匹ほどの魚を全部食べ尽くした。



 お礼に冒険者がお茶を振る舞うと、お茶なんて何ヵ月ぶりだろうと男女はよろこんで茶を楽しんだ。

「それで、黒い石の件なんだけど…」大剣の剣士が話を切り出した。

「何かの足しになればと持ってきただけで売るあてもなかったから無料であげてもよかったんだけど……。すまないけどどうしても魚を獲る所が見たくなった。俺達も野草や山菜の採り方や冒険のいろはを教えるから石と交換で見せてはもらえないだろうか?」


 仮面の女は男の耳元でゴニョゴニョと何か囁いた。

 男がこちらからも条件があると言い出した。

 冒険者達は何事かと思っていると「彼女は怪我をして舌足らずなしゃべり方しか出来ないから、どうか魔法詠唱の時に笑わないでほしい」と男が言った。


 冒険者達は了承した。話し合いで明日は朝から魚獲り、山菜を獲ったり冒険のいろは冒険者達が教え、それから昼食にして焼き魚の作り方を男が冒険者に教える事で決まった。


 それぞれの荷馬車に戻り休む事になった。



 冒険者達は魔法の話しは本当なのだろうか?嘘をついていてふたりが夜更けにこっそり旅立つかもしれないと荷馬車の中で話した。

 行くなら行かせればいいと冒険者たちは交代で夜の番をして眠る事にした。


 男と女も明日の事を話していた。

「成り行きでついうっかり魔法の事を話してすまない」男がそう言うと仮面の女はかぶりを振り「済んでしまった事は仕方ないわ。それに美味しい料理も食べられたし結果的に良かった。あのまま魚だけの旅は無理があったから冒険者に冒険のいろはを教えてもらえるのはなによりの収穫になるかもしれない」そう言うとふたりとも疲れていたので夜の番は冒険者に任せ眠る事にした。


 眠りに落ちる前に女は眠そうな声で「私たちは彼らと比べて圧倒的な弱者、もし襲われる危険を明日少しでも感じたらスキをついて明日の夜中に逃げましょう」と言った。男はその言葉が夢なのか現実なのかわからないまま眠りに落ちた。



 朝になった。冒険者達は朝までふたり交代で夜の番をしていてくれていたらしく女回復術師と短剣の剣士が起きていた。

 男が「ご苦労様です」と声をかけると冒険者は眠そうな目で「おはよう」と言った。


 眠っている冒険者のふたりは眠らせたままにして、とりあえず荷馬車で道をすすみ適当な川が見付かったら起こして半時したら魚獲りをする事になった。


 男が荷馬車を動かすと荷馬車は「ギーコ キィーコ」と鳴った。音は冒険者達が思ってたよりも酷く耳障りだった。

 これでは休んでいる仲間が起きてしまうからと男に荷馬車を停めさせると短剣の剣士は黒い石を男に渡した。


 男は石を削り粉にすると荷車の下に入り込み15分ほどゴソゴソしていた。


 荷車の下から出てきた男は顔が黒く汚れていた。短剣は「ちょ!?す・すまない」と言いながら肩を震わせ笑っていた。何事かと幌から顔を出した仮面の女は男の顔を見て「くすくす」と笑い出した。

 短剣の剣士は川に着いたら顔を洗いましょうと笑いながらフォローした。男は顔の汚れを取ろうとゴシゴシした。汚れが広がり、ますます顔が汚れた。女回復術師は「やめて、もうダメ」と言いながら笑いが止まらなくなった。



 オンボロな荷馬車は時折軋んだ音をさせたが、それでもずいぶんマシになった。真っ黒な顔の男はその事に満足したし、仮面の女はもう子供たちに追っかけ回されずに済むだろうと安堵した。


 川に着くと男は顔を洗いに浅瀬に行きジャブジャブ顔を洗い、仮面の女に汚れが落ちたか見てもらっていた。黒い石の汚れはしつこく30分洗っても顔や手の細かいシワに入った汚れは取れなかった。


 ふたりの冒険者は、大剣と女魔術師に冒険者に音が酷すぎたから先に黒い石を渡した事を伝えると、思い出し笑いをした。



 男と仮面の女が川から戻ると早速魚獲りにとりかかる事にした。

 男は粗末な作りの杖を女に渡すと冒険者に危険だから地面が湿ってない、なるべく川から離れた場所まで下がるように言った。冒険者はふた手に別れ別々の角度から様子を見ることにした。


 男が川下の方からいいぞと合図を出すと女は天に杖を向け呪文の詠唱を始めた。

「天を駆ける雷獣よ、一陣の光の矢となり糧を得るための助けとなれ、地を穿て!ライトニングボルト!!」

 そう唱えると女は川に向けて杖を投げ男に向かって走った。しかし女は盛大に転んでしまった。

 あたふたしながら立ち上がり男の元まで行こうとしたが空が真っ白に光り大音響の落雷を間近に聞いてしゃがみこみ泣いてしまった。


 男は慌てて女の元に駆け寄ると女は尻餅をつき失禁していた。男は女に痺れなかったか?身体は大丈夫かと聞くと女はコクンコクンと頷いた。


 男は冒険者に手を振り「おーい!少しトラブルが起きた。川下に流れた魚をカゴに集めて半時荷馬車の所で待ってて欲しい」


 男がそう言うとふたりの女の冒険者が「わかったわ、何も見てないから気にしないでね」「いつまでも待つからゆっくりね」と口々に言った。


 男がスカートが汚れないようにたくしあげパンツを脱がせた。連れの女に川まで歩くよう言った。

 川に着くと連れの女はスカートは私が持つから洗ってと男に言った。男に身体を洗わせながら冷たくて気持ちいいと女は無邪気に言った。


 男は時々女が発する幼児返りしたような言動を心配したが、指摘して追い込むのは良くないと女の言うがままにしていた。



 冒険者は早歩きで浮いて流れている魚を追い越し、川に入り魚が流れてくるのを待ち構えた。

「さっきの見たか?」と大剣が言うと短剣が「見た見た真っ白だった。しかもお漏らししてた」と言った。

 女の冒険者は顔を見合わせるとこれだから男は嫌だ、デリカシーがないと言った。


「そうじゃなくて…」と大剣は頭を抱え「あの魔法をどう思うか聞きたかったんだよ」と言った。

 短剣は「すまん、ただの下ネタジョークだ」とニヤケながら悪びれもせず言ってから声のトーンを変え真顔で「あれはヤバイな」と言った。


「ちょっと私にも言わせてよ。ずっと言いたかったけど距離がとれるまで我慢してたんだから」と女魔術師が言った。「私は魔術学校を卒業したけど、直撃したら確実に死に至るような魔術を使える者は在学中ひとりも見たことがない。教師が使えた魔法も私とどっこいどっこいでハッタリ程度にしか使えない。でも今の雷は当たれば死ぬし、近くに落ちただけでお魚さんみたいになるでしょうね」と得意気に分析した。


 3人はピクピク痙攣して動けなくなった魚を見てゴクリと喉を鳴らした。


「彼女を怒らせないように気を付けなくちゃな。不意をつかれ馬車に落とされでもしたら全員お陀仏だ」と短剣の男は言い「さっきの下ネタは内緒だよ」と少しおどけ気味に言ったが誰も笑う者はいなかった。


「でも、正直あの雷の魔法は使い物にならないと思うの」と女魔術師が言った。「コントロール悪すぎて自分に当たるかもしれない魔法なんて戦闘で使えば自分や仲間が死にかねないわ」



 冒険者達が荷馬車の中で命のリスクを考えて得体の知れない男女が戻る前にトンズラするか、貴重な情報が得られるかもしれないから一緒に行動するべきか相談していると外から男の声がした。

「お待たせしました。何処かひらけていて薪の拾えそうな場所でお昼にしましょう」


 タイムオーバーだった。決断が遅かった。このまま今日はやり過ごしトンズラするなら夜中に決行だ。冒険者は顔を見合わせた。

 冒険者達が先に荷馬車を走らせ男女の荷馬車がそれに続いた。


陽は高く空気は澄み、風は穏やかで絶好のピクニック日和だった。

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