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第五話 屋敷への招待


 石畳をまるで水の如く何の抵抗も無く切り裂き、刀が俺の目の前に迫ってくる。それを半身になって回避しつつ顎に向けて蹴りを放つ。決まらない。ならばバックステップで距離を置く。


 そうはさせじと突っ込んで来るので、カウンターの拳を――


「『裂空』」


 引っ込めて緊急回避。

 『裂空』は本気では無い状態ですら俺に傷をつける程の技、本気の一撃を喰らうのは流石にまずい。――が、威力が高い代わりに後隙が少しだけ存在するので、そこに回し蹴りを叩き込む。


「どうした、その程度か?」


「言ってくれますな!ですがまだまだ行きますぞ!」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――斬られる、刀を弾く。殴る、躱される。蹴られる、足を弾く。距離を取る、詰められる。

 その繰り返しで膠着した戦いが続いている。


 あれからエスティレアの動きは更に加速していた。いや、違うな。

 加速しているのでは無く、最適化してきているのだ。

 相手の攻撃は基本ギリギリで躱し、同時に攻撃もする。弾く回数は出来るだけ少なく。

 斬るときは最短最適のルートを最速で。

 何とか打開を図って強引に攻撃を捩じ込んでみても躱される。

 老いて身体能力が低下してなおこれなのだから、全盛期はどれ程だったのか推して知るべしである。


 ふむ――負けはしないが勝てもせんな。

 顔への突きをすれすれで避けながらそう考えていると、声をかけられた。


「――貴方、近接戦闘は苦手ですね? 見たところ、圧倒的な魔力(チカラ)で叩き潰す様な戦い方がお得意な様ですな」


 これだけ戦っていればバレもするか。そこそこいい線を行っていたと思うんだがな。


「ああ、まあそうだな。俺は魔法を使った戦いが専門で、こんな風に戦うのは殆ど初めてだからな、勝手が分からん」


 俺の言葉を聞いたエスティレアは目を見開き固まった。

 お、隙発見。右ストレート。

 むう、再起動して躱された。


「初めてでこれですか……そこらの、いや殆どの近接戦闘を得意とする者の立つ瀬が全く無いですよ。攻撃魔法も使っていないですし、本当に途轍もない方ですな」


 力を制限しているとは言え、元・神だからな。そう簡単には負けられん。

 そう思いながら刀を弾くと、バックジャンプで距離を取られ、声を掛けてきた。


 今更些細なことで驚くつもりも無いが、流石に軽いバックジャンプ一つで十メートル程も後ろに跳ばれると――「お前ホントに人間か?」と問いたくなってくるな。


「是非とも貴方の全力を見てみたいところですが……目的も果たされましたし、お嬢様もお待ちになっているでしょうから――次で締めさせて頂きます。貴方のその膨大な魔力で迎撃してみて下さい」


「ほう、良いのか? では戦いが終わった後はお前の目的を話して貰うぞ」


 話しながら俺は魔力を練り上げる。そういえば人間に転生してから、妨害魔法や強化魔法、そして回復魔法は使ったが、攻撃魔法を使うのは初めてだな。記念すべき最初の魔法、さて何の魔法を使おうか。

 ――よし、あれにしよう。


「ほっほっほ。では――行きますぞ! 『断絶』!」


 エスティレアが刀を両手で大きく横薙ぎに振るうのと同時に俺は頭上に魔法陣を描く。


「<極大轟炎球>」


 描いた魔法陣から、空に燦然と輝く太陽の如き巨大な炎の玉を生成し、エスティレアの放った巨大な斬撃に向け発射する。激突する瞬間――





















 ――世界から色と音が消失した。





















 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「私のお仕えする主、リディアお嬢様の居られるアストレア公爵家別邸に来て頂けませんか? アルフ殿」


 戦いの後、軽く自己紹介を済ませて話とは何なのか聞いてみたところ、そんな答えが返って来た。


 アストレア公爵家は現国王レイド・フォン・クライネルトの妹、レイラ・フォン・クライネルトが降嫁した家で、現当主のアストレア公爵と国王の仲も良く、国の要とも言われている家だ。これは中々の大物が出て来たものだな。

 行っても良いんだが……何故俺を屋敷に呼ぶ?


「来て頂けますか。有難うございます。ですが、何故アルフ殿を屋敷にお呼びするか気になるご様子」


 む?俺は喋っていないし、顔にも出していない筈だが。

 俺が若干困惑していると、


「ほっほっほ。アルフ殿は顔に出やすいタイプでは無いですのでご安心を。むしろ出ないタイプです。私は執事ですので相手の顔から考えていることを読み取るのが得意なのですよ」


 そう言ってきた。

 成る程、只の超人だったか。


「それで、アルフ殿をお呼びする理由でございますな。それはアルフ殿が私と戦って条件を満たしたからでございます」


「条件? なんだそれは」


「お嬢様は強者に興味を示されます。しかし残念と言うべきか、大抵はお嬢様よりも弱いのです。そのような者まで屋敷に招いていては時間の無駄遣いですので私が尾行して、それに気が付き且つ私が認めるという二つの条件を満たした者のみをお招きするのです。今までは条件を満たした者は一人も居りませんでしたが、アルフ殿が一人目になりましたな。流石でございます」


 これまた面倒臭い事を……そして俺が一人目か。まあこれだけの力を持った者に認められるというのは中々難しいのだろう。もちろん弱ければ駄目だろうし、公爵家のご令嬢に会わせる以上、素行が悪くても駄目だろうからな。


 だが謎がある。


「一つ疑問に思ったのだが」


「何でございましょうか」


「そんなに強いのか? そのリディアお嬢様とやらは」


「アルフ殿に匹敵する程、頭の螺子が全て吹っ飛んだ方はそう居ませんよ。お嬢様は十五歳なのですが、同年代で比べた場合はかなり上位に位置すると思われます。聞いたことはございませんか? 『炎華』というお嬢様の二つ名を」


 そう語るエスティレアの顔に浮かぶ表情は先程俺と戦っていた時の厳しさを湛えたものとは打って変わって、大切な孫の成長を喜ぶ祖父のような柔らかなものになっていた。

 と言うか俺は何故ディスられているんだ?


「残念ながら聞いたことは無いな。二つ名が『炎華』ということは得意属性は炎なのか?」


 エスティレアは俺がお嬢様の二つ名を聞いたことが無いと聞くと分かりやすく残念がったが、質問されると目を輝かせた。


 ――この男、存外面白い性格をしているな。それとも孫を持った者(厳密にはエスティレアにとってリディアお嬢様とやらは孫では無いが)は皆似たような感じなのだろうか。今までこんなにも人間と関わる事など無かったし、神は親子の関係が人間よりも希薄だからよく分からないな。



「よくぞ聞いていただきました。リディアお嬢様の二つ名、『炎華』ですが、これはこのクライネルト王国の王女、ソフィア・フォン・クライネルト様の二つ名、『水華』と対になっているのです」


 『西瓜』? いや『水華』か。


「対になっている? 何故だ?」


「リディアお嬢様は、現国王レイド・フォン・クライネルト様の妹君であるレイラ様とアストレア公爵家当主のウォルディック様の娘です。つまりリディアお嬢様とソフィア様は従姉妹であり、お二人とも十五歳という年代の中では類い稀な強さと美貌をお持ちです。そんなお二人の強さをそれぞれの得意属性である『炎』と『水』、美貌を『華』で表し、それを組み合わせて『炎華』と『水華』になっているのです」


 成る程、従姉妹なのであれば、対になっているのも納得出来なくも無い。それにしてもご大層な二つ名だ。――いや、二つ名というモノは得てしてそうなる傾向にあるのか? オルフォンドの『火炎』はまあともかく。



「さて、そろそろ薄暗くなって来ますし、公爵家別邸に向かうとしましょう。<縮地>を使って先導致しますのでついてきて下さい」


「む、そうか」


 アストレア公爵家。果たしてどんな事が待っているのだろうか、楽しみだ。




 夕日に紅く染まる街を、俺達は二つの影になって駆けて行く。























































 ――今回こそは、守ってみせる――

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