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第四話 元・王国騎士団長

 

 双方攻撃が有効打にはならなかった為距離を取る。その時ふと拳を見てみると、男の刀とぶつけ合った所に切り傷が有り、若干血が滲んでいた。ぶつけ合った時は魔力を纏っていたのにも関わらず、だ。

 確かに全力では無かった。だがそれでも相当の硬さにはなっていたはずの俺の拳に切り傷を付けるとは……やはり只者では無い。


「やるな、お前。俺の拳に傷を付けるとは」


 男の方も刀を振り払いながら驚いた様子で言葉を返してくる。


「――いやはや、貴方こそ『裂空』を喰らっておきながら平気でいられるとは驚きましたよ。そんな人間は団長以来です」


「団長?」


 誰だ? そんな化け物染みた人間は。


「私は昔王国騎士団長だったというのはお話ししたと思いますが、団長だったということは当然、副団長だった時もあれば、只の騎士団員だったときもあるわけです」


「それはそうだろうな」


 当たり前だ。


「それで私が副団長だった時の王国騎士団長――ゲイン・ガルド伯爵を私は団長と呼んでいるのですよ。もうお亡くなりになっていますが。尤も、彼の名前は大衆では元・王国騎士団長や伯爵という肩書きよりも、魔王と一対一で戦って退けた事があるという功績で有名でしょうがね」


 魔王と一対一で戦って退けた? それは最早人間を辞めていたのでは無いだろうか?

 魔王は勇者以外の(正確には聖なる武具を持った者以外の)人間にはとても太刀打ちできない存在な筈なんだが。少なくともアルファード(俺の世界)に出現した魔王はそうだった。

 歴代の騎士団長にはもう一人、歴代最強と呼ばれる人間を辞めていそうな者も居るが……まあそれは例外だろう。


「どうですか? 貴方も、本気では無かったとは言え、私の『裂空』を喰らってびくともしなかったということは、彼に匹敵する強さをお持ちなのでは無いでしょうか。出来れば、お見せして頂きたいのですが」


 ふむ……まあこの男も本気では無かったと言っているし、死ぬようなことにはならんだろう。

 俺は魔法陣を展開しながら応える。


「良いだろう、少しだけ本気を出そうか。――<纏雷>」


 俺は、<縮地>の二倍の速さで移動でき、且つ雷を纏うことにより接触するだけで相手にダメージを与えられる魔法、<纏雷>を使用して接近した。

 男を見ると、俺の移動速度が急に一段階上がった為、驚きで固まっている。あまりにも隙だらけだ。



 腹に一発拳を打ち込む。



「ごふっ!?」


 男は体をくの字にする。俺はその腕を掴み、二十メートル程の高さまで跳躍した。そしてそのまま空中で一回転した後――


「ふっ!」


 下の石畳に向かって勢い良く投げつける。そして体が叩き付けられる寸前に、受け身を取ろうとうつ伏せの状態の男が地面に手を伸ばした隙に、先に地面に降りていた俺は男の腹に向けて下から右膝蹴りを叩き込む。


 反動で左足を中心に石畳が放射状に割れ、地面が数十センチ陥没した。


 だがまだ終わらない。


 膝蹴りによって五メートル程浮き上がった男に拳を組み合わせてスレッジハンマーを決め、落ちた所を横に蹴り飛ばす。男は吹き飛んでいくが、<纏雷>を使っている俺よりはずっと遅い。走って追いつきラリアットを喰らわせ、更にその場で回転することによって男の体が遠心力に耐えかね宙を舞った。

 その体には当然重力が働く為、



「はあっ!」



 落ちてきたそこに、裂帛の気合いと共に右ストレートを叩き込んだ。


 男は幾つか骨が折れる様な音と共に、十五メートル程吹っ飛んで行った。




 ………………。




 む、少々やり過ぎただろうか?


 そう思った瞬間、大の字になって石畳の上に倒れていた男がむくりと起き上がる。その手には愛刀『秋水』がしっかりと握られていた。

 空恐ろしい程のタフさだな。どうやら元・王国騎士団長というのは伊達では無かったようだ。


「――<治癒>。<電光石火>、<超速思考>、<超反応>」


 男は傷を回復した後に立て続けに三つの魔法陣を描いて魔法を発動し、コキコキと首を鳴らしつつ刀の切っ先をこちらに向ける。

 その瞳には闘志がメラメラと燃えていた。


「いやはや、痛い痛い。ですが、貴方の攻撃を受けて少々昔の自分を取り戻しましたよ。――元・王国騎士団長、『剣神』エスティレア・ファルマード。推して参るっ!!」


「何、『剣神』?」


 ――元・王国騎士団長、『剣神』エスティレア・ファルマード。彼は王国騎士団史上最強の男と呼ばれている。

 そんな彼の『剣神』という二つ名は、三十年程前魔王軍の幹部二人が総勢一万の軍を率いてクライネルト王国に攻め入った時に、()()()()()()()()()()()()()()()()時に付けられた。途轍もない男だ。


 男、もといエスティレアが発動した魔法<電光石火>は、これも<縮地>や<纏雷>と同じく移動速度を上げるタイプの魔法で、<纏雷>よりも高位の魔法だが<纏雷>とは違って攻撃能力は持たない。その代わりに、<纏雷>の更に二倍の速さで移動が出来る。

 それだけ速いと制御が出来なくなりそうだが、同時発動した<超速思考>で頭の処理速度を大幅に上昇させ、考えた行動を<超反応>で一瞬の遅れも無く実行する事で<縮地>の使用中と同じ、むしろキレの増した動きを実現している。


 ――と、そこまで一瞬で考えた俺は、エスティレアとの戦いに意識を戻す。

 が、視線の先には誰も居ない。後ろか!


 俺がエスティレアの名前に気を取られた一瞬で後ろに回り込まれ、咄嗟に魔力を多めに纏ってガードした右腕に衝撃が走る。バキリとあまり良くない音と脳髄を灼くような痛みに俺は反射的に顔を顰めた。おそらくは骨に罅が入ったなこれは――だが、斬られていないことに感謝するべきか。

 俺は衝撃を逃がすように体を回転させつつ逆の腕で裏拳を当てようとするが、エスティレアの服の端に掠っただけで当たらない。


 元の場所に戻ったエスティレアが見事に洗練された所作で一礼する。


「先程は大変失礼致しました。久しく貴方のような強者とは戦っていなかったものでしてね。鈍っておりました。――ですが今度は、しっかりとお相手を努めさせて頂きます」


 そう言うや否や一瞬で彼我の距離を詰め、刀を一閃してきた。それを魔力を多めに纏わせた左手で掴んで受け止める。


「ぐッ!?」


 ――腹に衝撃が。

 

 どうやら蹴りを入れられ吹っ飛ばされたらしいとまだ無事な左腕で受け身をとって着地しながら理解する。と、目の前に刀を振りかぶった姿が見えるので体を捻って回避するついでに回し蹴りを叩き込むと、ガギッ!と金属質な音が響く。見ると俺の蹴りは刀で受け止められていた。

 随分とまあ動きの速い……

 だが――









 ――面白い。実に面白い!












「カアッッ!!」


「何!?」


 俺は自分の周りで魔力を炸裂させてエスティレアを弾き飛ばす。


 吹き飛ばされたエスティレアが接近してくる前に、俺は四種類の、デザインの違う魔法陣をそれぞれ一つずつ描いて魔法を発動した。


「<治癒>、<電光石火>、<超速思考>、<超反応>」


 俺の言葉を聞いたエスティレアは急停止して一瞬目を見開き、その後薄い笑みを口許に浮かべた。恐らくはその時、全く同じものが俺の口許にも浮かんでいたのだろう。


「やはり貴方も使えますか」


「ああ。これで決着を付けさせて貰おうか」


 第二ラウンド兼最終ラウンドの、始まりだ。

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