第98話 海へ
「ぐあっ……」
「大丈夫ガウ?」
「も、もう少し……寝る……み、水を……」
ミミズを渡したり意地悪はしない。
少し果実とハーブでスッキリさせた水を冷やして渡してあげることにする。
「カゲテルは相変わらず酒強いよね」
ローザももちろんお酒は飲ませていない。
昨晩の飲み会で判明したが、カネッサはかなりの酒豪だった。
そして、重度の絡み酒……
始めは俺に絡んでいたが、不幸にもガウが目をつけられ……
あの二日酔いである。
確かに食事も美味しく酒も美味しかった。
だからこそはしゃぎすぎた。
途中から多くの冒険者が混ざってきて、聖騎士と勝負になったり、カオスな飲み会になった。
この国も色々とあったけど、今では前に向いているように感じた。
余計なお世話だろうが、地方の貧困問題を少しづつ改善させる種は蒔いてきた。
本来の宗教的な異議を取り戻して、豊かになってほしい……
できれば周囲の国と争うこと無く皆が幸せに暮らせるような国になってくれるといいんだけど……
「よし、みんな行こうか」
聖都からノースルまでは馬車でのんびりと旅をする。
今は気持ちがいい季節だ。
急いでいくのはもったいない。
「気持ちいいねー」
「だねー、身体は平気?」
「うん、吐き気も落ち着いたよー」
「テティスには古代文明の医療設備もあるから出産も安心らしいよ」
「はい、ローザ様には最善の備えでマスターのお子様を産んでいただきます」
「信頼してるよーコウメイちゃん」
「お任せください」
「マシューたちは?」
「ガウと馬乗りしてるよ」
「ガウさんにはお世話になりっぱなしね」
「見た目によらず子供好きだからね、助かる」
「ごめんね一緒に戦えなくて」
「いやいやいや、何言ってるのさ!
俺の帰る場所でいてくれて本当に嬉しいよ、自分でもあ、帰ろうって思う場所のありがたみは本当に感じてるから」
「……ありがと」
「こちらこそ」
「それにしても、気持ちいいわねー」
日差しは暖かく、穏やかな風が心地良い。
周囲は一面の緑の絨毯。空は抜けるような青空。
最高の気候だ。
「おおーーい!」
遠くからガウの乗る馬が近づいてくる。
その後ろからはマシューとネイサンの乗る馬がついてくる。
「マシューが鳥仕留めたぜ! 夜はコレ食おうぜ!」
「凄いじゃないマシュー!」
「へへん!」
「ネイサンも惜しかったんだがな、いやーふたりとも将来が楽しみだぞ!
良い冒険者になりそうだ!」
ガウに褒められてふたりとも嬉しそうだ。
確かにふたりとも同年代の子に比べたら多分、圧倒的な実力を持っている。
どうやらユキムラさんも二人をちょいちょい鍛えてくれていたみたい。
俺の力はスライムから分け与えてもらっているものだけど、多分それがなかったらあの二人に負ける気がする……
15になったら冒険者になるって言っているので、一緒に冒険ができたらいいな……
「にーちゃん! 海が見えたよ!」
「マスター、テティスを迎えによこしているので右手の海岸線を進んでください」
「おーい3人共右に海岸線沿いを進んでくれー」
「わかったー!!」
暫く進むと海岸線にごつい岩場が現れた。
「マスターあの隙間に入ってください」
「ガウ、あそこー!」
巨大な岩に割れ目のように道が続いている。
谷のような場所を抜けると岩に包まれた秘密基地のような海岸が現れた。
「もともとは岩だったんですが、内部をくり抜きました。
我々以外には普通に岩の塊にしか見えません。
秘密の上陸地点的な場所にしました」
「コウメイ、わかってるね!」
岩に囲まれた美しい海岸、一部には港のような波止場と小規模な建物がある。
「この場所から海底のトンネルを通って小型潜水艇でテティスに移動します。
それと少し改造して……まぁ実際に見てもらうほうが早いですね」
コウメイの言葉と同時に海底から小型の船が浮上して波止場へと近づいてくる。
「搭載されていたものだよな? 少し形が変わった?」
「はい、こんな風に可変型の船艇にしました」
潜水艦が、みるみる帆船に変化していく。
「うおおお!!」
「こうすれば普通の港にも停泊可能です」
「さ、最高だよコウメイ……」
男のロマンが詰まってやがる……
ガウたち3人も大喜びだ。
「本当に好きよねこういうの……」
「いや、燃えるだろ!」
「うーん、凄いとは思うけど……」
「取り敢えず、テティスへと向かいましょうか」
波止場から帆船に乗り込む。
「帆船の形はとっていますが、風がなくてももちろん進めます。
それではこちらから船内へお願いします」
船内もそれっぽい普通の船のように偽装されている。
「ここから本当の船内へと入れます」
船長室に置かれたスライムの像に俺たちのいずれかの魔力を流すと本棚がスライドして隠し扉が現れる。なんというロマンの塊だ!!
底から先は遺跡のような廊下に天井自体が光るような照明や自動で開く扉、潜水艇としての本来の姿だ。
「ここが本当のブリッジになります」
「おお……」
正面には海底の風景、それに海上の風景も映し出されている。
「テティスに似ているな」
「こりゃすげぇ……」
「それでは、テティスに向かって出発します!」