第96話 深層
30階層を超えると敵に変化が訪れた。
悪魔ではないが、悪魔系と呼ばれる魔物が出てくるようになった。
レッサーデーモンを始めとしたデーモンと冠する名前がつく魔物だ。
一般的にはボス悪魔の手足となって動く奴らで、一体いるだけで街レベルの集団が壊滅する。
死霊系と異なり強靭な肉体を持ちながら普通の武器では傷一つつけられず、驚異的な再生能力を持っており、悪魔系と呼ばれるだけある。
「しかし、これだけ高度な神聖魔法を使い続けてスライムたちは平気なのか?」
「多数の集合体なので、自然回復量がまずとんでもないし、魔力タンクとしての俺とクイーンの存在がでかいね。消費より回復のほうが勝ってるから」
「とんでもねぇな」
神々しく輝く武器を振るってデーモンたちをなぎ倒していく。
純粋なエネルギーの権化のようなデーモンたちを倒すと魔物とは比べ物にならないエネルギーが得られる。
魔核結晶と呼ばれる物質を体内に持つものもいて、最高の触媒として利用できる。
龍脈と呼ばれる大地をめぐる魔力の流れに触れている銀鉱石が凄まじく長い年月をかけると変化すると言われている魔核結晶、ひとかけらでも一生遊んで暮らせる。そんな物質がコロコロ回収できる。
「こんなにあっても買える人間がいないだろ……」
「お金持ちの王様に数個売るだけでも、その後の人生狙われ続けるね」
「と、言うわけですべて研究に使わせていただきます!」
「そうなるな」
「それがいい、んでつえー武器防具作ってくれよ!」
「お任せください!!」
コウメイはどんどん装備を強力にしていってくれるが、それでも階層が進むごとに戦闘は厳しさを増していく……
「くっ……硬ぇ……」
「相手の攻撃は簡単にこっちの防御を貫いてくるのに……」
「なるほど……魔力障壁を……重ねるなら……だから……ふむふむ……」
「コウメイ、なんかわかった?」
「デーモンの防御力と攻撃力の謎は魔力の使い方ですね。
多重の魔力障壁を常に展開して防御を固め、攻撃時にも魔力による斬撃を多重展開しているようですね……
それを以前マスターがやられたように圧倒的な魔力量の力押しでねじ伏せるか、相手を上回る数の障壁や斬撃で潰していく必要があるんですね……」
「ふむふむつまり?」←わかってない
「魔力展開は、処理能力次第です。つまり、我々は数の力で圧倒できます!!」
今まで簡単に弾かれていた剣が、突然バターを斬るかのようにスルリと入り込む。
「うおおお!! びっくりした!」
相手の攻撃も簡単に弾く。
「今まで濃度と厚みばっかり考えていましたが、多重展開させるほうが遥かにメリットが大きいですね。勉強になります!」
「なんにせよ、楽になったな!」
「ふふふ、この方式なら我々は最強ですよ……並列の魔術展開で私達に勝てる存在は稀有だと思います!」
「とにかく、数が多いからね……」
「強大な魔力があっても演算領域は限られますからね……
これは、素晴らしい発見です……
クフフフフフフ……」
それから、世界が変わった。
ユキムラさんとの修行でも世界が一変したのと同じくらいの変化と言っていい……
「そうか、ユキムラはこっちが出来てないから見せなかったんだな……
そういうとこだぞアイツは、絶対にこの技術知ってたはずなのに」
「あ、ごめん忘れてた。とか平気でいいそう」
「間違いなく言うな」
シールドデーモンと呼んでいた大型の盾を持つ非常に防御が硬い厄介な相手を、まるで紙でも切るように一刀両断で片付ける。
「ゴーレムに苦労していたのが過去の話だなー……」
「また未知の鉱石が手に入るぜ!」
魔物が落とす素材、デーモンが落とす魔核、宝箱に入っている装備や魔道具、それらをコウメイが取り込んで俺たちの装備は強くなっていく。
すでに入った頃とは全く違う装備になっているが、新しい素材を手に入れると、どんどん新しく強くなっていくから楽しくて仕方がない。
「身も蓋もない言い方をすれば、街で使っている包丁でも寝間着でも、今では聖剣のように斬れるし、伝説の鎧のように攻撃を防ぐんですけどね、そこはロマンかと……」
「そう、ロマンは大事だ。
それに俺らのテンションもな」
「やっぱりこう、カッコいい装備は滾るもんがあるんだよ!!」
包丁片手に寝間着で戦うんじゃ、テンションが上がらないだろ……
そんなこんなで、迎えた50階層。
突然目の前に巨大な神殿が現れた。
「ラスボスっぽいな」
「だね……いける?」
「問題なし」
「いけます、マスター!」
「じゃあ、行こうか!」
美しい大理石づくりの神殿。
中を進むと巨大な神の像が迎えてくれた。
左右に並ぶ12体の天使像……
「来ます」
予想通り、神像と女神像が俺達の前に立ちふさがった。
「神との戦いか、燃えるな!」
「いくよガウ、コウメイ!」
「はい、マスター!!」
俺達の戦いは始まったばかりだ!!




