第95話 ダンジョンマラソン
「嫌な胸騒ぎがしたから心配したけど、帰ってきてくれてよかったよ」
「いやぁ、ユキムラさんが来てくれなければ死んでました!」
「軽くいうことじゃないぞ……」
カネッサさんに軽く怒られた。
さすが元一流の冒険者、ただならぬ気配は遠く離れた地でも気配を感じ取っていた。
「約束忘れないでくれよカゲテル殿」
「わかっています」
聖山への入山許可、ダンジョンへの探索許可はすでに用意してくれていた。
聖都で軽く準備を整えて、さっそく聖山へと向かう。
宗教的な象徴の意味もあり、巡礼の旅人も多い。
もちろん最難関ダンジョンに挑む冒険者もその列に混ざっている。
聖騎士の訓練にも用いられるので、山道はきちんと整備されている。
もちろんダンジョンよりさらに標高の高い場所には危険な道も多い。
巡礼者の列から分かれて、いかつい人たちの列に並んでいく。
このダンジョンは深くなればなるほど敵が強くなっていく仕組みになっているので、浅い層であれば中級冒険者でもいい稼ぎ場となる。
結果として多くの冒険者が集まる。
そこで大事なのがこのダンジョンのもう一つの特徴だ。
「……ひっろ……」
ダンジョンの扉をくぐり、通路を抜けると広大な平地が広がっていた。
そう、このダンジョンは、広い!
現在確認されているのが11階層まで、階層ごとの魔物の質が大きく変化するので、注意が必要らしい。
3階層くらいまでは普通に精巧な地図があるので、中級者から上級者までこのダンジョンだけで生活していくことも可能だ。
この国の大きな収入源にもなっている。
第一階層は草原。
第二階層は森林。
第三階層は山道。
第四階層は湿地帯。
第五階層は海岸。
第六階層は火山。
第七階層は雪原。
第八階層は雪山。
そして、第九階層が洞窟だ。
そして、第九階層からは非常に敵が強くなる。
第10階層は迷宮になり、この辺りから死霊系の魔物も混じり、ダンジョンも本領を発揮してくる。
「一般的な魔力鞄での物資運搬も限界がある。
特に雪山で大きな消耗を強いられるからな……」
「確かに、普通に進めばしんどいね」
「しかし、スライムってのは便利だな」
「有能な相棒です!」
スライムは言ってみれば全天候対応型高速移動手段だ。
例え数センチ先を踏むだけで滑落する冬山だろうが、まるで遊んでいるかのようにボードに乗って高速移動できる。
飛べるんだから滑落を怖がる必要もない。
飛翔魔法もあるが、普通はそんなに長時間大部隊を運ぶことは難しい。
事故が起きた時に救出に使う程度だ。
俺たちも、空を飛んでダンジョンクリアはしていない。
ダンジョンの上空は閉じていることが多いからだ。
「ユキムラのダンジョンに比べれば屁みたいなもんだろ?」
「そうだね、ほんと、何者なんだ……」
「ただ、次の階層からはちょっとだけ気をつけろよ」
「俺はいつも気をつけてますし、相棒もいるし、ガウもいる」
「そうだな、スライムが仲間でこんなに安心できるとは思わなかったぜ」
「マスター、階段を発見しました。この階層の宝箱は全て回収してあります」
「根こそぎ持っていっていいんですかね?」
「いい、いい。どうせ再生するし、ダンジョンの宝は早いもん勝ちだ。
雪山までくる奴らも滅多にいないしな」
「質の高い装備や道具が多くて、研究が捗ります。
お二人の装備も刷新できるようならお声がけしますね」
「いやほんとに、この装備、軽いくせに強い! 硬い! かっこいい!
スライムは凄いな!」
ガウは素材を集めて作られ、少しづつ強くなる装備をすっかり気に入っている。
コウメイと話しながら意匠にも凝っていおり、鎧と大剣をトータルでコーディネートしている。
気持ちは痛いほどわかる。
炎のような少し落ち着いた紅の装備はガウによく似合う。
俺はつや消しした青みがかった銀色と深い紺色で統一している。
クールだ。
「さて、さらに相棒を強くするためにも素材を手に入れないとな……
この階層からはぐっと敵が強くなるから良いもんが手に入るぜ」
「流石にスライムライダースタイルはここまでか……」
「そうだな、ここからは自分の体で走ろうぜ!」
「だね!」
ダンジョンを走る。
非常識だけど、俺達は早いとここのダンジョンをクリアしたい理由がある。
それは……
「それにしても、潜水艦かぁ……ユキムラも空飛ぶ船を持ってるとか言ってたし、楽しみだ!」
「めっちゃカッコいいんで、気をつけてください」
「まじか、ますますさっさと終わらせてテティスとご挨拶しないとな」
テティスの試作運用などのテストが終了したと知らせが来たからだ。
このダンジョンを終えたら、テティスに乗って海の旅に出ることになっている。
「そういうわけで、表の最高難易度ダンジョンも、サクッと走って終わらせてもらうぜ!」
俺とガウ、そしてスライムのパーティはダンジョンを疾走るのだった。




