表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/205

第94話 死中に活

 圧倒的な実力差、確実に迫りくる【死】。

 しかし、その死に抵抗すると身は恐怖にこわばり動けなくなる。

 いくら死の瞬間に人生すべてを振り替える走馬灯を感じるほど頭が動いてくれても、肝心の身体が動かない。

 

「……死を、受け入れる」


 脱力。

 死が迫り、まるで時が止まった中でゆっくりと剣が身体を貫こうとすることが理解できる。

 その時の中を、緩やかに身体を動かし剣を逸らす。

 すぐに次の死が迫る。

 恐怖に身体と心を支配されないように、死なないために、死を受け入れる。

 矛盾した精神が、肉体を動かす。

 数合打ち合うと、全てが止まる。


「お見事。掴んだみたいだね」


「……ぶはっ……はぁはぁ……」


「その感覚をどんどん長く維持できるようになれば、悪魔とも互角に戦えるよ」


「……ユキムラ……さん。貴方は何者なんですか?」


 こんなことを、常時行えるなんて、まともな人間じゃない。


「冒険者だよ。

 私以外にもこの世界に入っている冒険者は君たちを除いても少なくとも6名? 5名と1匹? いるよ」


「……世界は、広いですね」


「広いよー。だから私はこの世界を滅ぼしたくないんだ」


「ありがとうございました」


「そうだね、これで私が教えられることは終わり。

 あとは君たち自身で鍛えていくだけだよ」


「わかりました」



【死中求活】



 こうして、長きに渡るユキムラの修行が終わった。

 トウエンから外に出ると、悪魔ヴェルマーと戦った場所だった。

 

「じゃあガウ、あとはカゲテル君達と行くと良いよ」


「わかった。

 て、ことで、よろしくなカゲテル」


「え、あ、はい」


「ユキムラさんまた会いましょう」


「次に会うときは……見違えてるんだろうね」


「俺も頑張る!!」「僕も!!」


「ああ、二人も、それにローザさんも身体に気をつけてね」


「ありがとうございました」


「おっと……ちょっと急ぐからこれでごめんね、皆頑張って!」


 ユキムラさんは、光る扉を作り、入ると扉ごとすっと消えてしまった。


「……あっさりしてますね」


「アイツはそういう奴だ」


「にーちゃん、なんか来るよ」


「ん? 聖騎士?」


 かなり遠くに集団が近づいてくる。

 マシューにネイサンは気がついていたみたいだけど、かなり距離があるぞ……

 聖都から派遣された聖騎士が、今回の事件の顛末を調査しに来た。

 ここで気がついたんだが、あの修業の日々、外の世界では1週間ほどしか経過していなかった。


「コウメイ、これからもそういうこと出来るの?」


「いえ、ユキムラ様の助力がないと安定できず危険です。

 申し訳ございません」


「……本当に何者なんだよあの人……」


 たった一週間で、とんでもなく濃厚な時間を過ごしたことになったのであった。


「つまり、悪魔が現れ、ユキムラ殿が退治してくれたと……

 カゲテル殿らはギルド長カネッサ殿が太鼓判を押していましたし、ガウ殿とユキムラ殿が一緒に行動していたことは把握しています。

 わかりました……犠牲者が出たことは残念ですが、国家の存亡を救っていただけてありがとうございます!」


 聖騎士たちが剣を掲げ俺たちを祝福してくれた。

 最大限の礼の儀式だそうだ。


「カネッサ殿からの伝達です。

 無事終わったら聖都のダンジョンに入るんだろうけど、約束は守ってね。

 だ、そうです。失礼します!!」


「少し忘れていたよ……」


「なんだ、ダンジョン入るのか?」


「予定では聖都のダンジョンを」


「ああ、まぁ、肩慣らしには丁度いいかもな」


「ガウはダンジョン入ったの?」


「ユキムラのダンジョン以外も入ってるぞ、2日で踏破しろとか馬鹿な修行もさせられた……」


「言いそう」


「だろ?」


「初めてのガウとの冒険者っぽい活動だからワクワクするよ」


「そうだな、なんだかなし崩し的に一緒になったけど、よろしくな」


 改めてガウと握手する。

 実力は折り紙付き、頼れる兄貴分だ。

 ローザが抜ける穴をしっかりと埋めてもらえる。


「ローザは体調は大丈夫?」


「ぜーんぜん、実感もないほどよ」


「ねーちゃん動かなくなったんだから食い過ぎで太るなよー」


「ぐぬぬ」


「もう少しすれば軽い運動くらいは出来ますから」


 コウメイがローザの健康管理を請け負ってくれている。

 敗戦以来少し気落ちしていたコウメイにローザのことを任せて少しでもやる気を取り戻してほしい。負けた原因はスライムたちのせいじゃない、俺のせいだから……


「ローザの体調が落ち着いたら、ダンジョンを攻略して、武具を揃えよう」


「なるほど、そりゃいいな。

 俺の武器もだいぶボロボロだからな」


「ユキムラさんにもらったりしないの?」


「すると思うか?」


「しないよね、とんでもないものぽいってくれそうで怖い」


「やる気がそがれるだろそんなの、自分で手に入れたものだから愛着がわくんだ」


「そうだね、コウメイが作ってくれたオーダーメイドは嬉しいもんね」


「そんなことまで出来るのかあのスライムは」


「武器の調整もできるよ、見てもらう?」


「ああ、お願いする」


「コウメイ、ちょっといい? この剣なんだけど……」


 ガウの剣がいつ壊れてもおかしくない事にダンジョン前に気がつけたのは、幸運だった……


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 国家の存亡を『巣喰って』……『救って』かな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ