第93話 告白
すみませんミスで投稿したので後日直します!
2021.1.4
本年もよろしくおねがいします!!
修正版を投稿しました!!
「ガウはだいぶ掴んできたね」
「……もう少し、もう少しなんだ……」
俺に続いてガウの特訓が終わった。
俺はローザの幸せな報告から、掴みかけていた物が手のひらからこぼれ落ちたかのように一方的に瞬殺される日々が続いてしまっている。
「カゲテル君は、迷って集中できてないから、しばらくやめようか」
「……す、すみません」
「まぁ、仕方ないと思うよ」
「カゲテル、仕方ねぇよ取り敢えずローザの側にいてやれ」
「ありがとうガウ……」
普通の魔物相手なら、自分の成長を感じている。
それでも、相変わらずユキムラには勝てるとか勝てないのレベルじゃない。
気がつけば殺されている。
動きを捕らえたと思わされるフェイントに引っかかって殺される。
何も出来ずに殺されている。
「はぁ……」
「大丈夫カゲテル……ごめんね、こんな時期に」
「何言ってるんだよ!
ローザのせいじゃない!
悪いことみたいに言わないで、俺は戸惑っているのは、本当だけど、嬉しいのも本当だよ!」
「うん、ありがとう」
それでも、このままじゃだめだって自分でもわかっている。
でも、どうすればいいかわからないんだ……
「カゲテル、ちょっといいか」
「ああ、ガウどうしたの?」
「ちょっとな、魔物でも倒しながら話そうぜ」
「わかった」
ガウと一緒に魔物の部屋に入る。
扉を抜けると周囲は火山のように沸き立つマグマの場所へと移動する。
「まずは、軽く〆るか」
「わかった!!」
マグマが盛り上がり、巨大な蛇が現れる。
マグマのように脈打つ波紋が美しいが、早いし熱いし硬いし熱い。
すでに各種耐性を完璧にしているスライムが動きを封じて俺たちが輪切りにしていく。
災害級の魔物も、すでに俺たちの敵ではない。
「よし、狩りたてのコイツでなんか作ってくれコウメイ。
カゲテル、たまには一杯やろう」
「珍しいね」
「まぁな、ユキムラと違って俺は悩んでる……後輩的なやつをほっとけねぇ」
「……照れてんの?」
「照れてねぇよ! 茶化すなら止めにすんぞ!」
「うそうそ、ありがとうガウ」
「取り敢えず勝利に、そして、無事に子が生まれることを祈って、乾杯」
「乾杯」
久しぶりにこうして杯を合わせた気がする。
酒は透き通った穀物から作った物だ。
透明度と酒勢だけではなく、穀物の風味を生かして、そして、食事との相性を考えて作ったものだ。火山で氷を入れて飲んでいるのもおかしな話だけどね……
「マスター、まずは皮の薄焼きです」
あの火蛇は鱗を外して、一番外側の硬い皮を剥がすと、歯ごたえの良い内皮とそこに脂身の多い肉がついている部分がある。
その部分を薄く切り出して串に刺し、スパイスと塩で味付けをした品だ。
鱗と外皮で守られマグマでも身が焼けない蛇も、その防御をなくせば香ばしく焼き上がる。
滴るほどの脂とカリッとした皮が、スパイスで華やかな味わいになっている。
「相変わらず独り言すげーな、だが確かにこれは、たまらん」
酒と交互に味わうと、酒の味までも深くなる。
こういった酒と肴の出会いは無限にあるし、だからこそ魅力的だ。
「カゲテル、ユキムラはあんな奴だから……
たぶん今、ただただ殺されて、何の意味があるんだろって気持ちになっているだろ?」
「ああ、正直、ただ辛いだけだね」
「俺もそうだった。
俺はこんな性格だから、なんとかしてユキムラをボコボコにするために歯を食いしばってついてきて、今、ようやく掴みかけてる。
だがな、掴みかけた理由は、本当はお前なんだよ」
「どういうこと?」
「……恥ずかしい話だが、カゲテル。
少し掴みかけてたろ。
座禅組んでた頃かな、あの頃、お前の気配が少し変わりかけてたんだ。
それこそユキムラたちの世界へ入りかけている気配……
そして、俺は、それに嫉妬した。
だから、今まで何も言えずに来た」
クイッと一気に杯を乾かしたガウ。
串焼きも一気に頬張る。
「カゲテルみたいな年下の後輩に、俺は本気で嫉妬しちまった……
情けねぇな。
でもな、その後ローザの知らせを聞いて、お前の気配がもとに戻った。
それに気がついていたんだが、俺は今日まで黙っていた。
すまねぇ……」
ガウがこちらに向き直し、深々と頭を下げる。
「やめてくれ、俺自身の問題だ」
「いや、上手く行かないお前の姿を見て、俺は……ほくそ笑んだんだ……
これで勝てるって……
やっぱ俺、馬鹿だよな……
こんなことで勝っても、惨めになるだけだ。
カゲテル、死を怖がるな。
今お前は、ローザと子供のことで、死ぬことが怖くなっている。
前のお前は、死の中に何かを見つけようと、死を受け入れ始めていた。
死の中に、俺達の答えがあるんだ」
「……死中に活を求める……」
「なんだそれ、カッコいいな」
「いや、遠い国の言葉なんだけど、絶体絶命な状況の中で生き残る道を探すっていう。
まさに現状を言い表している言葉だね」
「死中に活……」
「死を受け入れ、その中に活を見出す……確かに、最近死を怖がって身が固まっていた……」
「死は究極の脱力、その状況下での過去を一気に体験するほど頭は動いている。
それを合わせて奴の剣に対抗する。
それが……死中に活を求めるってことだと思う」
「なるほど……」
この日は遅くまでガウと死について討論した。
この経験が実を結ぶのに時間はかからなかった。