第89話 結実
5日の鍛錬。休み。5日鍛錬。休み。
基本的には、この繰り返しだ。
休みの日は、ピクリとも動けず、丸一日死んだように眠ることが普通だったが。
少し活動できるようになった。
ゆーーーったりと風呂に入ったり。
美しい自然(トウエン内の)を楽しみながら少しお酒を飲んだりする。
ユキムラさんもお酒は嫌いじゃないらしく、酒スライムの努力の結晶を楽しんでもらっている。
「よし、じゃぁ卒業試験に合格したら、秘蔵の一本をカゲテルに送るよ」
「ゆ、ユキムラさんの秘蔵ってどういうレベルでしょうか……?」
ごくりと喉が鳴る。
「うーん、人外レベル? 神のレベル?」
「死ぬ気で頑張り抜きます!」
「今までは死ぬ気じゃなかったんだ……もうちょいいけるのかフムフム……」
余計なことを言うもんじゃない。
しかし、大きな目標が出来て、さらに訓練に身を投じていった。
「よしよし、そろそろ中間テストに行こうか」
「はい!」
「よくある試験だけど、ダンジョン攻略してきて。
俺の把握してるダンジョンの一つと繋げるから」
「繋げる?」
「うん、こうやってゲートを作って、ほいっと」
扉の向こうはダンジョンだった。
「なんでトウエンを操作できるんですか……」
「もっと上位の力を持ってるからだよ。
自分も似た自分の領域を持ってるからね」
「グロンデのダンジョンじゃないですよね?」
「ああ、違うよ。難易度は同等かな?
表の最高峰と裏の初心者用はそんなに変わらないから……」
「裏?」
「ああ、今はそういう余計なことは良いから、さっさとクリアしてきてね。
マシューとネイサンは残って私と勉強だぞー。かえって調子に乗ったガウを叩き潰そうね」
「「はい」」
「負けねぇからな!」
「ガウは前向きだなぁ……」
「うるせぇ! カゲテルにだって負けねぇぞ!」
なんとなく、ガウはガウさんからガウになった。
「ふたりとも、いつまでも遊んでないで行くわよ」
「あ、はい」
ローザは少したくましくなった。
「マスター、先行しますね」
コウメイ達は基本一塊となっていることが多くなった。
形態を変化させて様々な状況に適応できるように徹底的に鍛えられている。
ダンジョンに入った最初の感想は……
「体が……軽い!!」
「嘘みたい、自分の体じゃないみたい!」
「ほんとによー、あいつの魔法は……半端なさすぎなんだよ……」
ガウががっくりと肩を落としている。
「でも、その分信じらんないほど強くなれるぜ!」
「マスター、正面の小部屋に魔物の反応多数」
「慎重に調べて」
「わかりました……フェンリル5体、キングゴブリン3体、グレイトフルオーガ4体、グランドタートル2体、リッチ2体……です……」
「……は?」
あまりにも突拍子のない魔物の名前の羅列に思考が停止しかける。
「一体でSランクの魔物、大安売りじゃねぇか」
「諦めて帰るってありかな?」
「いや、なしだろうな」
「どんな魔物も、的よ。当てるだけ」
「た、頼もしいね」
「マスター、先手を取ります、カウントお願いします」
「よし、みんな、行くぞ……5・4・3・2・1・Go!!」
スライム達の複合重合阻害魔法をかけながら突入する。
同時に部屋全体にスライムが体を広げ、魔物を捉える。
動きを封じた隙に俺たちが一匹づつ確実に仕留めていく。
俺はまずリッチ、動きの早いフェンリルはローザが優先して倒してくれる。
ガウはグランドタートルの強固な甲羅ごと叩き壊してくれる。
神聖魔法でリッチを浄化させたらすぐにゴブリンの処理だ。
スライムの消化に手こずっている間の無防備な首を刎ねていく。
最後に残るはオーガ、ローザの矢が脳天を貫いても暴れるほどのバカ耐力馬鹿なので、俺とガウのあわせ技で首を断ち切る。
しばらくジタバタと手足を動かしていたが、スライムに包み込まれて消化されていく。
「マシューとネイサンほどじゃないな」
「早いけど、意志があって狙いやすい」
「リッチの並行詠唱を分解してわかったけど、やっぱりユキムラさんは異常だね」
「でも……強くなってるわね、確実に私達」
「俺だって負けねぇぞ」
「コウメイ、どうだった?」
「ユキムラ様の召喚獣が、酷いということは理解しました」
「魔狼王ってフェンリルの上位特異体だよね」
「それを複数体同時召喚……」
「俺達の相手をしながら……」
「だからアイツは嫌いなんだ……」
その後も戦えば戦うほどに、ユキムラさんのシゴキの異常さが露呈していく。
このダンジョン、恐ろしいレベルの魔物が巣食っている。
おかげで武具がみるみるバージョンアップしていく。
「素材集めも兼ねてるんだね……」
「俺は鍛冶なんて出来ないから助かったぜ!」
「ユキムラさん、自分の装備全部自分で作ってるんでしょ?」
「アイツは、なんでも出来るからな」
「……ユキムラ様の装備は、何を使っているのかも、どうやって作るかも想像もつきません」
「大丈夫、俺たちも一緒に一歩一歩階段を登っていこう」
「マスター……」
このダンジョンの広大さに、ユキムラさんへの恨み節が止まらなくなるのには1週間ほどかかった……