第88話 研鑽
「ぐっうう……ぬぐぐ……ぐふっ……」
普通の大剣を素振りしているだけだが、ユキムラさんの魔法の影響で、体全体に凄まじい重力をかけられている。
「ほらほら、あと1875回」
「8126……っ! ……8127!!」
「ローザさん100射で97……あと300射連続ですね」
「は、はい……」
「ガウもちょっとデバフかけられただけでそんな子供にやられて悔しくないのかぁ?」
「ちょ、ちょっとじゃねぇ! だが、俺は負けん!!
マシュー、ネイサン!! かかってこい!! ぐぼらぁ!!」
「よそ見してる余裕はない! だよねユキムラさん?」
「そうそう、二人は筋が良いねぇ」
「9098……っ!」
「あー、剣筋ぶれてるよ、ちゃんと基礎を作らないといけないのに……
適当は駄目だよー1000回追加ね」
「は、はぁい!」
「よーし、ローザさん次は的がランダムで動くよー」
「は、はい……」
「コウメイは勝てたみたいだね。
次行くよー……召喚魔狼王……よっし、じゃあ、頑張って」
どう考えても普通じゃない狼の集団が現れる。
「は、はい……」
コウメイ達スライムはこんな感じでユキムラさんが召喚魔法で呼び出した召喚獣と戦闘を繰り返している。
「げぶっ!! まだまだぁ!! ぐばぁ!!」
「てい!」「とう!」
「なんだなんだ、皆どうしたどうした!?
元気なのはマシューとネイサンだけじゃないか?」
ユキムラさんにバフを掛けられたマシューとネイサンがガウさんをボッコボコにしている。
地獄絵図だ……
毎日毎日、朝から晩まで、訓練漬けの日々。
「さぁ! しっかりと食べようね!」
「うまい、旨すぎる!!」
ユキムラさんの料理は、天才的だ。
入れられている毒草一歩手前の薬草達を見事に料理に仕立て上げている。
「しっかりと食べて体を動かしてしっかり休む。
強くなるにはそれしかないからね!」
「体を動かして……」
「的を中央に入れて放つ、的を中央に入れて放つ、的を中央に入れて放つ……」
「ばべでどぅ、ぼべぼっべくれ(カゲテル、それとってくれ)」
「回復魔法は禁止だぞぉ、寝て直せば回復力も高まるからなぁ!」
ユキムラさんの魔封じを解除して魔法使える技術者は……ここにはいない。
クイーンは必死にそれをやろうとしている。
「基礎もできてないのに、応用をやろうとしても駄目だぞ」
ユキムラさんの基礎固めは……数ヶ月続いた。
様々な武器をユキムラさんは完璧に扱う。
改めて一緒にいて、この人の化け物っぷりがよく分かる。
「いい人じゃんユキムラさん!」
「凄く、かっこいい」
日に日にマシューとネイサンの評価が上がって、兄ちゃんは少し悔しい。
事実だから、余計に悔しい。
「よし、ローザさん、武器をこっちに変えて同じこと1からやってくよー」
「い、1から……こ、この弓……ひ、引くのが……」
「オーラ使ってオーラ、全開でギリギリいけると思うよ」
「全開で、ギリギリ……?」
「そうそう、その状態を当たり前にしようね。
あ、これ全員だからね」
「……」
「コウメイやスライムも覚えておいてね、このオーラをこうやって濃くしていくと、ほら色変わるでしょ。この状態じゃないと上位の悪魔の相手はほぼ無理だから。
あ、あと悪魔の強さは爵位だけじゃないよ、この間みたいに爵位はそこまでじゃないけど、戦闘狂いでしょっちゅう戦っているやつと爵位は高いけど殆ど戦っていないやつだと強いのは前者だから。弱いと言っても膨大な魔力での魔法攻撃は結構大変だけどね」
魔法という単語を聞いてクイーンが焦るのがわかる。
未だにユキムラさんが敷いている魔封じは解除されていない。
「ふむ、もっと魔法、魔力は繊細に扱おうね。
こんな感じで」
クイーンはユキムラが組む魔法を一生懸命再現しようと頑張っている。
キング達は召喚獣と戦い続けだ。
人形をやめてスライムらしい戦い方をするようになり、戦いの自由度は飛躍的に上がった。
「コウメイでも間違えるんだね」
「なに言ってるんだカゲテル君、マスターは君なんだから、君の頭以上のことを出来るわけ無いだろ。言いにくいことを言わせないように」
言いにくいことをズバッと言ってくるなぁユキムラさんは……ははは。
「ユキムラ相手より全然辛くねぇ!! ぐはぁ!!
骨も、おれねぇゲフっ!!」
相変わらずガウさんはボコボコにされている。
いやね、今の二人に襲われたら、俺もああなる。
「よし、今日からは午前中が基礎、午後は実戦形式でやろうか」
知らなかった。
死刑宣告って、生きていても有るんだなぁ……
その日から、ボコボコにされて回復力を高める訓練も追加された。
先の見えない訓練、それでも、一度死んだあの日の経験が、俺たちを誰一人諦めさせることはなかった。




